113.おじさん、ほっこりしてたら
シゲサトとの釣りをしてから、しばらく経った後、ジサンは牧場を訪れていた。
卵見守り中のディクロ、鍛冶施設のミスト、豚の飼育係のサイカと一通り巡回する。
最近、新たに迎え入れた精霊モンスターの”スプリング”も元気にしていた。
スプリングはどちらかというと少女の姿をしているものが多い精霊モンスターの中にあっては珍しく少年のような姿をしていた。
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精霊:
フレア
シード
”スプリング”
リトーション・シャドウ
ウェブ・シャドウ
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また、この日、ジサンはミストから新しい武器を受け取った。
先日のキリガミネ高原で入手したブラック・ストーン等を使用し、生成してもらった代物である。
そのため、ジサンは非常にほくほく気分である。
その後、アクアリウムへと足を運ぶ。
◇
「おうおう、ジサン、こいつはなかなかの上物だ!」
アクアリウムの大型水槽の前に行くと、ジサンに気付いたジイニがテンション高めに出迎えてくれる。
「実は自分でもそう思ってたんだ」
と、上機嫌なこともあり、このおじさんもノリノリである。
大型水槽を見上げると、シゲサトとの釣りでテイムした碧く美しい蛇のような姿をしたモンスターが気持ちよさそうに遊泳していた。
そして、そのモンスターはジサンの姿に気付いたのか、近づいて来ると、挨拶でもするかのようにくるりと回ってみせると、また水槽中央に戻っていく。
「ジサン、お前、モンスターになつかれるスキルか特性でも持っているのか?」
ジイニがじとっとした半眼でジサンを見つめる。
「え、いや……そういうのはないと思うけど……」
ジサンに特に心当たりはなかった。
「そうか、まぁ、いい……いやしかしだ。まさか幻獣……リヴァイアサンを寄こしてくるとは……流石の俺も思いもしなかった」
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リヴァイアサン(kid) ランクP
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「どうしてお前はそんなに尊大なのだ……」
ジサンの横にいたサラがぼそりと言う。
しかし、ジイニは気にしていない様子だ。
「ひとまずこれで大型水槽のメインとしては申し分ないだろう」
「本当か?」
「あぁ……」
「ということは……」
「いよいよ再オープンだな……」
「おぉ~~!」
ジサンは思わず小さく歓声をあげる。
「というかな、こいつのおかげ……いや、せいで……そろそろ再オープンしないとまずい感じだ」
「えっ? どういうこと……?」
「……見てみ」
ジイニが顎でリヴァイアサンの方を指す。
(……ん?)
リヴァイアサンは気持ち良さそうに泳いでいる。
と、急に何かを企んでいるような悪戯な表情を見せる。
「あ……!」
リヴァイアサンは大型水槽内を群泳していたイワシを十匹は食べてしまった。
「このように……な……満足そうな顔しやがって……」
「そ、そうだな……展示物を食べてしまうのはまずいか……」
「いや、イワシは緊張感がないと群泳しなくなっちまうから、これ自体はそんなに悪いことじゃないんだが、とにかくこいつの食欲がやばい……」
「……?」
「つまり食費がやばい……!」
「……!!」
「しかもこいつkidとか付いてて、サイズも小さめだ……」
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リヴァイアサン(kid) ランクP
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確かにリヴァイアサンの名称には、あまり見慣れないkidという文字が付帯していた。
幻獣というわりにはランクもPで控えめだ。
(kid…………つまり子供……)
「今のサイズでも結構、大きいと思うが……」
「いやいや、こいつはまだまだでかくなるぞ……」
「そうなると……」
「食費は更に跳ね上がる。そして、いずれこの大型水槽でも手狭になるだろう……」
「……!」
「つまり、何としてでも食費を稼いで、ついでにアクアリウムレベルを上げまくって、これよりも更に大型の水槽を使えるようになる必要がある!」
「……な、なるほど……再オープンか……」
ジサンの頭の中で、かつて受けた低評価の嵐がフラッシュバックする。
本当に大丈夫だろうか……と、少し気落ちする。
その時……
「大丈夫だ……! ジサン。俺が館長だろ?」
「……!」
ジイニは親指で自分を指差すようなポーズで言い放つ。
「……そうだな。ジイニが館長ならきっと大丈夫だ……」
なぜか自信満々なジイニのおかげでジサンの気持ちは少し楽になった。
「…………いや、むしろお前が館長だから心配なんだが……」
サラがぼそりと呟く。
「「…………」」
……そんな時であった。
「ん……?」
ジサンに通話呼び出しの通知が来る。ジサンは呼び出しに応じる。
「はい……どうした……? …………え゛っ!?」
◇
ジサンは急ぐ。
今日はすでに寄った場所であったが、状況が急変したとの連絡があり、再び向かう。
そして辿り着く。
牧場入口付近のログハウスである。
「……あっ……旦那さま! こちらです! 今度は見間違いじゃありません……!」
中に入るとディクロが孵卵機を覗いている。
「つ、ついに来たか……!」
ジサンも急ぎ、孵卵機の中を確認する。
すると、確かに卵が激しく揺れていた。
「さ、サラ……揺れているよな?」
「は、はい……マスター……確かに揺れています」
唯一、卵に大して期待していないのがサラだ。
そんなサラにこの卵の揺れが期待感による幻覚ではないことを確認する。
「こ、これは間違いない……! 生まれる……!」
「はい……! 旦那様……!」
と、卵に亀裂が入り、中から強い光が漏れ出す。
「っっ……!!」
「ぷぇ~~……」
「…………」
光が収まるとそこには60センチくらいの生物がいた。
「こ、これは……」
生物には”ペンギラゴン”という名称が表示されている。モンスターのようだ……
頭部は黒っぽく、足とツバサは短い。
しかしまん丸とした白いお腹でシルエットはペンギンであるが、なんとなく爬虫類っぽい雰囲気もある。どちらかというとペンギン・ドラゴンといった見た目である。
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ペンギラゴン ランクO
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「はぁ……よかった……」
ディクロは何はともあれ無事に卵が孵り、役目を果たしたことでほっとしていた。
「こいつ生まれた瞬間から明らかに卵より大きい……」
サラは不思議そうな顔をしていた。
そして……
(…………か……かわええ……)
ジサンは大変気に入ったようである。
ジサンがぼんやりとペンギラゴンを眺めながらシゲサトくんも欲しがりそうだなぁなどと考えていた。
すると、再び、通知を報せるポップアップが発生する。
(……今度は何だ……?)
それは、全プレイヤーに通知される”重要なお知らせ”であった。
「え……?」
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【エクセレント・プレイスからの重要なお知らせ】
こんにちは、エクセレント・プレイスです。
突然ですが、我々はプレイヤーをゲームオーバーたらしめる手段を有しております。
この度、エクセレント・プレイスは下記のように四つの地域を同時に襲撃することを決定いたしました。
◇
日程:
2043年6月1日 13:00
場所:
トウキョウ、イバラキ、キョウト、オオサカ
(詳細は襲撃開始1時間前に発表)
ルール:
レイドバトル(即死適用)
◇
繰り返しますが、我々はプレイヤーをゲームオーバーたらしめる手段を有しております。これまでも魔王討伐を達成したパーティメンバーを討伐してきた実績がございます。
素晴らしい場所を守るためにエクセレント・プレイスは今後も正義を執行し続けます。
以上。
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(え!? エクセレント・プレイス!? ヒロさんのだよな……? しかも6月1日って明後日じゃないか!?)
ジサンは苦手意識は抱いていたものの、それでもサロマ湖ダンジョンを共に旅したヒロの属するエクセレント・プレイスの犯行予告のような報せに、小さくはない驚きを覚えていた。
◇
==襲撃イベント板========================
12名無しさん ID:94j0jadl
エクプレとかマジかよ
27名無しさん ID:aqedinfsi
嘘だと言ってくれ、ヒロさん
50名無しさん ID:th5h495
キョウトなので逃げます。即死は流石にやばい
57名無しさん ID:ighe480
>>50
もう遅いぞ。バス停やばい
67名無しさん ID:39jadiad
>>50
戦え
105名無しさん ID:hfsxawat
>>50
強い奴ばっか狙ってるみたいだからお前は大丈夫だろ
110名無しさん ID:th5h495
>>105
おい、やめろ!
いうてキョウトつっても広いからへーきへーき
207 名無しさん ID:utbnacbus
自治部隊や三大パーティは動いてくれるのか?
213名無しさん ID:hfsxawat
>>207
自治部隊の実力にはあまり期待できない
222 名無しさん ID:cnfoiqr3h2r
>>207
襲撃箇所は四か所、三つじゃ足りない件
229名無しさん ID:hfsxawat
>>222
そもそも彼らは動いてくれるだろうか
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とあるアジトにて。
「あはは……荒れてる荒れてる……愉快愉快」
長い二つの耳のついた中性的な顔をした人物が掲示板を眺めながら満足そうな表情をしている。
「これはどういうことだ? ウサギ」
ウサ耳男性は不機嫌そうな中年男性に声を掛けられる。
「おや? ヒロさん、どうしたんだい?」
「茶番はいい」
「わーかってるよ。そんな怖い顔しないでおくれ」
「で、どういうことだ? と聞いている。ウサギ、てめぇ……エクセレント・プレイスの名を出すということがどういうことか……分かっていないとは言わせない」
「あぁ、わかっているさ。これでももうコソコソすることはできないね」
「コソコソ……?」
「コソコソさ……何か間違っているか?」
「……」
ヒロはウサギを睨みつける。
「だからさ、怖い顔は止めてくれないか? そもそも、今回の件は、ネコマルさんが勧めてくれたんだ」
「…………そうなのか? ネコ……」
ヒロは傍らにいた猫耳に語り掛ける。
「んニャ! 襲撃イベントについてオススメしたのは確かにうちニャ。参加者にはイベントモンスターに相応しい力を与えるのも許可されてるニャ。だけど、エクプレカミングアウトについてはうちは何も言ってないニャ」
「え? ネコマルさん、そうだったのかい? 僕はてっきりそういうものだと思ってしまったよ」
「とち狂いやがって……」
「ん? そうかい? ヒロさん、やっぱり僕は狂っているかい?」
「……は?」
「いやぁ、君に狂っていると言われて、僕は嬉しいよ」
「……」
「なんたって、君にファッション狂人だと言われて傷ついていたからね……」
「っ!? 根に持っていたのか?」
「いやいや、そんなことはないよ。ただちょっと君にファッション狂人とアドバイスを受けたせいで、自分が狂っていないと思い込んでしまった……というのは、あるかもしれないね」
「……っっ」
「まぁ、襲撃はシャドウメンバーの方でやっとくから、オープンメンバーは好きにしてくれ…………あっ、そうそう! 君がご執心のアングラ・ナイトは僕達がしっかりやっとくから」
そう言うと、ウサギは機嫌良さそうに、その場を去って行った。
「ちっ、いつからシャドウメンバーはお前のものになったんだ?」
ヒロはイライラとした様子で、いなくなったウサギに疑問を投げかける。
「……ネコ……わざとやったのか?」
そして、ヒロのきまぐれなパートナーにも質問を投げかける。
「さぁ~、どうだかニャ」
「……そうか」
「まぁ、ぶっちゃけうちはどっちでもよかったニャ」
「……そうか」
「ヒロは今回は協力しないのかニャ?」
「そうだな……だが……」
「ニャ……?」
「腹いせだ……少しくらいちょっかいを出すか……」
ヒロはニヤリと口角を上げる。




