106.大魔王さん、参加しない
「あー、できてますね、フレンド登録……」
「有難うございます、いつか何かお礼をさせていただきますので!」
ダンジョン入口付近で、コマリはジサンに感謝を述べる。なんだかんだあったものの無事に戻ってきたのだ。
「お礼なんて……なんか、むしろ付きあわせてしまったようですみませんね……」
「えっ? あ……あはは……だ、大丈夫です」
ジサンに謝られたコマリは苦笑いする。
「大丈夫ならよかった。疲れてないかと少し心配していたのです」
「あはは……」
ジサンは「大丈夫です」という言葉を言葉通りに受け取っているようで、こんなに過酷だなんて聞いてないよ! というコマリの心の声は聞こえていないようだ。しかし、散々ではあったが、彼女はなんとか目的は果たした。
「じゃ、お母さんだか妹のシック状態が治るといいな」
別れ際、ミストがそんなことを言う。
「は、はい、有り難うございました。それでは、また機会があれば……」
そうして、三人は去っていく。
「…………私が言うのもなんだけど、ちょっと変わった人達だったな……」
コマリはちょっと呆れたようにボリボリと頭を掻く。
「さ、帰ってお母さんに……って……あっ……お母さん……もうゲームオーバーしてるんだった………」
一人残された夜闇の中、ぽつりと呟く。
「………困ったなぁ」
◇
とある亜空間――
その空間には五つの席が円卓を囲うように設置してあり、それぞれの席には、その主が着いている。
「なんか最近、刺激が足りなくないか?」
大魔王:ルイスレスが開口一番、そんなことを言う。
「中継ぎ投入された魔帝とかいうのも大したことなさそうだしな」
ルイスレスは続ける。
「確かにそうかもニャ~」
猫耳の少女の姿をした大魔王:ネコマルもこれに同調する。
「私は結構、楽しめてるけどな~」
椅子に脚を組み、座っている白いワンピースの少女、魔神:リスティアはやや反対するような意見を述べる。
……そう、これはボス五者による"定例ミーティング"である。
==魔神・大魔王========================
<難易度><名称>
┗<報酬><説明>
魔神 レオメル
┗??? ???
魔神 リスティア
┗魔神:リスティア ???
大魔王 モドリス
┗魔具:複写石 任意の魔具を複製する
大魔王 ネコマル
┗航空機:01 海外エリアへ移動できる便を開通
大魔王 ルイスレス
┗<大規模DMZ> 一部の地域を人間の安全地帯とする
==========================
最上級公開ボス五者+αは、ゲームを面白くするために、大きな運営権限を与えられており、こうして定例でミーティングを行い、特別なイベントの企画などを行っていた。
そして、今日は大魔王の一角、ルイスレスが一つの提案をする。
「どうだろう? ここは一つ、モンスター側からアクションを仕掛ける様なイベントを開催してみるのは……名付けて"襲撃イベント"だ……!」
「襲撃イベント……どんな内容だい?」
魔神:レオメルが尋ねる。
「はい、ざっくり言いますと、各地にボスモンスターを出現させ、能動的にプレイヤーを襲わせるというものです」
「なるほどね~」
「私は反対だ。徘徊型以外のボスモンスターはあくまで受動的。プレイヤーの挑戦を受ける存在だ」
これまで黙っていた大魔王:モドリスが反対の姿勢を示す。
「あん? それじゃあ、刺激が足りねえって言ってんだよ……!」
「既存の枠組みを壊すなら、慎重に考えるべきだ」
「っ……!」
ルイスレスとモドリスは睨み合い、険悪な雰囲気になる。
「魔神のお二人はどう思われますか?」
モドリスが問い、まずリスティアが答える。
「うーん、私は個人的には反対……だけど、ルイスレスがそう思考するってことはある意味、これもAIの意思って気もするから、完全に反対ってわけではないかな……つまり許容する」
「僕はどちらでも構わない」
「レオメルはいつもそんな感じだよね、それじゃあ、モドリスが困っちゃうよ……」
「はは、すまない……」
「では、リスティア様が許容すると仰るなら……」
モドリスは襲撃イベントを受け入れる姿勢を示す。
「よっしゃ……そうと決まれば……」
「だったら、そのイベントの企画、ウチにやらせて欲しいニャ」
ルイスレスに割り込む様に、ネコマルがニコニコしながら立候補する。
「どういうことだ……?」
自分が企画する気だったのかルイスレスは少々、不快そうに確認する。
「ちょっと面白い企画を思い付いちゃったニャ! これまでのボスモンスターからは能動的に攻撃しないという枠組みをある程度、保ちつつイベントを実現できるグッドアイデアなんだニャ!」
「なんだと?」
「というわけで、ウチのモンスタープレイヤーの権限をちょっと増やして欲しいニャ」
ルイスレスの反応を無視して、ネコマルはそんなことを言う。
「元々、君には特別な権限があったと思うけど?」
「まぁまぁ、いいじゃニャい、いいじゃニャい! リスティニャ様! ゲームを面白くするためニャんだから」
「……」
「レオメル様、どうかニャ?」
「僕はどちらでも構わないよ」
「レオメル……この場面でそれは、もうYESとしか取れないよ」
リスティアは少し呆れたように言う。
「ニャ! 決まりニャ! それじゃ、"モンスター化プレイヤーの強化権限"と"そのプレイヤーによる全体メッセージの発信権"をいただくニャ。稟議……よろしくニャ」
◇
『サラ…………大魔王:サラ』
サラの頭の中で電子的な声が囁く。
「なに……?」
『"定例ミーティング"の結果をお知らせします』
サラには分かっていた。
データ・アーカイブの方から話しかけてくる時には大抵こんな話だ。
「……しなくていい」
『そうですか……貴方も任意参加の権利がありますが、参加されないのですか?』
「……しない」
『そうですか……』
「……」
データ・アーカイブもそれ以上、強要するようなことはしなかった。




