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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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101/120

101.勇者さん、強請る

(……前からいたかな……いたような気もしてくる……)


 いなかった。


「あ、紹介がまだでしたね」


 佇んでいた謎の人物に気付いたジサンにツキハが気付く。


「あ、こちらはですね。ジサンさん、驚いてください!」


「えっ?」


 ツキハが眩しさを覚えるほどの目の輝きでジサンに語りかける。



 ◇



 この時より前の出来事。


 時は三か月ほど前まで遡る。


 ツキハは何かに影響されたのかテイムに関心を持ち始め、興味本位で一体のモンスターをテイムする。


 それがこの隠魔王クラスのランクRモンスター”ライゲキ”である。いわゆるビギナーズラックなのか勇者さまの豪運なのか、はたまた誰かの恣意的な意図があったのかは不明だが、ツキハは大してランクの高くないテイム武器でいきなりRランクモンスターをテイムしてしまったのである。


 そして、それから一月後、現在から二か月ほど前、ジサンがシゲサトとジイニを巡る旅をしている頃。


 牧場にて――


「ねぇ、ダガネルくん、”使役”したいんだけど」


 ツキハは牧場で捕まえたオーバーオールのそばかす混じりの少年に単刀直入に伝える。


「使役……と申しますと?」


「とぼけないで欲しいなー。モンスターの使役のことだよ」


「へぇ、そうなんですか。テイマーにクラスチェンジすれば魔物使役のスキルを……」


「勇者に戻れないわよね?」


「え? そ、そうですね。ゲームの仕様上、それは致し方ないですね」


 上位職は片道切符である。同ランクのクラスにはクラスチェンジできず、上か下のランクにしかいけない。しかも一度、上下の階層にクラスチェンジすると二度と元のクラスには戻ることができない。要するに勇者から別のクラスにチェンジすれば、普通は二度と勇者には戻れないわけだ。


「だからそこを何とかする手段を聞いてるんじゃない」


「は、はぁ……僕はそういうのはちょっと……」


「本当にぃ?」


 ツキハは半眼でダガネルをじっと見る。


「…………」


 ダガネルは目を逸らすように沈黙する。


「私の見立てによると、貴方、相当な権限を付与されてるNPCでしょ?」


「うっ……」


「名前が表示されてない上に、牧場で相当、勝手気ままにやってるじゃない……」


「そ、そんなことは……」


 ダガネルは否定しようとするが、ツキハはそれを許さずに続ける。


「特にテイムや使役、モンスター育成に関連する情報は掌握していると睨んでるんだけど……」


「そ、それは……そうかもしれませんが……」


「だったら、教えなさいよ。いいじゃない、ちょっとくらい……! 減るもんじゃないでしょ!」


「ツキハさんだけに贔屓(ひいき)するわけには……」


 ダガネルはグイグイくるツキハからやはり目を逸らすようにする。


「ねぇ、ダガネル~~、私達が牧場、購入した時、”期間限定”5億カネって言ったわよね?」


 ダガネルは”ぎくっ”……という効果音でも聞こえてきそうな気まずそうな顔をする。


「い、言いましたっけ……」


「言ったわ。確実に言った。で、いつなら5億カネじゃなかったわけ? ねぇ……」


「そ、それはですね~~……」


「これって不当表示に当るんじゃない? “フェア”って言えるのかな~?」


 ◇


「アラ、月丸隊ノミナサマ、久方ブリデス。本日ハドノヨウナ冒険ヲゴ希望デ?」


 トウキョウ某所のクエスト斡旋所にて、受付嬢のNPCであるNVCさんが片言なりに少々、嫌味ったらしく言う。


「っ……」


 それを聞き、ツキハは歯軋りする。


「1時間ほど前に来たばっかりでしょ! 同じ奴を……!」


「承知シマシタ。少々、オ待チクダサイ」


「手短に頼むわ」


 NVCさんが何やら手続きを開始する。


「まさか、こんな大変だとは……ダガネルの奴ぅ……」


 ツキハは愚痴るように呟く。


「なぁ、ツキハさんよ……お前に付き合わされてるこっちの身にもなれ」


 ユウタが呆れるように言う。


「わ、悪かったわよ!」


「どならないで、運気が逃げそうだわ……」


 チユが無表情で囁き、二人は黙る。


「「「……」」」


「オ待タセシマシタ。クエストノ受注ガ完了シマシタ」


「ども……」


「デハ本日モ素晴ラシイ冒険ライフヲ」


「あんたも飽きずに毎回、よく言うわ。本日、十二回目だと言うのに……」


「仕事デスカラ」


 悪態をつくツキハに対し、NVCさんは真顔で応える。


 その真顔に適当に手をプラプラと振り、背中を向け、ツキハらはクエスト斡旋所を後にする。


 月丸隊の皆様はクエスト報酬”福引券Q”を求め、アザブ10商店街ダンジョンに無限湧きする魔公爵”ハハパス”討伐マラソンを実施していた。



 ◇



 ゲームにおける用語”マラソン”とは、特定のドロップアイテムなどの目的のために同じ敵を倒し続けるなど、一つの行動を繰り返すことである。


 月丸隊の面々がこのようなマラソンに到った経緯はやはり牧場の管理人ダガネルにあった。


「仕方ないですね。では、ヒントです。ツキハさん、実は過去に、今のツキハさんと同じようなことを思い、実行した人がいます」


 月丸隊の面々(主にツキハであるが……)がダガネルを問い詰めると、ダガネルはやれやれといった表情で語り出した。


「え……? 誰だろう……」


「流石に全てを教えてあげることはできません。考えてみてください」


「わかったわ……」


 ツキハは眉間にしわを寄せ、うーんと考え込む。


「私の知ってる人?」


「知ってる人です」


「知ってる人かぁ……うーん……」


 ツキハの知っている人で魔物使役をしている人物はそう多くない。

 一人はかつて彼女を救ってくれたおじさん。しかし、その人は出会った時からずっとアングラ・ナイト。それ以前のことは実はあまり知らない。

 そのため、その人物から何かの情報を引き出すことは難しい。

 ならば、もう一人の……


「…………あっ、シゲサトさんか!」


「さぁ、どうでしょう……」


 ダガネルは微笑むように誤魔化す。


 が、それは正解であった。


 シゲサトは剣聖からドラグーンへのクラスチェンジを果たしていた。それを可能にしたのは同クラスのクラスにチェンジできる”魔具:テンナビ”である。

 シゲサトの場合は剣聖やドラグーンへのクラスチェンジが可能である一つ下のクラス”剣騎”に戻れなくなっていたのが障壁であった。


 剣騎もすでに上級職であるため、剣聖から剣騎に戻ることができない。しかし、ドラグーンになれるのもまた剣騎であり、ドラグーンへのルートが閉ざされてしまっていたのだ。


 多少、異なる問題を抱えていたとはいえ、概ね似たようなことだ。


「なるほど! テンナビを手に入れて、一度、テイマーのクラスになって魔物使役を習得。テイマーから勇者と同ランクのクラスになって、そのクラスからテンナビを使って、勇者に戻ってくればいいってこと?」


「そうです」


「おぉー、そんなやり方があったとは!」


「ですが、ツキハさん、そんなに勇者に思い入れがあったとは……」


「う、うるさいわね……!」


 痛いところを突かれ、ツキハは少々、狼狽(うろた)える。

 多少、恥ずかしくもあったが、確かにツキハはこれまで命懸けの戦いを共にしてきたクラス勇者に対して、それなりの愛着があった。


「あれ? でも、勇者って魔物使役の特性を継承できるの? 出来なかったら、仮にテンナビがあっても意味ないじゃない!」


 リアル・ファンタジーでは、他のクラスで習得した魔法・スキル・特性はクラスにより引き継げたり、引き継げなかったりする。

 魔物使役の特性を継承できるクラスはある程度、限られる。ドラグーンやジェル・ナイトのように種族を限定した継承を行えるクラスもあるが、それを含めても多数派とは言えない。


「クラスレベル50までいけばできます」


「え? 本当!?」


 ツキハは驚くように言う。ツキハの勇者のクラスレベルは現在、64であった。つまり今すぐにでも魔物使役の継承が可能というわけだ。


「過去のタイトルでも勇者は魔物使役をしていると思うので不思議ではないと思いますが……?」


「AIがどの作品に影響(インスパイア)されてるかなんて、こっちは知らないのよ!」


「まぁ、確かに様々な作品のいいところ取りをしている感じはありますが」


 ダガネルは苦笑いする。


「んで、肝心の”テンナビ”。どうやって手に入れるのよ」


「……それは自分で何とかしてください」


「はっ? 嘘でしょっ? テンナビって魔王:エデンの報酬で、しかもすでにシゲサトさんに使われちゃってるじゃない! 詰んだ……」


「ツキハ」


「ん……?」


 黙って二人の会話を聞いていたユウタが口を挟む。


「本当かどうか知らないが、過去に掲示板において、魔王討伐以外の魔王報酬の入手報告がある」


「え……? ユウタ…………掲示板見てたの? ……メンタル強いわね」


「驚くのそっちか!」


「だって、あんた……散々、やれ整形だの、やれ女たらしだの、やれハチミツだの、なんだのって……」


「や、やめてくれ……」


 ユウタが額に掌を当て、苦い表情をする。

 ユウタはウォーター・キャットのユウタとプレイヤーネームが同じことをネタに心無い書き込みの被害を受けていた。無論、それはウォーター・キャットのユウタも同じであるのだが……


 なお、ユウタとユウタは当然、面識があり、ユウタはユウタのことを尊敬しているのだが、ユウタもユウタのことを一目置いており、ユウタとユウタは互いに認め合うユウタである。


「まぁ、それはいい……魔王報酬の入手報告……知りたいのか? 知りたくないのか?」


「無論よ……!」


「わかった……説明するぞ」


 それが彼らの地獄のマラソンの始まりであった。







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