memorys,89
「あけましておめでとうっ!!」
日付が変わると同時に、家族一斉、グラスを掲げながら声を発した。
様々な出来事の起こったフランス旅行も終盤を迎え、わたし達は神木さんとともに屋敷へと帰ってきた。それから時間は一瞬のように過ぎ去り、気付けばお正月を家族全員で迎えている。お父さんも涼華さんもギリギリお正月前には帰国でき、こうやってみんなで祝うことができた。ワイングラスを片手に笑い合うふたりを見ながら、わたしは久しぶりに感じる和やかな雰囲気を堪能する。
「あけましておめでとうございます、お嬢様」
「あ、あけましておめでとうございます……神木さん」
神木さんが屋敷へ戻ってきてからは、少しぎこちないながらも会えなかった日々を埋めるかのように他愛ないことを話した。だがしかし、そう簡単にふたりきりの時間をつくるのことはできなかった。その原因は、ある人物が関わっている。
「おめでとうございます、お嬢様、神木さん。今年もよろしくお願い致します」
にこやかに近付いてきたのは白藤さんだ。その姿を見た瞬間、神木さんは苦笑いを浮かべながら新年の挨拶を交わす。
それもその筈。わたし達がふたりきりになれない原因は彼のせいなのだ。帰国後から、神木さんとふたりになるとどこから聞き付けてきたのか白藤さんが必ず邪魔をしに来るようになった。確かに正々堂々とか、わたしを諦めたつもりじゃないとか言ってはいたけれど、ここまで割って入ってくるとは予想外のこで少々困っている。
「白藤さん、おめでとうございます」
わたしは神木さんを気にしつつ、笑顔で白藤さんにお辞儀をした。
確かに困っているのは事実だが、前よりもなんだか生き生きしながら神木さんやわたしに話しかけてくれるようになった白藤さんを見るのは嫌いではない。神木さんもたまに迷惑そうにはするものの、強ち本気で嫌がっているという訳でも無さそうっだった。
「お嬢様、まだ起きていらっしゃいますか?」
白藤さんが執事口調でわたしと神木さんの間に入る。
「えっと、もうそろそろ寝ようかな。明日は奏と初詣にいく予定なので」
「そうですか。でしたら、眠りが浅いと明日に差し支えますので後程ハーブティをお持ちいたします」
そう言った白藤さんをさりげなく肩で押しながらわたしの前に立つ神木さん。
「お嬢様、それでしたら久しぶりにミルクティなどはいかがですか?」
「え?」
「神木さん、温かいミルクは確かに眠りには効果的かもしれませんが、紅茶に含まれるカフェインが眠りの妨げになるのではないでしょうか? それならば、ノンカフェインのハーブティが今は最適かと思われます」
「あの……」
勝ち誇った顔をする白藤さんに対し、今回は敗けを感じたのか悔しげな表情をする神木さんにどう言葉をかければいいのか分からずに困っていると、わたしのスマホが鳴り出す。表示を見ると奏だった。
「ごめんなさい! 電話が来たので飲み物は大丈夫です」
わたしは逃げるようにスマホを片手に自室へと走った。
「奏、あけましておめでとう……」
『あけましておめでとう……ごめんね、急に電話して』
「いいよ。電話してくれて助かったし……それよりもどうかしたの?」
『実は急な仕事で明日、初詣に行けなくなったんだ。本当にごめん』
「そんな、気にしなくていいよ。仕事なら仕方ないから」
本当に申し訳なさそうにもう一度謝ってくる奏に、わたしは大丈夫だからと宥める。
『初詣行けなくなった代わりに、冬休みの中にわたしの家に遊びに来ない? 亜矢に紹介しておきたい人もいるから』
「え? 誰?」
『来てからのお楽しみ。また仕事が終わったら連絡するから』
「わかった。楽しみにしてるね」
そこで通話は終わり、ベッドに腰を下ろしたところで首を捻る。
奏の紹介したい人とはいったい誰なんだろう?
そう疑問に思っていると、強めのノック音が聞こえた。返事をしようと口を開き掛けるも、それも待たずにドアが勢いよく開かれる。
「入るぞ!」
「白藤さん!?」
いきなり乗り込むようにして入ってきた白藤さんに文句のひとつも言いたいところだったが、あまりにも険しい表情をしている相手を見てそれはできなかった。
「亜矢、今すぐ出掛ける準備をしろ」
「え? なんで?」
そう問い掛けるも、白藤さんは返事をすることなくクローゼットを開き、わたしのコートをハンガーから抜き取る。そして、今すぐ着ろと言うようにわたしの方への投げた。
「ちょっと! 何があったのか説明してよ!」
「倒れたんだ」
「え?」
「朝比奈財閥の会長、朝比奈 大志がさっき倒れて病院へ運ばれたらしい。容態は詳しく分からないが危険な状態らしいから、今から全員で病院へ来るようにと連絡があったんだ」
「そんなっ……」
「ショックを受けている暇はない。それを着て早く車へ向かうぞ」
そんなことを言われても、やはりショックは大きい。あのパーティでしか会ったことはないが、とても元気そうに見えたし、陽太さんが尊敬している立派な人だと一目で分かるような寛大な人。そんな人が倒れたと聞いて、驚かないはずはない。白藤さんに手を引かれながら、わたしは頭に過る嫌な予感を精一杯振り払おうと首を振った。
(きっと、大丈夫だよね)
外に待機されたリムジンの中へ乗り込むと、もう既にみんな集まっていた。やはりみんなの表情は暗く沈んでいる。その中でも陽太さんが一番苦しそうな顔をして思い悩んでいた。
(お兄ちゃん)
もしものことを考えると、今はどんな言葉も気休めにしかならない。陽太さんに声を掛けられないまま、わたし達の乗ったリムジンは病院へと向かい走り出したのだった。
神木さんと再び歩みだした亜矢にまたもや問題勃発の予感(;^_^A
白藤さんと神木さんの恋バトルをゆっくり書きたいとこですが(笑)
このまま新展開へ向けて突き進みたいと思います!!
今後ともよろしくお願いします。