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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第3章『執事にも覚悟が必要です!』
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 頭から手が離れていき、ゆっくりと下げられていく。


「週刊誌に載っていることが全て真実だとは限らない。けど、世間は記事になった事を“真実”と信じてしまう……それが一番怖いところだ。記者が亜矢のところにも来たということは“獲物(ターゲット)”にされた可能性もある」


 脳裏に浮かんだのは、あの人の言葉。


 “また来るよ、お姫様”


 今になって分かった。

 あの記者(ひと)は初めからわたしを狙っていたんだ。

 そして必ず、わたしのことを探ってくる。


 今度は別の声が頭の中を駆け巡った。


 “神木のために自分を犠牲にできる覚悟だ。お前は今の生活、家族を捨てられるのか? 大切なものを捨てる覚悟……お前に出来るか?”


(そうか……あれは)


 白藤さんの言った“覚悟”とは、大切なものを“なくす”意味じゃない。記事次第で全てを“敵”にまわしてしまう。誰も味方になってくれない現実を覚悟しろって意味だったんだ。


「亜矢?」


「あ、ごめん……ぼーっとしてた」


「不安にさせるようなことを言ってごめんな。けど、亜矢が危険に晒されないように守るから安心しなさい」


「ありがとう、お父さん……」


 笑顔で返したが、心に新たな不安が再び生まれる。


 わたしは何を言われてもいい。けど、神木さんはどうなってしまうんだろう。彼までもが傷つけられるような事が起こってしまったら、わたし達の未来に“幸せ”なんて訪れるのだろうか。







 亜矢が不安を抱える中、神木もまた思い悩んでいた。目の前で溜め息を付き、項垂れる陽太を無言で見据える。


「おかしいと思わないか?」


「え?」


「こんな急に父さんと亜矢を同時に狙い始めるなんて……記者がはじめから狙っていたなら再婚が決まった時に騒いでいたはずだろ? 今さら嗅ぎ回るなんて変だ」


 確かに、それは神木も思っていたことだった。


「……まさかとは思うが、今回の件……晶が絡んでるんじゃないかと俺は考えてる」


「俺があの話を断ったせいかもしれない」


「いや、パーティーの一件で、亜矢のことをよく思ってなかった。もしも、これにあいつが関わっていたとすれば記者の狙いは初めから亜矢だったんだ……だけど、これが晶の仕業だとは断言できないし、証拠もない」


 あの時の晶が去り際に言った言葉を思い出し、神木は悔しげに唇を噛んだ。


「あの日、亜矢を連れていかなかったら……記者に狙われる事はなかったかもしれない。きっかけを作った責任は俺にある」


「けど、いつかこういう事が起きるだろうとは予想していた。亜矢はもともと一般の家庭に育った普通の女子高生だ。そんな彼女がいきなり令嬢になったことで、いろいろ探りを入れたがる連中も多い……もう少し俺も警戒しておくべきだった」


 俯いていた顔を上げ、陽太は顔を歪ます神木に目を向ける。


「今回はただ記者に目を付けられただけじゃなく、裏で晶が記者を操っているとしたら……もっと厄介な事になるぞ」


「ああ、わかってる」


 事態の深刻さを痛感し、神木は深く頷いた。


「亜矢を狙ってきた記者はいずれまた現れる」


 陽太は真っ直ぐ神木を見つめ、真剣な面持ちで告げる。


「誠……お前も注意しろ。お前は冷静だし、慎重だから心配ないとは思ってる。けど、どんな所で見張っているか分からないのが記者(やつら)の怖さでもある」


「しばらくは、亜矢とふたりで居るのは避けるよ。彼女には俺から伝える」


「悪いな。けど、今は距離を置いてくれ……彼女を傷付けるわけにはいかないんだ」


 晶に対しての怒りと、記者から亜矢を守ってあげられなかった憤りに、顔を歪まず陽太。


「それは俺も同じだよ」


「本当に亜矢を守れるのは誠……お前以外いないんだ」





 “守る”とは一体なんなんだろうか?




 そんな疑念が頭の中に広がっていく。小さな不安は次第に大きくなり、それは神木にある決意をさせてしまう。


「陽太……俺が亜矢を守れるとしたら方法はひとつしかないのかもしれない」


「誠? お前、今なにを考えてる?」


 追い詰められた面持ちでこちらを見据える神木に、陽太は嫌な予感を感じた。









 父と話した後、亜矢はひとり部屋を出る。自分が抱える不安を少しでも和らげたくて、どうしても会いたいと思ったからだ。


(神木さん……どこに居るかな)


 今朝、顔を会わせたきりだったから、尚更声が聞きたい。


 そう思っていると、書斎のドアが勢いよく開け放たれた。


「待て、誠っ! お前っ……!?」


 部屋を飛び出した神木を慌てて止めようと手を伸ばす陽太と目が合う。神木も遅れて気付き、どこか困惑を滲ませた。


「お兄ちゃん、神木さん……どうかしたの?」


 ふたりの気まずそうな雰囲気に気付きながらも、わたしは笑顔で問う。普段であれは、どんな状況でも冷静な神木さんならば何事もないように執事スマイルを浮かべていた。しかし、苦しげな表情を笑顔に返ることもなく、目線を附せたままわたしの横を横切る。


()()()、おかえりなさいませ……すみませんが急ぎますので失礼致します」


 そのまま自分の後ろを歩いていく神木さんの方へ振り返った。


「なんで?」


(どうして、急に“お嬢様”なの?)


 急激な態度の変化に、嫌な胸騒ぎが身体中に押し寄せてくる。


「亜矢、気にしなくていい……俺と言い合いになって機嫌が悪いだけだから。今日はもうお前も休んだ方が」


「ごめん! わたし、神木さんと話したいから行ってくる!」


「おい、待てって!」


 陽太の制止の声を聞くことなく、わたしは神木さんを追って走り出した。

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