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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第3章『執事にも覚悟が必要です!』
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memorys,43

 あっという間にハワイ旅行も残り一週間を切った。


「ねえ? みんなに提案があるんだけど」


 目の前のテーブルに朝食が並べられていく中で、涼華さんがにこやかに話し出す。


「今日はみんなでショッピングしない? 海で遊ぶのもいいけど、やっぱり旅行と言えばショッピングでしょ? ねっ、亜矢ちゃん」


「わたしも行きたかったんです! ハワイのお店見たかったから、賛成です!」


 どんなに年代が離れてはいても同じ女子同士。惹かれることは同じようだ。しかし、男の人からすれば“ショッピング”は少々気が重いのか反応は今ひとつ。


 しかし、男の人でもショッピングに反応する人もいる。


「いいな! ハワイ独特の生地を使ったウェディングドレス……よし! みんなで行こう!」


「まぁ、せっかくの旅行ですからね。ショッピングぐらいは付き合います」


 ノリノリの父に同意するように、陽太も賛成を述べる。だが、やはり暉は憂鬱そうな顔を浮かべていた。けど、反対をしないところをみると、行きたくない訳ではないようだ。


(もしかして置いてきぼりが嫌だったりして)


 もしそうなら、案外かわいい面もあるんだなっと少し微笑ましかった。








 身支度を整え、わたし達はホノルルにある人気のショッピングセンターへ訪れていた。様々なお店が並ぶ中で、多くの人が行き交う。


「一度はぐれたら迷いそうだな……」


「最近できたばかりで、観光客の方たちにも人気のようです」


 陽太の呟きに、神木さんが笑顔で答える。


 神木さんと白藤さんも涼華さんの指示のもと同行することになった。しかも、いつものような執事服ではない。ラフなTシャツを着た神木さんの私服姿に思わず顔が緩んでしまう。


「早速だけど、ふたてに分かれて買い物をしましょう。わたしは亜矢ちゃんと、俊彦さんは息子たちをよろしくね」


「えっ、せっかくみんなで来たのに分かれちゃうんですか?」


「やっぱり女は女同士、男は男同士の方が買い物も盛り上がるでしょ?」


 確かにその通りだ。納得したように軽く頷く。


「と言うわけで、夕方またここへ集合……それでいいかしら?」


 こんな時、いつもの父ならみんな一緒がよかったとか言い出しそうだが、今回は即座に賛同を示した。


「たまには男同士で買い物も悪くないな。陽太くんと暉くんもそれでいいかい?」


「俺はそれで問題ないですよ」


「僕もどっちでもいい」


 ふたりの言葉で“決まりだな!”と張り切った声を出す父に、涼華さんがおかしそうに笑う。


「それじゃあ、神木くんは俊彦さんたちに付いていってくれるかしら?」


「畏まりました」


 涼華さんの指示に、神木さんは父の方へ体を向けた。


(……神木さんとは離れちゃうのか)


 少し残念に思っていると、不意に近付く人物に気付く。


「それではわたしは奥様とお嬢様に付き添わせて頂きますね」


「よろしくね、白藤くん」


 流れ的に予測はできたのだが、わたしは気まずい面持ちで相手に目を遣る。にっこりと執事顔を浮かべる白藤さんに、なんとか笑顔を作った。


「よろしくお願いします」


 “あお兄”としてなら素直に喜べるのだが、この間の一件以来どうも会話しづらい。そんなわたしを余所に、涼華さんは明るく言った。


「さぁ、楽しいショッピングにしましょうね! 娘と一緒に買い物に出掛けるのが夢だったから嬉しくて……柄にもなくワクワクしちゃってごめんなさいね」


 心の底から嬉しそうにする相手を見て、わたしは今気にしている事を胸にし舞い込み、気持ちを改める。


(こんなに楽しみにしてくれてる涼華さんに、考え事で上の空なんて失礼だよね)


「そんなことないです。わたしもワクワクしてきました! いろんな店を見て回りましょう!」


「なら、気合い入れるわよっ」


「それでは参りましょう」


 白藤さんの誘導とともに、わたし達は賑わう人が行き交う中へと足を向けた。







  ◇◇◇  ◇◇◇






 あれから数時間が経つ。


 洋服にバック、靴にアクセサリーと入る店で何かしら買う涼華さんに唖然としてしまうのはわたしだけではなかった。側にいた白藤さんも似たような心境のようで、僅かに執事スマイルが引きつっている。


「これも亜矢ちゃんが着たら絶対に可愛いわよ!」


「涼華さん、服ならさっき買ったから大丈夫ですよっ」


「女の子はオシャレが大事よ! いくらあっても困らないじゃない」


 わたしの静止は最早聞いていない。また別の棚に目を光らせて行ってしまった。買い物をしだしてから、この数時間ずっとこんな調子だ。しかも、さっきからわたしの物ばかりで、涼華さん自身のものは余り買っていない。


「わたしはひとつで十分なのに」


「買い方はお嬢様育ちのせいで歯止めがないから仕方ないだろ」


 涼華さんが離れた場所で夢中に服を選び出したのを見計らって、白藤さんが執事口調を外して話し掛けてきた。彼の両手には先程買った紙袋がたくさん握られている。顔は見るからに疲れきっていた。


「なんでも“お嬢様”だからって強調しないで下さい。女の人はオシャレが好きなんですよ!」


「そんなのは分かってるよ……加減の問題だ」


「まあ、確かに買いすぎだよね」


「はじめてお前と買い物をしてるから余計なんだろうけどな……きっと、お前の言う“家族”らしいことがしたくて堪らなかったんじゃないか?」


 そう言って小さく笑う。


「そっか……」


 思えば、涼華さんとは初めから仲は良かったけど、親子らしいことはしたことがなかった。


「そう言うことなら、とことん涼華さんと楽しまなきゃ!」


 まだ服選びに集中する涼華さんのもとへと駆け寄る。そんなわたしの背中を溜め息混じりで見つめながらも、白藤さんの表情はどこか嬉しそうだった。

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