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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,16

第2章は引き続き兄弟との進展

そして、亜矢のあの人への想いと関係の変化を

描いていく予定です(’-’*)♪


どうぞ温かく見守って頂ければ幸いです!

 5月に入り、わたしは次のテストに向けての勉強ともうじき開かれるパーティーのためのお嬢様レッスンに明け暮れた日々を過ごしていた。


 日中は学校、帰れば食事、会話、ダンスのレッスン。夜は寝る間を惜しんでのテスト勉強。


 自分でも無理をしているとは思うのだが、何かに急かされてるように没頭していた。あの日以来、ダンスは陽太さんか暉くんが交互に練習に付き合ってくれているため、神木さんとダンスしたのはあれ一度きり。


 残念に思いながらも、なんでかホッとしている部分もある。その理由を知りたいと強く思いながら、なぜか忘れなきゃいけないという衝動に駆られ、考えないようになっていた。だからこそ、今の忙しさにのめり込んでしまったのかもしれない。


 今日もなんとか睡魔と戦いながら夕方を迎え、陽太と約束したダンスレッスンをするためにホールへと向かっていた。欠伸を噛み締め、ぼんやりしながら歩く。すると急に両肩を捕まれ、勢い良く後ろへと引っ張られた。


「へっ!?」


 後ろへ顔を向けると、何故か焦った顔をした陽太さんと目が合う。


「陽太さん?」


「前を見ろ!」


「前?」


 改めて自分の歩こうとしていた方向を見てみると、あと一歩の距離に階段があった事に気が付く。


「危うく落ちるところだった」


「ご、ごめんなさい! ぼーっとしてて」


「俺が来たから良かったが、もう少しで大怪我するとこだぞっ」


「ごめんなさい……」


 自分の不注意で迷惑を掛けてしまった申し訳なさに、わたしは情けなく俯く。


(迷惑掛けないって決意したばかりなのに……何やってるんだろう、わたし)


 肩を落とす様子に、陽太さんが先程より優しい口調に変えて話し始めた。


「怒ってる訳じゃないんだ。心配して、ついキツイ口調になった。すまない」


「いえ、陽太さんのせいじゃ……自分が駄目すぎて情けなくて」


 小さく笑い返すと、陽太さんがすっとわたしの手を取る。


「亜矢、今日はダンスレッスンはやめて俺に付き合ってくれるか?」


「え? けどっ」


「たまにはいいだろ」


 陽太さんはそのままわたしの手を引き、ある場所へと向かった。





  ◇◇◇  ◇◇◇




 連れてこられたのは、前に神木さんと来た衣装部屋だった。そこで、陽太さんに渡された一着のドレスを試着する。


「あの、着ましたけど……」


 カーテン越しに告げ、そっと隙間から顔を覗かせると、出ておいでと言うように手招きしてみせた。言う通りにして試着室から出ると、陽太さんは笑顔で頷く。


「うん、いいじゃないか……似合ってるよ」


 濃い藍色は下に向かうにつれ淡い水色へと変化し、綺麗なグラデーションを作り出していた。レースが重ねられ、ふわっとした胸元には、同じく陽太さんの選んだダイヤのネックレスが眩しいぐらいに光り輝いている。背中半分が露わになり、腰には藍色のリボンが付いていた。


 可愛らしさと大人っぽさがうまく混じり合ったドレスに、わたしも思わず見とれてしまう。しかし、鏡に映る自分を見て少し表情を曇らせた。


「なんだかわたしには勿体ないです」


 そんなわたしを見た陽太さんが一歩近付き、顔を覗き込む。


「一体なにをそんなに悩む……このところ少し頑張りすぎじゃないか?」


「そんなことは」


「俺じゃ、相談相手にならないか?」


「違います。そうじゃないんです……」


 もう一度、鏡に映った自分の姿に目を向けた。


「勉強もレッスンも頑張って、早くみんなに相応しい“お嬢様”にならなきゃならないのに……なかなか上達しなくて、それが申し訳ないんです」


「なんで、そう思う?」


「だって、わたしが足手まといになったらみんなにまた迷惑かけちゃいますし……こんなわたしが“令嬢”になんてなれっこないかもしれないけど、少しでも陽太さんたちに釣り合えるようにって」


 突如、暖かな手が頭に乗せられる。


「落ち着け……大丈夫だ。大丈夫だから」


 まるで呪文を唱えるように繰り返され、わたしはゆっくりと陽太さんの方へ目線を移した。安心させるように、陽太さんは優しく微笑む。


「亜矢は亜矢のままでいい。成績はもう気にしなくていいから……あれは俺が勝手に八つ当たりして言った事だ。気にすることはないよ」


「陽太さん」


「それに今の俺は亜矢に“完璧なお嬢様”なんて望んでやしない。母さんもきっと同じな筈だ……パーティーで令嬢になった君を見たい訳じゃなくて、ありのままの君をみんなに見せたいんだと俺は思う。だから“令嬢”になんてならなくていいんだ」


 すっと心が軽くなるのを感じた。


「それに……だな、亜矢は……今のままでも十分素晴らしい女性だ!」


 照れながら言い放った言葉に、思わず笑みを零す。


「ありがとうございます、陽太さんっ」


 何かが吹っ切れいつもの笑顔に戻るも、何故か陽太さんが眉を顰め、更に顔を近付けてきた。


「それより戻ってるぞ」


「え?」


「みんなの前でも俺は“陽太さん”のままなのか?」


 真面目な顔でそんなことを言うものだから、おかしさを我慢できずに吹き出すように笑ってしまった。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 笑いを押込み、笑顔で言い直す。陽太さんは照れながらも、満足そうな顔で笑った。




 そして、それから忙しいながらも平穏に時は流れ、いよいよ朝比奈財閥のパーティーの日を迎えた。

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