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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
最終章『執事と永遠の愛を誓います!』
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memorys,124

 3か月後。

 今日はわたしと神木さんの婚約披露パーティー。九条家、朝比奈家がわたし達を祝うために大広間に集まっていた。その中には、わたしが呼んだ奏と譲流くんの姿もある。


「みなさま、今日はお集まりいただきありがとうございます。本日は今月式が決まりました娘の亜矢と神木くんを祝うための場を設けました……どうぞ、最後まで楽しんでいってください」


 緊張で強張った顔をしながら父がマイク越しに挨拶をすると、辺りは拍手の音で溢れ返った。


「亜矢もようやく結婚かー」


 しみじみしたような口調で奏が呟く。ゆったりとした赤のロングドレスに身を包んだ奏はまるで自分のことのように喜びながら、大事そうにお腹を撫でた。


「だいぶ大きくなったね……予定日いつだっけ?」


「来月……亜矢の結婚式には出られそうで良かったよ」


 今2人目を妊娠中の奏はもうすっかりお母さんの顔だ。


「今日は旦那さん来てないの?」


「上の子が熱出しちゃって一緒に留守番なんだ」


「そっか、残念。結婚式には一緒に来れるといいね」


 そこへ奏のためにソフトドリンクを持ってきた譲流くんがやってくる。


「はい、奏……」


「お兄ちゃん、ありがとう」


「譲流さん、この間は無理を聞いていただいてありがとうございました」


「いや、無理なんて……亜矢ちゃんの記念すべき日に着るものなんだから、どんどんアイデア言ってくれて構わないよ」


 実は結婚式のお色直しの着物を譲流さんにお願いしていたのだ。そして、メインのウエディングドレスはお父さん、それに合わせたアクセサリーを光彦さんが手掛けてくれることなっている。みんなの想いが募った結婚式になると思うと、今からそわそわしてしまうほど嬉しさが込み上げてきた。


「それより、結婚したら亜矢たちはどこで暮らすの? 神木さんは執事のままってことは、このまま家で新婚生活?」


「最初はそうしようかと思ってたんだけど、涼華さんがせっかくの新婚生活なのに実家暮らしは味気ないって……うちの敷地に別邸建ててるんだ」


「なんか涼華さんらしいアイデアだね」


「奏さん、譲流くん」


 少し離れたところから光彦さんがふたりに向かって手を振る。


「あ、この間のファッションショーの話をしなきゃならなかった……」


「ごめんね、亜矢……また後で」


「うん」


 最近、子供向けのファッションショーで人気が出ているらしく、そのためのアクセサリーを光彦さんに頼んでいるようだ。奏も子供服のアイデアを出すために譲流さんに協力しているらしい。


「わたしも頑張らなきゃな」


「とか言いながら今はデザイン部門に異動できて、ちゃんとやれてんじゃん」


 横からひょっこり現れたのは、片手にシャンパンを持った白藤さん。どうやらわたしのために持ってきたようで、何も言わずグラスを差し出す。


「ありがとう。ちょうど取りに行こうと思ってたんだ」


「神木の奴はどうした?」


「なんか職業病みたいで、料理が足りないって厨房に」


「相変わらず仕事馬鹿だな……主役らしくいればいいのに」


「そこが神木さんらしいとこだけどね」


 “確かにな”と微笑む白藤さんだったが、途端に真顔になる。どうしたのだろうかと思っていると、いつも掛けている眼鏡をおもむろに外してしまった。白藤さんが眼鏡を外したのは今日で二度目。一度目のことが頭に蘇り、少しだけ心臓が跳ねた。


「神木と結婚しても俺はお前の一番の理解者だから……困った時はいつでも頼れ。俺はお前の“あお兄”なのはずっと変わらないから」


 なんだかんだ、白藤さんはいつもわたしに寄り添ってくれる。あんな結果になってしまって傷付いただろうし、会うのだって気まずかったに違いないのに、いつも変わらずに接してくれた。子供の頃に偶然出会っただけなのに、わたしを守ろうと必死になってくれた彼には感謝しかない。


「ありがとう、あお兄……」


「いいか、幸せになれよ……お前は笑顔が一番似合う」


 少し儚げに白藤さんが微笑んだ瞬間、会場内に涼華さんの声が響き渡った。


「これからダンスタイムにしたいと思います。どうかお近くの人と自由にダンスを楽しんでみてください」


 言い終えたタイミングでテンポの良い曲が流れだす。


「え!? ダンスなんて聞いてないよ!」


 こういう予想外なことをやってしまうのは涼華さんらしい。しかし、いきなりダンスと言われても肝心の相手になる人がいないことにわたしは焦った。


「神木呼んでくるか?」


 白藤さんの気遣いを受け入れようかと迷っていると誰かに肩を叩かれる。振り返ると、こちらに手を差し伸べる暉くんが立っていた。


「亜矢……僕と踊ってくれない?」


「暉くん」


「神木さん居ないんでしょ? なら、断る必要ないよね」


 いつになく強引にわたしを引っ張っていき、あっという間に部屋の中央に連れていかれてしまう。暉くんの申し出を断る理由もなく、わたしは暉くんと踊ることを選んだ。


「うまくなったじゃない。最初の頃は四苦八苦してたのに……亜矢も成長したね」


 ふんわりと微笑む暉くんをわたしはまじまじ見つめる。


「暉くん本当に変わったよね。前ならこんなに行動的じゃなかったし……表情豊かっていうか、雰囲気が柔らかくなった。やっぱり、彼女が出来たから?」


「彼女の影響は確かに大きいよ……無鉄砲で、どんな状況でも自分らしさを忘れない自由さがあって、まるで君そっくりだ」


「え? わたし?」


「僕が変われたのは、彼女のおかげではあるけど……変わるきっかけをくれたのは君だよ。女なんて嫌いだった。嘘をついて、邪魔をして、武器で涙を見せて、正直鬱陶しい存在としてしか見てなかった」


 暉くんは少し目を逸らし、何かを思い出しているような顔をした。


「けど、君と関わってからいろいろ考え方を変わったんだ。あの頃はどうして彼女があそこまでして僕の邪魔をしたかったのか少しも考えずに、傷付いたのは自分だけだと被害者ぶってた」


「でも傷付けられたのは事実なわけだし……」


「いや、僕は大して彼女が好きだったわけじゃない。ただ告白されたから付き合って、恋人らしいこともしないままヴァイオリンに打ち込んで彼女をほったらかしにしてた……けど、彼女は真剣だった。そんな彼女の心を知ろうともしないで突き放して、傷付けたのは僕だったんだ。被害者は僕じゃなくて彼女だったのかもしれない」


 そう話し終えると、ふっと暉くんは笑みを浮かべる。


「君が泣いたとき、素直に奇麗だって思えた。がむしゃらに頑張って、どんな環境も自分で乗り越えようとする……無茶ばっかりで危なっかしくて目が離せない。君を見て初めて女性は弱いけど強い生き物だって知った。きっと彼女は弱かっただけかもしれないけど……亜矢みたいな人が居るって知ったから女も嫌いじゃないかもって思えたんだ」


「そ、そっか……ありがとう。そんな風に褒めてくれるなんて……なんか照れる」


「亜矢は大事な家族だけど、僕にとっては初恋の人だよ」


 その言葉に思考が止まった。だが、同時に曲も終わってしまい聞き返すことも出来ないまま暉くんは離れていく。


「神木さんとお幸せに」


 そう言って背を向けた暉くんにわたしは何も返せなかった。

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