memorys,116
ついに最終章となります!
亜矢と神木さんの恋の行方を
どうぞ最後までご観覧頂けると嬉しいです꒰ঌ( ˊ˘ˋ)໒꒱
4年後。
「亜矢、空港に着いたら直ぐにGlassの本社に向かって記者会見だけど……時差ぼけとか大丈夫?」
「大丈夫。あちこち飛行機で飛び回ったおかげで時差ぼけも感じなくなっちゃった」
飛行機の中でわたしを気遣う神木さんに笑顔で返した。そこに隠し事はないと確信したのか、安堵したように肩を下ろす神木さん。
海外へ行くとみんなに宣言した日から数か月も経たず、わたしは神木さんとともにフランスへと飛び立った。海外の学校に留学し、デザインと経営を学びながら、ある人を見つけるためにあらゆる国を飛び回った日々。4年という長い期間ではあったが、わたしにとってはあっという間だった。
幾度も挫折しそうになったが、それでも諦めずに済んだのは隣に神木さんがいてくれたおかげだろう。だからこそ、今日胸を張って日本へ帰ることができる。
「みんなに会うのが楽しみ」
「そうだね。なんだかんだ忙しくて4年間会えずに終わったから……旦那様たち、今日をずっと楽しみに待ってると思う」
もうじき空港に到着することを知らせるアナウンスが流れ、わたしは記者会見よりも家族と会える嬉しさに体を震わせた。
「神木さん、服装とか変じゃないかな? 化粧も濃くない? 髪も乱れたりとかしてない?」
4年間、デザインのほかにもファッションやメイクも勉強してきたが、今一つ自信に欠ける。記者会見用に選んだ落ち着いた雰囲気の紺色のジャケットとスカート。4年間でだいぶ伸びた髪を一つにまとめ、耳元と首元には控えめながらも存在感漂うGlassのアクセサリーをつけた。メイクも神木さんには頼まず自分でやったのだが、これで正解だったのかと今更不安を覚える。心配が膨らんできてソワソワし出したわたしを見て、神木さんはおかしそうに笑う。
「あれだけ勉強してきたんだから自信もって。今の亜矢は本当に奇麗だよ……こんなに奇麗に成長した姿を見たらみんな感動するに違いないよ」
「あ、ありがとう……」
家族には恋人であることを認めてはもらったものの、海外で過ごした4年間、神木さんとは恋人らしいことは一切なかった。わたしは勉強で手一杯だったし、神木さんには別件で色々調べものを頼んでいたため、ほとんど擦れ違いの生活だった。だからなのか、急に“奇麗”なんて褒められると、付き合いたての頃のようにドキドキしてしまう。
「4年も経ってるから、みんな変わってるかな? 暉くんとか大人っぽくなってそう」
照れ臭さを誤魔化すように、わたしはまた家族の話題にすり替えた。
「そうですね……暉さんも色々ありましたから、見た目以上に中身もご成長されていると思います」
4年間、家族と全く音信不通だったわけではない。連絡はこまめに取り合っていた。何かあれば直ぐに涼華さんや陽太さんから報告の電話が来ていた。その中で一番驚いたのは暉くんのこと。
わたしと神木さんが海外へ発った後、なんと暉くんまでもが海外へ行くことを申し出たのだ。一度、女の子からの執拗な束縛によって人に壁を作って関わらないようにしていた暉くん。そんな彼がひとり、バイオリンを本格的に学ぶためアメリカの音楽大学へ進学したいと言い出した。いろんな人と関わって、自分の可能性をもっと広げてみたいとお父さんと涼華さんに話したらしい。きっと、わたしの決断が暉くんにも大きな心境の変化をもたらしたのかもしれないと陽太さんは言う。
宣言通り高校卒業とともにアメリカへ渡った暉くん。一番変化しているのは、もしかしたらわたしなんかよりも彼かもしれないと思った。
そんなことを考えているうちに飛行機は無事に空港へ降り立ち、わたしと神木さんは久しぶりの日本の地へと足を踏み出す。みんなが出迎えしてくれているだろうかとワクワクしたのも束の間。空港で出迎えたのは家族ではなく、出待ちしていた記者たちだった。
「朝比奈 亜矢さんですね! 今回の帰国はGlassの後継者になるという発表をされるためというのは本当なのでしょうか!?」
「Glassの会長とは血縁関係という噂も出ていますが……後継者になるということは、その噂は事実と受け止めてもよろしいでしょうか!?」
目が眩むようなフラッシュの光と顔に向けられるマイク。それから守るようにわたしを後ろに下がらせた神木さんだったが、周りを囲まれてしまったせいでなかなか出口へ行くのは難しい状況となった。
そんな時……
「おいっ、あっちを見てみろ!!」
誰かが別の方向を指だし、大声を出す。その声で一瞬だけ記者たちの目線がわたし達から逸れた。
「こっちだ!」
いきなり神木さんとわたしの腕を引き、記者たちの中を掻き分け進もうとする見知らぬ男性。わたし達が走り出したことで記者たちは慌ててこちらに向かって追いかけてくる。
「出口に車を停めてあるから、そのまま乗り込め!」
得体の知れない人物を信用していいのか迷ったが、このままでは記者会見には間に合わなくなってしまう。そう判断したわたし達は、男の言う通り出口を出て直ぐ停められていた黒のワゴン車に飛び乗った。記者が追いつく前に何とか扉に鍵がかかり、そのまま男は車を発進させる。後部座席の窓を覗くと、悔し気にその場から解散する記者たちが見えた。
ホッとしたが、そうもいかない。
今運転している男は一体何者なのか。色の着いたサングラスに黒の帽子と顔を隠されていて、怪しいとしか思えない彼にわたしは恐る恐る話しかける。
「あの、助けていただいてありがとうございます……あなたは」
すると、男はそっとサングラスを取った。