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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第6章『執事も決心しなければなりません!!』
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memorys,107

 結局、あれから寝れたものの数時間で朝が来てしまった。

 寝不足からか、ぼんやりと頭が重い。それでも、神木さんのおかげもあって、だいぶ気持ちも落ち着きを取り戻したように感じられた。


 そして、涼華さんとお父さんの三人で警察署へと行き、昨日起きた出来事をすべて説明する。二時間ほど掛かり、ようやく解放されたわたしにお父さんはいつも通りの口調で言った。


「実は朝比奈会長が亜矢に話があるみたいだが、今から向かっても大丈夫か? もし疲れたなら違う日にしてもいいぞ」


 まだ喋り方はぎこちなさを感じるが、怒っている感じではない。神木さんの言っていた通りだ。


「大丈夫。寝不足気味だけど、全然元気だから行けるよ」


「分かった」


 わたしに怒っているわけではないのだから、いつか祖父母のことを隠していた理由を話してくれるに違いない。そう、前向きに考えようとしたとき、不意になぜかあの記者の言葉が浮かんだ。


『あなたは自分自身のことをどこまで分かっているんですか?』


 もしかしたら、あの記者はわたしがGlossの会長の孫だと分かっていたからあんな事を聞いてきたのだろうか。そうだったとすれば、わたしが何者なの知っている人物は記者を雇っていた晶さんと、記者から情報の入ったデータを回収した朝比奈会長だ。

 少し前にも記者に疑問を投げ掛けたとき、父親に聞けとも言っていたことから、わたしの今考えていることはきっと真実に近付いている。あんなにまで感じていた靄が一気に消え去ったかのように思えた。


(もしかしたら朝比奈会長に聞けば何か教えてくれるかもしれない)


 いや、だめだ。お父さんから話してくれるまで待とうと決めたばかり。なのに勝手に詮索したら、お父さんが傷付くかもしれない。


 無理に嗅ぎまわるのは良くないことだ。そう思い直し、わたしはざわつく心を落ち着かせるため深呼吸した。


「亜矢ちゃん、大丈夫?」


 車に乗り込む際に、わたしの行動を見ていた涼華さんが心配げに見つめる。


「ごめん。なんでもないの……警察署になんか行ったから緊張しちゃったみたいで」


 ごまかすように笑顔で答えるも、どこか困ったように微笑む涼華さん。


「わたしの前で無理なんてしなくていいのよ。わたしは亜矢ちゃんの味方だから……家族として、親として、あなたを支えたい。だから遠慮しないで頼って」


「うん」


 こういう時、お母さんという存在は本当に救われた気になる。


「けど、無理はしてないよ。それにお母さんが側にいてくれるだけでわたしは心強いの。遠慮してるわけじゃないから心配しないでね」


「そう、ならよかった」


 そんな会話を運転席で聞いていたお父さんは一体どんな表情をしているのだろう。それは見ることは出来ないまま、朝比奈会長の自宅へとやってきた。



 到着するなり、一人のメイドが駆け寄ってくる。


「お待ちしておりました」


 わたしの目の前に立ち、丁寧にお辞儀をするメイド。


「朝比奈会長は書斎にて亜矢お嬢様をお待ちしておりますので、今ご案内いたします」


 その言葉でお父さんと涼華さんが同時に足を半歩進めた瞬間、頭を上げたメイドが素早く二人の前へと立った。


「申し訳ありませんが、朝比奈会長は亜矢様だけと話されたいと申しております。なので、おふたりは客間の方でお待ちいただくようにと……」


「会長がそう言っているの? なら、仕方ないわね」


 涼華さんが不安そうにわたしを見る。お父さんもどこか表情が暗い。


「わたしは大丈夫だから! お父さんたちはゆっくりお茶でも飲みながら待ってて」


「では、こちらへどうぞ」


 わたしはふたりに、行ってきますと笑顔で言う。その笑顔は無理でも何でもない。朝比奈会長がどんなことを話すのかは分からないけど、もうわたしの心に曇りはなかった。

 そして案内された書斎へと通されると、高級感あふれる革製の一人用の椅子にどっかりと腰を据え、書類を睨むように眺める朝比奈会長が目に入る。


「旦那様、亜矢様がお見えになりました」


 そのメイドの一声に、鋭い目つきだった目をかっと見開き、こちらに顔を向けた朝比奈会長に少々ビクついてしまう。


「お、お久しぶりです」


 おどおどしながら挨拶すると、椅子から立ち上がり、物凄い勢いでこちらへと駆け寄ってきた。思いがけない展開に足が自然と後ろへと下がる。


「本当に申し訳なかった!!!!」


 わたしの前で立ち止まると、土下座でもしそうな勢いで頭を下げてきた。


「あのっ! そんな、会長は何も悪くないですから頭を上げてください!」


「いや、わたしの孫がしでかしたことだ。本人が今いない代わりに謝らしてくれ! そうでもしなければ、わたしの気が収まらない」


 もう一度謝罪の言葉を述べながら頭を下げ続ける会長に戸惑っていると、隣に立っていたメイドが助け舟を出す。


「会長、あまり頭を下げると亜矢様が逆に恐縮してしまいますよ」


「そうか! それはまた申し訳ないことをした」


 慌てて頭を上げ苦笑いをする会長に、わたしは思わず微笑む。


「では、少しだけ二人で話をしようか。部屋へ入りなさい」


「はい」


 わたしはそのまま会長とともに書斎の中へと入った。

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