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笑顔の魔法

作者: 広瀬倫康

あるところに、森にかこまれた、うつくしい国がありました。


まいにちがあたたかで、いつもおひさまがやさしく照らしています。


豊かな緑のなか、人びとも、どうぶつたちも、みんな、のんびりと暮らしていました。



この国の王さまは、とてもやさしいお方でした。

いつもえがおで、人にも、どうぶつにも、あたたいことばをかけてくれました。


だからみんな、王さまがだいすきでした。



ところが、ある日、お城の王さまが、不幸なことに重い病気にかかって、やがて、死んでしまったのです。


みんな、とてもかなしみました。


とくに、まだおさないおひめさまにとって、王さまのとつぜんの死は、とてもつらいことでした。


おひめさまはまいにちまいにち、お部屋にこもって、さみしい、さみしいとしくしく泣いておりました。



その日からです。なんと、国中に、雪が降りだしたのです。


この国が、こんなに冷え込んだことなど、今までたったの一度もありません。


きっと、おひめさまのかなしいきもちが、雪になって降り積もったのでしょう。


雪はしんしん、しんしんと、静かに降りつづきました。



はじめはものめずらしく見ていた人びとも、いつまでも降りつづく雪に、すっかり困りはててしまいました。

こんなに降り積もっては、おちおち外にも出られません。


森の木々も、このさむさのせいで眠りつづけ、どうぶつたちは、食べるものがとれず、おなかをすかせていました。


雪は深く深く。おひめさまのかなしみのままに、降りつづけます。


やがて、国中が雪におおわれたころ。とうとうお城から、お触れが出されました。


ーおひめさまのえがおを取り戻すため、おひめさまの大好きな、お菓子をつくることになりました。世界中の、優秀なコックさん。どうかお城に集まってくださいー


やがて、お城に四人の腕利きのコックが集められました。


コックはさっそく、おひめさまのために、自慢の腕をふるいました。


東の国のコックさんは、しっとりぎゅーっとつまった、チョコレートケーキをつくりました。

つやつやのチョコレートは濃厚で、口にいれると、たちまちとろけてしまう、おいしさです。


西の国のコックさんは、バターの香りただよう、さくさくのパイをつくりました。

中には、カリカリのナッツと、あまーいクリーム。夢のような味が、たっぷりつまっています。


南の国のコックさんは、みずみずしいフルーツたっぷりの、タルトをつくりました。

きらきら光るフルーツは、まるで宝石のよう。ジューシーで、弾けるようなおいしさです。


北の国のコックさんは、スパイスの効いたクッキーをつくりました。

こんがりと焼けたクッキーは、噛むとかりっといい音がして、ふわっと刺激的な味が広がります。


みんな自信満々に、おひめさまにじぶんのつくったお菓子を差し出しました。


けれどもおひめさまは、どれを食べても、ちっともわらいません。

たったのひとくちだけ食べて、すぐに、手を止めてしまいました。


腕に自信のあったコックたちはひどく落ち込んで、みんな、すぐに故郷に帰ってしまいました。



相変わらず、雪はどんどん降り積もります。

木々は重たそうに頭をたれています。

山も、川も、家々も。

すべてが雪に、かくされてしまいそうです。



そこで、森のどうぶつたちは、話し合いました。


「ぼくたちで、おひめさまをえがおにしてあげよう!」


そうと決まれば、まずは、材料集めです。

けれども森は凍りつき、食べるものはなに一つとれません。

そこで、冬ごもりに備えてしまっておいたものを、みんなですこしずつ、持ち寄ることにしました。


くまさんは、瓶の底に残ったはちみつを。

りすさんは、屋根裏から見つけたくるみを。

さるさんは、とっておきの干し葡萄を。

ねずみさんは、干からびたパンを。

牧場にいる牛さんとにわとりさんが、ミルクとたまごをすこしだけ、分けてくれました。


「よし!これで材料はばっちりだね!」


どうぶつたちは、さっそくお城に向かいました。



「おやおや。どうぶつたちが、お城にいったい、なんの用だい?」


お城の門番が、たずねます。


「ぼくたち、おひめさまにお菓子をつくりに来たんです」


どうぶつたちがこたえると、門番は、すこし、残念そうに言いました。


「今まで、たくさんのコックが来たけれど、だれひとり、おひめさまをよろこばせることは、できなかったんだ」


けれども、どうぶつたちは、あきらめません。


「大丈夫!だってぼくたち、ひみつの魔法をしっているんだもの!」


「ひみつの、魔法だって?」


門番は、しぶしぶどうぶつたちを、とおしました。



大きな大きなテーブルに、おひめさまがたったひとり、すわっています。


おひめさまはうつむいて、とても、さみしそうでした。


「さあ。はじめるぞ!」


どうぶつたちは、お菓子づくりをはじめました。


まずはたまごとミルクをよく混ぜて。そこに、干からびたパンを浸します。

干し葡萄と、くるみも入れて。かまどでじっくり、焼きあげます。

仕上げにとろりと、はちみつをかけたら。

ほら、出来上がり。


「さあ!おひめさま。どうぞ食べてみてください!」


おひめさまの前に差し出された、熱々の、パンプディング。

湯気がふわふわ、立っています。


「…いただきます」


ふう、ふう。おひめさまは、ひとくち食べました。


さくさく、ふわふわ、じゅわ、じゅわ、とろり。


ひとくち、またひとくち。

食べるごとに、おひめさまはなんだか、ふしぎなきもちになりました。


「どうしてかしら。とても、なつかしい味がするわ」


「そうでしょう?」


どうぶつたちは、にっこり笑いました。


「これは、魔法のレシピなんです」


「魔法?」


「そう。昔、王さまが、ぼくたちに教えてくれたんです」


おひめさまは、はっとした顔をしました。


「これを食べれば、誰でもかならず、えがおになっちゃうんだ」


「このお菓子は、みんなを、えがおにする魔法なんだって」


途端、おひめさまは、ほろほろと、まるでこおりが溶けるように、なみだを流しました。


「ああ、そうだった。王さまは、私が泣くと、こっそり台所にしのびこんで、こうして、パンプディングをつくってくださった…」


おひめさまは次から次からながれだすなみだを拭きながら、ひとくち、ひとくちと、パンプディングを食べました。


そして空になった器を置いて。


「ありがとう。とても、おいしかったわ」


そう言って、おひめさまは、とうとう、笑いました。


みんな、窓の外を見ました。

雪はもう、降っていません。

雲の割れ目から、おひさまのひかりが射し込んでいます。


おひめさまの凍った心は、温かいパンプディングのおかげで、すっかり、溶けてしまったのでした。



それから、この国の、さむいさむい、冬はおわりました。

雪が溶け、森の木々が、目覚めます。

山が緑を取り戻し、川はせせらぎを聞かせます。


あたたかい日々が、もどってきたのです。


「こんにちは」

「いらっしゃい!おひめさま!」


あれから、おひめさまはよく、森に遊びにくるようになりました。

森のどうぶつたちとも、すっかりなかよしです。


「おひめさま!今日はいちごがとれましたよ」

「おいしい木の実も、たーくさん!」

「じゃあ、つくりましょうか」


そして時々、みんなでパンプディングをつくります。


たまごとミルクをよく混ぜて。

パンを浸して。

フルーツに木の実も入れて。

かまどでじっくり。仕上げにはちみつ。


あまいにおいが、ふわんと森中にひろがります。


「わあ!やっぱり!」

「おひめさまの、パンプディングだ!」


いいにおいにさそわれて、国中の人があつまってきました。

おひめさまは、えがおで言います。


「さあ、みなさんめしあがれ!」


今度からは、おひめさまが、みんなにえがおの魔法を、かけるのです。


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