表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひまわり

作者: 膤古-yukiko-

「ねえ」




栗毛色の、癖のある長い髪を二つに束ねた少女が、僕の手を引いた。




小学1年生の夏休み。




幼馴染の僕達は、小学校の裏山に毎日2人で行っていた。


昼間は蝉、夜は蛙の大合唱が繰り広げられる中、大きな木の下で遊んでいた。





「わたしね、あした…いなくなるんだ」





いつもの場所で、いつも通り2人で遊んでいたとき、それは彼女の口から唐突に告げられた。




「ひっこすってこと…?」




…まだよく伝わらない僕がそう聞くと、彼女が少し黙ったあと、返事を返さずに続けた。





「ごめん…いいたくなかったの…でも、いわなきゃダメって、おもって……ずっと…」





レモン色のワンピースの裾を握り締め、彼女は俯いた。




いつも眩しいほどの笑顔を向け、髪の色と、よく着ているワンピースの色から、向日葵のような子だったと記憶している。





「すごく、すごくとおいところなの…こわいの……」





その時の彼女はいつもとは真逆で、悲しく俯いていた。






夏の日照りと蝉の大合唱




はっきりと彩られた風景




賑やかな日々




待ちに待った夏休み






2人だけのヒミツの場所


お互いに涙が溢れた場所





「…でもね?」





キラキラ輝かしい




毎日




景色




日の光




彼女の姿






「すぐ、かえってこれるの。」






君が一番好きだと言った季節





「だから、わらっておむかえしてね!」





君が特に眩しい季節





「……わかった。ぼく、まってるね!」




涙を拭って、君の手を握る。


汗ばんだその手は、小刻みに震えていた。




「ありがとう」






━━次の日の昼、僕の家に彼女の両親が来た。






君は居なかった。






僕は「きのう聞いたからいい。」と言って、そのままお昼ご飯を食べに戻った。




後ろが妙に静かになったあと、彼女の母親が泣き崩れたらしい。




そのまま騒がしくなったけど、すぐ帰ってくるのに大袈裟にお別れをするのだな、と思ってドアを閉めた。





食べ終わって後片付けをしていると、話しが終わった両親が僕をじっと見つめているので


「どうしたの?」と聞くと




「あ………あの子ね?あなたの笑顔が眩しくて大好きなんですって。だから、あなたと居れてよかったって言ってたみたいよ?」




と言って、照れる僕を見ながら力なく微笑んだ。






「かえってきたときに、そっちのほうがまぶしいよ!!っていってやろう。おむかえのやくそくもしたしね!」





昨日、彼女から直接そう聞いた僕としては、それを両親に言うべきか迷ったが、彼女が帰ってきた時まで黙っていようと思い、そのまま知らん顔をして過ごした。







一週間後、彼女は本当にすぐに帰ってきた。





それは20年経った今でも、此処に帰ってくる度、鮮明に思い出せる。





「今年も暑いな…」




あの場所で、そう呟いた。




自分達や景色、環境は変われど、四季は変わることはない。




けたたましい蝉の声


容赦なく射す日射し





そして





「なんで…来るんだろうな…」





続ける言葉が自然と震える






君が笑った季節






「そっちのほうが眩しすぎだろ…?」






君が泣いた季節






「無ければよかったのに」






君が居なくなった季節






「来なければいいのに」






君を2度、見送った季節






「嫌いだ」






君を思い出す季節






「こんな季節……」













強い日差しで彩られる風景




青空を覆う入道雲




映らない君の姿













思い出の中、輝いていた君の面影













僕達が一緒に泣いた季節








「なんで……」








君が、四季で一番好きだと言った季節




























大きな木の根元には、供えた向日葵と、彼女の名前が掘られた墓石が無感情に存在している
































「夏なんてなくなればいいのに」






僕が一番嫌いな季節

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ