沸き立って
あれから一週間もすれば、蒼は何事も無かったかのように元気になっていた。しかも驚くことに、蒼は空を飛べたらしい。今もふわふわと自身の体を浮かせているし見たのは一度ではないから俺の目も狂っちゃいない。そもそも、空を飛ぶ獣なんてのはそうそうお目にかかれない。ハンターである俺でさえも片手に数えるくらいしか見たことがない…それだけレアなのだ。
上位の魔獣か、はたまた霊獣か何かなのだろうと検討をつけることにした。
「アオ、お前…どうしたい?」
もはや俺の助力が無くとも生きていける状態にある。そんな蒼をここに留めておくが良いことだとは思わないし、そんなつもりで連れてきた訳じゃない。ちゃんと自然の世界で生きていけるように、そんな思いで一時的に家に招き入れただけの話だ。後は好きなように好きなところに行ってくれたらと、そう思うくらいだ。
しかし、蒼はこちらを向くとニッコリと微笑むように口を動かし俺の腰辺りにある顔を擦り付けた。
あぁ、飼うならこんなペットが欲しい。と思った瞬間だった。もっとも、ハンターの中にはペットと共に狩りをするものも居るのだが……。まぁそれをバディと呼んだりパートナーと呼んだり、様々いる。俺はそういうのは要らないって思ってるけどな。
……だって俺一人で充分だし。
「……ッ!、、ァォッ!」
何かの聞き間違いだと、その時はそう思っていた。だが、振り返った先でこちらを見つめ口を動かす蒼を見てしまった俺は言葉を失った。言葉を介す動物やモンスターなんて存在しないからだ。高位の魔獣や霊獣でさえ、俺達と同じ言葉を使うことは決してないという。それが、微かではあるが"ァ"と"ォ"を発音して見せたのだ。驚きしかないだろう。
やっぱりかなりヤバイものを拾ってしまったと手を合わせた。角はまだ折れたままではあるが明日、分からないように山に戻すことに決めた。
若干勝手ではあるが、俺の仲間がここに寄った時にアオのことがバレたらと思うと早めの方がいいだろうと思ったのだ。あいつはすぐ解剖したがるからな……。まぁ、この初夏って時に外には出てこないだろうがな。
ちなみに蒼天山の麓にある城下町では次代の王を決めるための準備が進められているのだった。あらゆる者が総出で会場作りや街の整備に走り回るのだ。
市民からしたらただのお祭りだからか、皆浮き足立っているように見える。俺はそんなの興味ないからずっとここにいる。ただ、アオはそうでも無いらしい。俺ん家から外を見つめていることが多くあるから、城下の騒がしさを感じているのだろう。
いまいちアオが何なのか分かりはしなかったがこんな珍しいものを見せてもらったのだからもう人間に見つかるような場所ではなく伸び伸び暮らせる場所に行って欲しいと願う。