表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
折れた角と天翔る脚  作者: さんふね
2/3

奏王国



翌日、それはよく晴れた日の朝だった。聞いたことのない音と、体にかかる圧を感じて俺は目を開いた。

「…なんだ、お前か。腹でも減ったのか?」

枕元にタオルで包んでおいた筈なのだが…案外動けるじゃないか。こんなことなら持ってこないで自然に任せておけばよかったと、今更ながら後悔した。まぁ、ろくに片付いていないこの家の中をこいつが思う存分動き回れるかは既に明白であるが。


一つ欠伸をして、ベッドから降りる。そんな時も付いてこようとするものだから、なんでこんなに人慣れしているのかと問いただしてしまった。意思の疎通が叶うはずもないのに、だ。

その直後思わず笑ってしまったのは言うまでもない。可愛く首を傾げるそいつをそっと撫で、一人キッチンへと向かった。


実家にいた頃はキッチンでの仕事は全て女のものだとかいうふざけた偏見を持っていたから包丁なんかも触ったことがなかった。が、ハンター見習いの期間から一人でなんでもやらなければならない状況になり、今では人並みにはなんでもできるようになったと思っている。


景気の良い音をさせながらキュウリがその姿を変えていく。ハンクの朝食はいつも、誰もが羨むような健康的なものだ。彼曰く、絶対にサラダを食べないと気が済まないらしい。

さっきから視線を感じるなと思い、後ろを振り返る。もはや心当たりは一つしかないのでそこにそいつが居ても特に驚いたりはしない。



「大人しく待ってろって…」



『キャウッ…!』



どういう鳴き声だ。とこれまたあまり聞いたことのないような声を発するので、ますますこいつの存在をどうすべきか頭を抱えてしまう。


「んー。でもなぁ、こいつこいつって呼ぶのもな…あ"ぁ~でも名前なんか付けちまった日にゃ……。」



山に返すその時に、邪魔になってしまう。

足元にいるそいつは俺の言葉がわかるのか、悲しそうな顔をして再びキャウッと鳴いてみせた。その瞬間鳴るはずがない音が俺自身の胸辺りから聞こえた。ドキュンッでもズキュンッでもいいのだが、そんな音が胸から聞こえたもんだから…俺はもう駄目らしい、、。



「~~~っ!っだぁ!!っんな顔すんな…でもなぁ、オスかメスかも分からんからなぁ…。」


そんな曖昧なものに名前を付けて的を外してしまったなんてことがあったら恥ずかしすぎてどうにかなりそうだ。それでもふと、降りてくるものがあった。



(アオ)…ってのはどうだ?この蒼天山にいたんだからな!、、ん~やっぱぱっとしないか?」


「キャウッキュキュッ!!!」


全身を使って思いっきり飛んだり跳ねたりして見せるアオ。動作がぎこちないのは怪我のせいだろう。さっきよりも蒼い光が増したような気がするが、無理な動きをさせないようにするのに必死であまり気付かなかった。



この奏王国(そうおうこく)の中で一番高い山──それが蒼天山(そうてんざん)だ。奏王もこの山の頂上に住んでおられる。この世界は八つの国に分かれ、そのそれぞれに王があった。奏王国は八つの国の中でも東側の海に面した国である。今は先代の奏王が亡くなられ、王不在の時を過ごしている。それぞれの国の王は血筋などではなく、武術、剣術、魔術、あらゆる術を持って力によって決まる。ただし例外も存在し、伝説の生物とされる玉龍に見初められることでもその地位を得られる。だがいままでそのようして王になったものは無い。その話すらも伝説となりつつあるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ