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新天地

 


 ラフィーネが俺を起こしに部屋に来た。かなり長い時間寝ていたようで、太陽は既に高くなっている。もちろんフィアはまだ寝ている。


「サトルってば、疲れてるのはわかるけど、寝すぎじゃない?仕事もしてもらわないといけないし、朝ごはんも……」


 何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。


「どした?」

「いや……そのぉ……何でもない!」


 そう言うと部屋から飛び出して行った。


 何事だろうか?そう思いつつも、俺も部屋を出て、とりあえずヨーゼリアの元へと向かった。多分最初に会った書斎の部屋にでもいるのだろう。


 俺が書斎に向かおうと階段を曲がると、シェラと目が合った。


 シェラは俺の元へ小走りで近づいてくると耳元で小さく


「ヨーゼリア様がお待ちです。私についてきて」


 と声をかけてきた。


 俺は声を出したらダメだと思い、静かにシェラのあとから着いて行った。


 シェラは廊下で止まると、壁を押し始めた。


 すると、壁がみるみる柔らかくなり、シェラは壁の中へと入っていった。しばらく俺が唖然と見ていると壁の中から手が出てきて、俺の腕をつかむと、思いっきり引きずり込んだ。


(ぶつかるっ!)


 そう思った時には、既に俺は小さな部屋の中にいた。


「サトル君、ここは隠し部屋だよ。城の中も安全ではないのでね」


 ヨーゼリアが椅子に座って、俺の驚きようをみて笑っている。


「まぁ、君をここに呼んだのは他でもない。やはり城の中で官職に付くのは目があるのでな。私が雇った銀行家として町に銀行を出してほしい。そこで金の動きを見つつ、カンサリアの尻尾を掴んで貰いたい」


 そう言うと、机の中から皮袋と紙を1枚取り出した。


「ここに金貨と私の許可証がある。これで銀行を開いてくれ。最初は主に公爵家とのみの取引になるだろうが、町からも仕事を探してみてくれ」


 そして俺に重い皮袋と許可証を渡してきた。


「ところで、君は字が読めるかね?」


 その言葉に俺は驚いた。そう言えば俺は読めない。読めない状態で仕事は無理だろう。


「……読めません」


 俺の言葉にヨーゼリアはとてもがっかりしたようで、肩を大きく落としてしまった。


「それでは……仕事はまかせられんな……」

「私よめるよ!」


 突如ペンダントからフィアが現れた。


「私がよんで、サトルの頭の中に直接意味を送れば良いのよ!なんなら、私ならサトルに文字を一瞬で理解させることができるわよ?」


 そして


変換者(コンバーター)!汝に力を与えん!」


 と唱えて魔法を掛けてくれた。


「これであなたの元の世界に置き換えて脳に記憶されたわ。これで今まで知ってたように読書できるよ!」


 確かに、許可証の字を読むことができる。


「汝の商いを我が領内において認む 国主ヨーゼリア」

「おお!フィア様、感謝しますぞ!」


 肩を落としていたヨーゼリアも再び元気になり、顔を輝かせている。


「すまないが、カンサリアの目が厳しくてな。すぐにでも町に向かって貰いたい。シェラ、案内やを」


 慌ただしいが、仕方の無いことなのかもしれない。俺は黙ってシェラに付いていくことにした。


 廊下で一人の男が待っていた。


「これはこれは、バーダント様でいらっしゃるではありませんか。私は国王陛下の勅命で貴方様に騎士爵と所領を与えにまいりました。ささ、これをお受け取りくださいませ」


 そう言うと、細い剣を渡してきた。


「シェラ殿でしたかな?国王陛下の勅命です。少し席を外して下され」


 シェラは渋々ながらも引き下がった。


「それでは、与えられた所領に参りましょうか」


 俺の手をつかむと、ラフィーネと同じ魔法だろうか、見たことない場所に連れてこられた。


「ここが貴方様の所領です、それでは」


 一言そう言うと、姿を消してしまった。


 そこには小屋のような物が数軒建っており、畑も小さいなが存在した。


(ここが俺の土地……)


 あまりにも荒れ果てていた。人の気配がまるでしない。


(フィア、これはどうすれば良いんだ?)

(サトルってもしかして、馬鹿なの?さっきのやつはニセモノよ?面白そうだから放っておいたけど……まさか騙されるなんてね……)

(!?)

(カンサリアとかの手下じゃない?この紙偽物よ?それに私も連れられてから後悔したんだけど、ここはね……)


 そこでフィアは話すのを辞めた。


(どうしたんだ?)

(ここは別大陸……と言うか、私も来たことのない場所なわけで……)

(じゃあどうすれば……!!)

(私は転移魔法使えるけど、なぜだかアスタントの町に転移出来ないのよ)

(ここでずっといるわけかよ!)

(そうなるわね……)


 俺はこの人がいなくなって何十年も経つような場所で、フィアと二人きりで捨てられたらしい。しかも、どこかも分からないという……


(悪かったわ、ごめんなさい……)


 フィアも軽くからかうつもりだったのだろう。怒ったところで仕方がないので、俺は歩き始めた。周りの地形くらいは把握しておいた方が良いだろう。そう思い、俺はその村というのも無理があるような場所を一周した。


(何も……ないな……)


 驚く程に何も無かったのだ。小屋の中にも道具すらなかったのだ。


(どうする?)

(向こうに山があるから、食べ物でも探さない?流石に食べ物ないと死んじゃうでしょ?)


 こんな時でも食べ物を真っ先に考えるのはいかにもフィアっぽい。この時俺は思ったのだが、さっきラフィーネが言葉に詰まったのは、俺の分の朝食を食べてしまったからじゃないか?


 俺は山に向かって歩いた。途中よく見ると、最近付けられた様な傷が木にたくさんあった。もしかしたら、誰かが他にもいるのかもしれない。


 森の入口に、1本の細いかろうじて道と言えるような、木が生えていない部分が有ったので、そこを辿って森を進んだ。


 しばらく進むと、木で作った柵を見つけた。どうやら、この柵の中に人が住んでいるらしい。奥からは煙が薄く登っている。


 俺は柵の隙間から中に入ると、煙の上る方へと歩いて行った。煙の近くまでくると、人の声が聞こえた。


「ほら働け!しっかり仕事をせんと、貴様の娘をぶっ殺すぞ!」

「そ、それだけは何卒勘弁をっ!」

「嫌ならさっさと働けっ!」


 そこは、やせ細った人間たちが化け物たちに強制的に働かされていた。人間達は全員泥まみれで、今にも倒れそうなほどふらふらだ。


(許せないわね!)


 フィアが飛び出していこうとしたが、俺がそれを止めた。


 別の集団が更に入ってきたからだ。


 そいつらは、ゴブリンを縄でくくり歩かせ


「てめーらもここではたらくんだよ!」


 と蹴飛ばした。


 こう見ると、ゴブリン達も可哀想に見えてくる。


 俺がその様子を見ていると、俺の首に何かが落ちてきた。


「うわっ!」


 深くにも大きな声を出してしまった。


「なんだ!」


 魔物の1匹が俺に気が付いて仲間を呼んだ。とっさに逃げようとしたが、俺が逃げるよりそいつが来る方が早かった。


「誰だか知らねーが、若くて丈夫そうな身体だし、見られてしまったからにはてめぇにもここであいつらと仲良く働いてもらうぞ」


 そう言うと俺に殴りかかってきた。


 しかし、相手が倒れたのだ。


(私がちょっと魔法を使いました!)


 なるほど、フィアの仕業か。


 仲間の呼びかけを聞いたのか、増援が10人ほどやってきた。しかし、フィアが瞬時に全員を戦闘不能にした。


「きゅ、救世主様じゃ……救世主様じゃ!!」


 一人の男がそう言った。すると口々に同じような事を言って、人間達はおろかゴブリン達も跪いてきたのだ。


「どうか、どうか我らをお助け下さいませ!」


 そう言うと1番年をとっているのだろう男が近づいて来て、頭を地面に擦りつけてきた。


「お助け下さいましたら、我々はあなた様を主として、一生お使えいたします」


 後ろの人間も頭を地面にこすりつけ、口々に頼んで来た。


(もちろんやってあげるわよね?)

(え……)

(嫌なの?)

(だって負けたら痛いし、俺には関係な……)


「分かった、お前らは俺が助けよう」


 俺の意志に反して口が勝手に動いた。


(困ってる人がいるのにほっとけないでしょ?)


 フィアは俺の体を操ることが出来るのかもしれない。俺は一瞬ゾッとした。


(仕方ないか……)

(うん!)


 どうやら俺の生活は、町でヨーゼリアを助けつつ、金儲けをしているだけの生活から、大きく修正を迫られてしまったようだ。

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