精霊召喚!
俺は息苦しくて目が覚めた。俺の胸の上に、何かが乗っている。その正体を確かめようと俺は目を開いた。
「う、うわぁ!?」
なんと俺の胸の上に、二対四枚の羽根を生やした俺の膝丈の半分くらいの小人が座っていたのだ。俺の顔を胸の上で立ちながら覗き込んでいる。その小人は、笑っているのだ。
正直、俺はビビっていた。森の中でゴブリンに追いかけ回されてから、人以外のものに強い警戒心を抱くようになったようだ。とりあえず、攻撃はされてないので、話しかけてみた。逃げるなり、攻撃するなり、それはあとでも大丈夫だろう。痛いのだけはまっぴらだ。
「……俺の上からどいてくれないか?」
すると小人は舞い上がった。そして、ベットの横に置いてあるランプの上に座った。
「ごめんごめん!上に乗られるの、嫌いだった?」
悪戯っぽく笑う。
俺の中での敵意は、その笑顔で吹き飛んでしまった。
「君は誰?」
「嫌だなぁ、私は君の精霊だよー」
「精霊?」
「ほらほら、神父様でのペンダント!」
そう言われてみれば、貰ったペンダントには精霊がいるとか言ってた気がする。
「あぁ、君が精霊か。もらった時に出てこないから、てっきり嘘なのかと思ってたよ」
「ひどいなぁ、もお!私だってお昼寝することあるもん!お昼寝してただけだもん、」
なるほど、お子様か。
「それで、君の名前は?」
おい精霊!と呼ぶわけにもいかないので、名前を聞いた。
「ないよ!マスターがつけるの!」
マスター?
「君だよ君!精霊と契約したら名付けしないとダメなんだよー!」
知らぬ間に契約とやらを結ばされていたらしい。いきなり名前を付けろと言われても、なかなか難しい。めんどくさくもあったので
「夕飯呼ばれてるから、それ終わってからでもいいか?」
「ダメ!今!じゃないと私、ここのかないよ?」
とランプから飛び降り、俺の頭に乗ってきた。
……全然このまま飯食えるぞ?とは思ったが、さすがにちょっと可哀想なので、名前を考える事にした。
(……精霊……小人……思いつかん……)
全く思い浮かばない。ヨーゼリアは一瞬で名前を付けてくれたが、俺には出来そうにない。
……そんなスキルでもあるのか?と疑いたくなるレベルで。
「思い浮かばないんだけど……」
正直に言った。そしたら、とても落ち込んでしまった。
「えー……残念……」
これはこれで可哀想だ。
(ラフィーネに聞くか……いや、でも契約がなんたらだから俺が付けた方がいいよな……)
双六でいう振り出しにもどる、をリアルで体験しているよだ。
(……ラフィーネ・アンスタンテ……ラフィア……フィア……フィア!これでいいだろう)
結局、ラフィーネの名前を無理やり繋げてそれっぽいのを名前として付けることにした。
「んじゃあ、君はフィアだ。よろしく」
「!!ありがとう!大切にするよ!」
ようやく頭から離れてくれた。
「フィア……フィアかぁ……ふふふ」
フィアは早速自分の名前を口に出して嬉しそうに笑う。それを見た俺も、人の名前をパクっただけなのだが、心が温まる感じがした。ちょろい男だ。
そんな感じで、フィアと名前を付けたりをしていると、クローゼットからラフィーネが現れた。
……本当にこのクローゼットから行き来できるのかよ……
入ってくるなり
「サトル!さぁ夕飯よ!」
と俺の腕を引っ張る。ラフィーネに会ってからずっと引っ張られてる気がするのだが……
フィアも後ろから飛んでついてきている。食べるのだろうか?
(食べるよ!!)
「うわっ!!」
いきなり俺の頭の中に言葉が入ってきたのだ。驚いた俺を見てラフィーネが
「どうしたの?突然大声出したりして」
と振り返った。フィアは俺の背中に隠れる。
(フィア……今のなんだよ)
(教会で言ってなかった?頭の中に話しかけるって!)
そんなこと言ってなかったぞ!……多分
(てか、どうして隠れるんだよ)
(だって恥ずかしいもん……)
子供かよ!……まぁ、子供っぽとは思ってたけれども……
(子供じゃないわい!これでも105歳だもん!)
(全部聞こえるのかよ……)
(え、嫌なら切れるよ?まぁ、慣れるまでは無理だけど……)
心の中がすべて見られるのは、厄介だ。かなり!厄介だ。
すると、フィアは俺のフードに入った。本格的に隠れ始めた。てか、ペンダントに戻ればよくね?と思ったが、まぁ、あとになって思った事だから遅かったんだけどね。
「ようこそ、私の部屋へ。今日は、君への歓迎として、料理人に腕をふるわせてみた。気に入ってくれると良いのだが……」
ヨーゼリアは既にテーブルについており、ラフィーネが俺を連れてくるのを待っていたらしい。
扉部分に二人のメイドが並んでいて、ボーイが料理を運んでくる。昼食べた量とは比べ物にならないほどたくさんの料理が次々と運ばれてきた。
……さすがに、これ全部食うのは無理だろ……
「これ、全部俺たちで……?」
残すのはもったいないので、これ以上作るのは止めさせようと思って聞いたのだが
「もちろん、私たちだけじゃない。わしの直属の使用人との顔合わせも兼ねてね……まぁ、私の腹心たちだよ」
そういえば、公国内でも油断のならない奴がたくさんいるとか言っていた。てことは、俺はもう腹心としてカウントされてしまったのか?色々と甘いと思うのだが……
俺とヨーゼリアが話している間に、ラフィーネは先に食べ始めていた。
……すごい勢いで……
ラフィーネの横で、どんどん皿の中身が減っている怪奇現象が起きた。
もちろんフィアなんだが……
二人とも一心不乱に食べていたので、お互いに気付いてないようだ。
「ほら、サトルもお父様も、食べないとなくなるわよ?」
「ラフィーネは本当に行儀が悪いな。私は教育を間違ったのかね……」
「だってお腹空いたんだもの!」
ヨーゼリアの小言も聞き流して、次の皿に手をかける。その皿は……
「きゃっ!?」
「ふにゃ!?」
ラフィーネの顔の目の前に、フィアの乗った皿が持ち上げられて、食べるのに夢中だった二人の目が会ってしまった。
「あなた誰よ!」
「そっちこそ人の家で勝手にご飯を!」
教会でフィアはラフィーネを見てないのか……?食べるのに夢中で忘れたらしい。
「おぉ!これはこれは、精霊王さま……わたくしの小城に何か御用ですかな?」
ヨーゼリアが礼をしながらフィアに声をかける。メイドたちに至っては、跪いている。
「ん?いやね、このサトルの契約精霊になったから、お邪魔してるだけで……」
そう言うとまた俺のフードの中に隠れる。今度は頭だけ出してヨーゼリアをじーっと見ている様ではあったが。
「……サトル君、君は精霊王にまで祝福をされておるのかね……なんとも羨ましいことだよ……」
祝福?と言われても神父に貰っただけなんだが。
「いや、教会の神父さんがくれたペンダントに憑いてただけですよ?」
「精霊の譲渡は出来ないのだよ。そのペンダントは依代であって、精霊は持ち主を見極めてそこに入るんだ。君は極めて短時間で契約に成功した事になるが……こんなに早いのは初めて聞いたぞ。それも12柱と言われる精霊王とはな……」
ラフィーネはついていけてないのか、フォークを持ったまま固まっている。
フィアが頭の中で勝ち誇ったようにアピールしてくる。
(ふふん!どうよ!もっと私を敬いなさい?)
(うるせー!)
(いたっ!)
フィアの頭を人差し指でこつん、と叩いた。両手で頭を押さえている。力は全く入れてないつもりだったのだが、痛かったのか、目に涙を溜めている。
(泣くな、謝るから)
(ふんっ!)
(……あとでラフィーネに甘いものでも……)
(おけ!許す!約束ね!)
……やっぱりお子様か……
とまぁ、フィアがヨーゼリアたちに驚かれたりもしたが、夕飯は美味しくいただきました。
……フィアとラフィーネがほとんど食べたのは秘密だ。
「次にデザートなのだが……その時にみなにも君を合わせよう」
そう言ってヨーゼリアがボーイにデザートを持ってくるように指示をし、メイドに右手で合図を送った。メイド二人がピッタリの動きで部屋を出て行った。