アスタント崩壊
「あの遭難者がな……まさかあちらの世界で魔王になるとは……」
「はっ!それに伴い、皇帝陛下の抱える勇者であるユーデン様が魔王によって殺されました……」
「なんとユーデン様が!」
男は飲んでいた紅茶をティーカップごと床に叩きつけた。
「おのれ……!許さぬぞ……たかが遭難者の分際で……」
「も、勿論でございます!」
部下の男は慌てて主を落ち着かせようとしている。この男が、サトルを騙した張本人であり、勇者との戦いを見ていた男なのである。そして、目の前にいるその主こそが、ミューラント王国のアスタント公国に仕えるカンサリアだ。
「そ、それともう一つ……今度はミューラントの国王より返信です……」
「おぉ!あの暗愚国王がなんと?」
「はっ!アスタント公国国主、ヨーゼリア・アイゼル・アンスタンテの罪を認め、公爵位を剥奪、処刑とするとの事です」
「やはり奴は馬鹿だ!まんまと騙されおって!それで次期国主は?」
「はい、カンサリア・ドラケリアをアスタント公国国主とて任ずる、と」
「ふははははっ!馬鹿な王め!ナイアス、ヨーゼリアを捕まえて参れ!その腹心と娘もだ!」
「ははっ!」
自室にて読者をしていたヨーゼリアは、カンサリア直属の兵士によって捕らわれの身となった。
ヨーゼリアは自分を捕らえようと迫る兵士の存在を知っていた。いや、異変を察知したロイエルによって知らされていたのだ。
「ヨーゼリア様!ここは近衛兵隊長のパーゼフ殿の元に参られ、一時撤退をっ!!」
ロイエルの進撃に対して、ヨーゼリアはゆっくりと首を振る。
「いや……それは辞めておこう……」
「何故でございますか!」
「私は恐らく、陛下によって爵位を剥奪されておるだろう……そして、処刑命令も……」
「ならばお早く……!」
「ならぬ!私が逃げたらどうなる?カンサリアは町中を捜しまわるだろう。さすれば民に被害が出る。私は一人、カンサリアに殺されようと思う」
「なりませぬ!なりませぬぞ!」
足にすがり付くロイエルをヨーゼリアは強引に引き離す。
「くどいぞ!」
「しかし!!」
「ロイエルよ……ラフィーネらを連れて落ち延びよ……」
「!?」
「ラフィーネさえ生きて居れば、アンスタンテの血は保たれる……」
「わ、私は……」
「ロイエル、私にはお前にしか頼る事が出来ぬ……何としてもラフィーネを逃し、願わくばサトル殿のところへ……」
そう言うとヨーゼリアは国主の王冠と剣をロイエルに押し付けた。
「さぁ!行け!!」
ロイエルは泣きながら部屋を飛び出した。直後、兵士が乱入してきた。
城内では、カンサリア管轄の兵と近衛兵が刃をまじえていた。
「おのれカンサリアめ……!」
近衛兵の指揮官であり、長であるパーゼフはカンサリアの顔を思い出し、怒りに顔を赤く染め上げている。
近衛兵の旗色は悪い。圧倒的に兵力差が開きすぎているのだ。パーゼフは主を助けんと必死になっていたが、じわりじわりと追い詰められている。
その時、パーゼフの元に数人の集団が突撃してきた。ロイエルたちである。
「おお!ラフィーネ様にロイエル様!それに他の方々まで!!」
「パーゼフ殿、ヨーゼリア様はラフィーネ様が落ち延びられる事をお望みです、我らとともに。パーゼフ殿も参りましょうぞ!」
「しかし、俺には部下が……」
パーゼフは傷だらけの部下達を見渡す。とても見放すわけにはいかない。
「隊長!ラフィーネ様をお助けくださいませ!」
「俺たちに構わず、ラフィーネ様を!」
兵士たちは口々にパーゼフに行け、と言う。
「さぁ、皆も言っております、参りましょうぞ」
ロイエルがパーゼフの腕を握る。パーゼフも迷いが消えたのか、
「お前ら!死ぬなよ!」と言い残し、戦場を離脱した。
何とか追撃を逃れ、一団は酒場の女主人、ルネアントの隠れ家に身を寄せていた。
「お父様……」
ラフィーネは未だに事の展開を受け容れられていなかった。それも当然だろう。朝にはいつもと変わらぬ一日が始まったはずなのに、今は追われる身なのだから。
「ラフィーネ様……」
ロイエルは膝に顔を沈めているラフィーネの背中を撫でる。全員、顔は暗い。
「……んで、何人いるんだい?」
シェラとピューラに挟まれたテレサが口を開いた。
「数えれば分かるだろうが……わしロイエル、ラフィーネ様、パーゼフ殿、ルネアント殿、シェラ、ピューラ、テレサ博士、ジェイン……この場に居らぬのはルイーダだけか……」
「あぁ、ルイーダならそろそろ戻ると思うよ?」
ルネアントと呼ばれる女性が声を上げた。身長は高く、耳が少し尖っている。エルフとのハーフだ。
その言葉通り、小柄な少女が入ってきた。
「たっだいま〜!ルネアント!冷たいの一杯!!」
「残念でした、今はそれどころじゃないの」
「え〜!!ん?みんなどうしてここに集まってるの?ラフィーネちゃんまで」
ルイーダの無邪気な問いかけに、一同はさらに表情を曇らせる。ラフィーネに至ってはついに泣き出してしまった。
「えっ!えっ!えぇ〜!?なんで泣いちゃうのよ!」
「……ルイーダよ」
ロイエルが重い口を開いてルイーダに話した。
「ヨーゼリア様がカンサリアに捕らわれた……ヨーゼリア様の命令で我らはラフィーネ様をお守りし落ちねばならぬ……」
「そ、そんな……ヨーゼリア様が……」
ルイーダは今までの元気さが嘘だったかの様にその場に倒れ込んでしまった。
それから一同は暫く誰も声を出さなかった。
しばらくして、外から声が聞こえてきた。
「お〜い!!国主様が国王様に叛逆を企てたらしいぞ〜!今、国主様の首が荷車で町中を走っているぞ〜!」
男が走りながら通りの住民に一大事を知らせる。
「新しい国主様はカンサリア様だ〜!!」
ロイエルたちはヨーゼリアが殺された事実を知らされた。
「ヨーゼリア様……」
「お父様……」
一同が涙を流す。そして
「なぜカンサリアが……!!」
悲しみは怒りに変換され、各々の身体中に血液のように隅々にまで広がった。しかし、冷静なロイエルは
「……逃げる場をきめましょう……」
そう呟くと地図を広げた。彼らが団結して抵抗したところで無駄に死ぬだけだとロイエルは理解していたのだ。
ロイエルが地図を広げると同時に、一人の男が隠れ家に侵入してきた。
「貴様は!」
パーゼフは男に切りかかろうとする。が、男はそれをひらりとかわす。
「皆様失礼、国主カンサリア様のご命令により、お命ちょうだいいたします……」
そう言うと剣を抜き、パーゼフに斬りかかる。
(避けれぬ……!!)
すんでのところで、男は剣を止めた。
「……と申しましたが、殺すのは偲びない……」
男は懐から小さな玉を取り出した。
「あなた達は、別の世界で生き延びなされ」
そしてその玉を投げつけた。
ラフィーネたちの周りを光の粒が覆い尽くす。そして、彼らの姿が徐々に薄くなっていった。
(ラフィーネ様……生きてくだされ……)
男は呟くと部屋をあとにした。
勇者を倒したあとの事後処理は実にめんどくさかった。まず、ここを誰が統治するか、だ。クレアたちもきたが、クレアは自分の城だ!とうるさかったが、俺的には人間に統治させたかったので、ここを連邦の首都としてアリスに君臨して貰えるようにドルフトフにお願いした。もちろん、ドルフトフは受けてくれた。それもかなり喜んで。
連邦の名前は、『豊穣と繁栄の大地』となったようだ。占領地域だけではなく、一部の周辺諸国も帝国から離脱し加盟したようだ。人口だけでも500万を超えるだろう、とドルフトフからは報告を受けた。
クレアは不満を顕にしていたが、これが最も良い方法だと俺は思う。
ふと、魔物の国の方を眺めると、懐かしい感じがした。事後処理はドルフトフに任せ、バーダントに戻ってダラダラしよう……




