勇魔大戦 ①
真っ直ぐ城に向かう……といってもかなり距離があった。と言うか、規模が今までの町の中でも抜きん出て大きかったのだ。そのせいで、城に着くまでに一時間ほど歩かなければならなかった。
そして、途中では捕まった人たちが集められている広場も通った。それを見ている住民に耳を澄ましてみると、
「あいつらの家族、勇者様を裏切ったらしいぜ」
「そうそう、それで魔王がこないと殺されるんだろ?」
「あぁ、全くバカな奴らだぜ」
「でもまぁ……可哀想だよな」
「おいおい、変な事言うなよ。誰が聞いてるかわかんねーだろ」
「そうだな……捕まったら終わりだもんな」
そんな会話が聞こえてくる。ここに集められている人達が、ドルフトフの兵士たちの家族で間違いないだろう。何としても助けなければ。
俺は、話をしている住民二人に声をかけた。
「あの……」
二人は俺が兵士かなにかと勘違いしたのか
「へ、へい!俺たちは何もしてませんぜ!」
「ただここを通ってただけですよ!」
と慌てる。まぁ、俺が兵士なら、あまりにもこいつらは怪しいので逮捕だ。と言うか、こいつらは隠す気があるのだろうか?そう思う程、隠すのが下手だった。
「私は旅の者なんですが……この人たちは捕虜ですか?」
「な、なんだよ……脅かすなよ……」
「本当ですよ……この人達は、今日の夜に首を跳ねられるんですよ、魔王が来ないと。勇者様を裏切った兵士の家族ですね」
「それは酷い……」
「滅多な事は言わないに越したことはありませんよ?ほら、あそこにも兵士が見張りに立っているでしょう?勇者様に少しでも叛意あり、と思われれば腰に下げてる剣で斬られちゃいますよ?」
「そうですか……気をつけます」
「それがいいぜ」
「良い判断です。あの兵士たちは月が真上に登る時……鐘が三回鳴ったあとに首を跳ね始めます」
なるほど、勇者のお膝元とはいえ、本気で勇者を崇拝している人間は少ないようだ。だからと言って、魔物に好意を抱いている人間が多い訳ではないのだが……
「色々、ありがとうございました。それでは私はこれで」
俺は礼をして二人と別れる。
「気をつけてな!」
「お気を付けて!」
二人とも笑顔で見送ってくれた。目の前の男が魔王だなんて全く感じてないんだろうな……
そして、遂に城の入口にたどり着いた。もう日は完全に沈んでしまい、空には星が見え始めている。
俺は、開かれた門から堂々と城に入る。人化を解いて魔力を纏いながら……
気が付いた兵士が俺に斬りかかって来たが、全員フィアの雷神波を俺の模倣者でコピーし、さらに高利貸によって威力調整した魔法で戦闘不能にしてやった。全員、死なない程度に意識を飛ばしてやった。
という訳で、城の内部までさしたる抵抗を受けることなく侵入する事が出来た。
城に入ると、一人の男が俺を見下ろしていた。
「いやいや魔王とやらよ、本当に来るとはな。相当馬鹿な様だ」
「誰だおまえ」
「私の事か?この城の主とだけ言っておこうか」
「お前が勇者か!散々酷いことしやがって、今殺してやるからそこを動くなよ!」
「殺すと言われて動かぬ馬鹿は魔物だけ……それに、魔物の分際で私に罪を被せ様なぞと……あの虫けらを消せ」
そう言うと、勇者は奥の部屋へと姿を消した。俺はすぐさま追いかけようと階段を登ろうとする。その時、左右から同時に攻撃を食らった。俺の身体は、その攻撃で潰されてしまった。元の形が分からないほどに。不朽体で復活するのだが、身体が潰されるのは痛い。痛覚も少々麻痺できる能力が欲しい……
俺を潰したのは、天井まで届きそうなほど大きな石の塊だった。いや、石の化け物だ。そいつは意思をもち、勝手に動いている。
(ストーンゴーレムね……これは……雷神波は効かないわよ……)
フィアさんが爆弾発言をする。まともな俺の攻撃魔力はそれくらいしかないのだが……
(それって俺、攻撃出来なくない?)
(え?今の攻撃、跳ね返したらいいじゃない、高利貸で!)
なるほど、この手があったか。
俺はレベルの上昇により、倍率が0~12倍になった高利貸で今の攻撃をゴーレムに跳ね返した。
ゴーレムはバラバラに崩れた。
俺は勝利を確信して、勇者のあとを追おうと走ろうとした。しかし、崩れたはずのゴーレムがなんとまた、形を取り始めたのだ。しかも、以前より大きく……
(おいおい、復活したじゃねーかよ)
(あれれ……?)
(それどころか強くなってないか?)
(そう見たいね……)
どうしたものかと悩んでいたが、ゴーレムの攻撃はもちろん止まらない。俺は避けながら(途中何度も潰された)、短剣でゴーレムを切りつける。当然ながら、短剣が痛むだけで全くゴーレムにダメージを与えている様子はない。
普通にやばい。負けはしないが、俺に有効打がないのだ。というか、俺の方は痛みで気が狂いそうに何度もなっている。一人だったら間違いなく発狂してただろう。
しばらくそんな状況が続いた。精神的に俺は疲れて来たが、ゴーレムは全く疲れを感じていないようだ。それどころか、今まで以上に攻撃を繰り出してくる。
(かなりまじでやばいぞ……!)
(主様、苦戦を強いられているようですわね?ちょうど迷宮……いえ、魔王城が出来ましたわ。ちょっとだけ、私の力をマスターに分けますわ)
レイアが俺に話しかけてきた。それと同時に、模倣者が『黒煉焔』を検知した。
(お使いくださいな)
そう言ってレイアはまた指輪に消えた。俺の中に気配はない。俺は有難く能力を使わせて貰うことにした。
俺の手から黒い炎が吹き出てゴーレムを襲った。ゴーレムは必死に抵抗していたが、遂に動かなくなった。燃えていたのに、周りには一切燃え移っていなかった。
(石って燃えるのね……)
(俺は聞いたことないよ……)
フィアも俺と同じことを感じたようだ。目の前で石が灰と化したのだ。灰の山に成り果てたゴーレムを見ても、勝った実感が湧かないのはこのためだろう。
(石がなぜ燃えるか気になりますの?)
レイアはまた突然現れる。フィアと違い、どこにいるのかがわからないので毎回驚いてしまう。
(普通萌えんだろ……)
(普通燃えないわよ……)
同時に同じ意味の返しをレイアに送った。
(うふふ……だってあの炎、対処以外には燃え移らない代わりに、対象は何であろうと必ず燃やしますもの……水にも負けませんのよ?)
(それって火じゃないよな?)
(ええ、『炎』ですわ。いや、『焔』ですわね)
そういう問題なのか?
(それより主様、勇者を追わないで良いのですか?鐘が二回なりましたわよ?)
レイアの言う通り、鐘が鳴った響きが小さいがまだ聞こえる。時間がない。俺は勇者が消えた奥の部屋へと走った。
部屋の先は一本道で、扉が奥に一つ付いていた。俺は扉を開けて奥に進む。すると、その先にまた同じ様に扉があるのだ。何度開いても、同じ道が現れる。
「ふははははっ!魔王よ、我が無限監獄へようこそ。貴様はそこで一生扉と廊下を行き来しておるが良いわ!貴様の国とやらは、私が帝国の属国にしておいてやるから、安心して死ぬがよい」
勇者の声がどこからとも無く部屋に鳴り響く。どうやら閉じ込められてしまったらしい。それも、出入口の見える果てしない無限の部屋に……
(何やってるのよ!サトルのバカ!)
(フィアも行けっていっただろ……)
時間もないのに、出られない。話にならない。
そして俺は、過去に体験したことのない危機を迎えていた。ゴーレムでは死ぬ恐怖はなかった。が、永遠に続く部屋では、死なない事がさらに苦痛へと変換される。何としても、ここを抜け出さねば……
20話!!ありがとうございます!