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迷宮指輪

 



 来た時とは反対の位置にある門の前に俺は立っていた。最初の門と違い、門兵すらその門には付いていなかった。それ程、勇者の城がある方向からは魔物が襲ってくることはないのだろう。驚くほど無防備だった。新しい能力のおかげで、人間に化けることがうまくなったことも大きい。


 俺は誰にも怪しまれることなく、町から出る事が出来た。まぁ、金遣いが目立ったかもしれないが、迷宮を創れる指輪は大きな収穫だろう。ほら、だって迷宮って魔王っぽくない?


 俺は町を出ると、勇者の城を目指して歩き始めた。町の門が遠くなってきたので、人化能力を切る。抑えられていた魔力が全身に流れ込んでくるのがわかる。力がみなぎり、身体が軽くなった様に感じた。というか、人間の身体が弱すぎるのだ。慣れると調節出来るのだろうか?出来ないのなら、あまり人にはなりたくないな……と、完全に魔物に慣れてしまっている俺がいる。ついこの間まで、普通の人間だったはずなのに。


 しばらく歩いていると、


(ねぇねぇ、その指輪使ってみてよ)


 フィアが指輪の能力が見たいと騒ぎ始めた。俺もどんなものか見てみたかったので、


(よし、使ってみるか)


 俺は指輪を店主に言われた様にこすった。


 周りが暗くなったかと思うと、石レンガで囲まれた小さな部屋の中にいた。


(おいおい、マジかよ……)

(閉じ込められちゃった!?)


 店主に騙されたと思い、怒りがこみ上げてくる。怒りに任せ、部屋ごと壊してやろうかと思ったとき、


「これはこれは主様(マスター)、いきなり私の家を壊さないで頂きたいですね」


 後ろの壁が突如聞けたかと思うと、白い翼を背中に折りたたんだ銀髪の女性が現れた。


「私はこの迷宮(ダンジョン)の主、レイア。よろしくですわ」


 そう言うとドレスを指でつまみ、ペコりと頭を下げた。


 フィアがペンダントから飛び出す。


「あなたもしかして天使族(エンジェル)?」


 フィアの問にレイアはにこりと微笑むと、首を横に降った。


「確かに以前は天使族でしたわ。でもね、地上に興味を持ち過ぎて破門されちゃいました」


 こっちの世界にも天使とかいるのかよ……てか破門?


「ってことは、堕天使、とでもいうのか?」


 俺はレイアに質問する。するとまたレイアは微笑んで、


「確かに堕天使でしたわ。でも、天使には信仰が必要……それは堕天使も同じで……人間に信じてもらおうと人間の願いを叶えていたら、いつの間にやら悪魔族(デーモン)になってました……うふふ」


 翼を広げてくるりと回って全身をみせる。


「え!?天使と悪魔って真逆じゃない!初めて聞いたわよ!」

「私もですよ、精霊王さん。恥ずかしいので指輪に隠れて過ごしてましたの……それを主様(マスター)が買っちゃうから私のせっかくのお家が……」


 と、わざとらしく悲しそうな顔をする。


「下手な芝居ね!でも、なんで精霊王ってわかったの?私のこと」

「だって主様(マスター)とあなたはこの世界の生き物じゃないでしょ?それに主様(マスター)はさらに遠い世界から……」

「だからなんでそんなこと分かるの?」

「こっちの世界のやつらは向こうのこと知らないはずじゃ……」


 俺とフィアの疑問を笑うかのように、レイアは得意気に話し出す。


「私、これでも元天使ですのよ?天界は色々な世界と繋がっていましてよ?それがたまたま、あなた達の元の世界とも繋がってるってだけの話よ?まぁ、マスターはどこから来たか本当は分からないけど……」


 レイアはヨーゼリアたちの世界を知っている様だ。それに、この感じだと他にも世界があるのだろう。


「あ、そうでしたわ!世界の声……これも天界の仕業ですわよ?」


 これにはフィアも本気で驚いたのか、常に落ち着きのないフィアが俺の方で完全に動きをうしなっている。仕組みをイマイチ理解してない俺ですら驚いているのだから、長年親しんでいたフィアの驚きは凄まじいものだっただろう。


「まぁ、それは置いといて……マスター、迷宮のお話に移りますわね」


 そう言って左手で壁をなでる。


 すると、四方の壁が溶けてしまい、あとからヨーゼリアの城の内部の様な立派な部屋が現れた。


「迷宮の中では、世界の法則はほぼ無視できます。それに、設定を触ればこの中で死んでも生き返らせますわ。人も閉じ込められるし、住むことも出来る。入口を隠しちゃえば出入りは出来ないし、内装も思いのまま!!……まぁ、それ相当の魔力と魔石が必要ですが……」

「広さは?」

「広さですか?そうですね……マスターが私を購入した町の半分くらいの広さを100階層くらい作れますわね。材料と魔力さえ続けば無限に増やせますが……私が大変ですので……うふふ」


 という事は、魔物の国(ティアマト)の規模なら、全ての村を収容出来かねん広さの地下迷宮を創り出す事が出来るということだ。これは、利用価値がかなり高い、そう俺とフィアは目を見合わせる。


「さて、ご希望はございますか?」

「うーん、正直考えてないんだけど……」

「魔王城!サトルの住めるお城を作ってよ!魔王なのにお城がなくて、ちっちゃい小屋に住んでるのよ……」

「魔王城ですか……ふふふ、内装はおまかせで?」

「うん!わたし分からないもん!いいよね?」

「あ、ああ……」


 フィアに押される形で俺も了承した。レイアの顔を悪そうな微笑みに包まれたような気もしたが……


「では早速取り掛かりますわ!マスターの魔力を少々使いますが……そうそう、さっきの店で戴いた鞄を貸していただけますか?」


 そう言うと、俺の腰に付いている鞄の中に手を突っ込む。何やら探していたが、手を出すと


「やっぱりありましたわ!」


 石のような物を振り回して喜んでいる。色は黒いが、時々色鮮やかな輝きを放つ。


「なに?」

「魔石、ですわ」


 これが魔石か。これだけで足りるのだろうか?


「それでは作業に移るので、マスターたちは外に……勇者を倒す頃には完成させておきますわよ?」


 俺たちにウィンクをすると、迷宮から放り出されてしまった。


(がんばってくださいませ!)


 頭の中にレイアの声が入ってくる。どうやら、俺の中には悪魔と精霊が住み着いてしまったようだ。


 それから、いくら呼びかけても返事をしないので、俺たちは諦めて歩きはじめる。


 しばらく進むと、うすく大きな建物が見えてきた。ドルフトフの地図を信じるなら、あれが勇者の城だろう。もう1時間もすれば着くはずだ。


 その時、


(あぁ、マスター?この辺りから兵士が待機しておりますわよ?人に化けた方が宜しいのでは?それと、いくらかお金を渡せば、大抵通してくれますわよ)


 レイアが突然話しかけてきた。確かに、いくらレイアが魔力を抜いているといっても、頭の上を飛んでいる鳥ですら避ける程の魔力が溢れているのだ。これではあまりにも怪しすぎるだろう。素直に人に化ける。そして、鞄のなかから銀貨の入った袋を取り出すと、ポケットに移し替えた。この世界でも、賄賂はやっぱりあるようだ。


 レイアの言った通り、兵士たちの集団が所々たむろしていた。


「おい、そこの旅人」


 兵士の一人が俺に声をかける。相手は5人だ。


「はい、何でしょうか?」


 俺は出来る限り丁寧に応える。


「どこへ行く?」

「はい、勇者様を是非とも一目見たく、お城まで……」

「何だと?怪しいやつだな?」


 そう言うと、おもむろに左手を突き出して来た。通りたければ賄賂を寄越せということだろう。


(どれくらいやればいいの?)

(銀貨一枚でも多いくらいですわ。一枚で十分かと……)


 と言うので、兵士に銀貨を一枚握らした。


「何とぞ隊長殿のお力で……」

「ん?ああ……そこまで言うのなら……よし、通って良いぞ」


 兵士は銀貨を渡された事に多少驚いたのか、しばらく護衛を買って出てくれた。


「それでは、我らはここで持ち場に戻るぞ。道中、気をつけられるよう」


 そう言うと、残りの兵士を連れて戻っていった。


 城までの道のりでそんなことが3回も他に起こった。まぁ、賄賂と人化けが効いたのか、全く問題なく城まで辿り着くことが出来たのだが……


 俺は勇者の城についた。ここが昔クレアが治めていた魔王城だ。


 城とはいっても、城壁の内側には町が出来ており、今まで見てきた町の中で最大の規模と活気があった。もうすぐ日もくれようとしているので、俺は真っ直ぐに城の入口へと向かった。

いよいよ勇者を倒す時が……!!次回から魔王vs勇者です!よろしくお願いします。

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