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人化け魔王

 



 勇者の城までは長かった。ひたすら真っ直ぐにあまり舗装されていない道を歩くのだ。途中、少し休もうと(肉体は疲れないので休む必要ですないのだが)したが、俺から溢れ出る魔力と云うか雰囲気と云うかで、警戒して誰も泊めてくれない。仕方がないので、俺はただただ歩き続けた。


 フィアは当然の事ながら、ペンダントの中ですやすやと眠っている。憎いやつだ。


 もう二日目の日も暮れるという時、俺の中に言葉が響いた。


(能力『人擬態』を獲得。魔力量を調節して人化する事が可能になります)


 そう言えば、戦争とかでレベルは32まで上がっていたが、新しい能力は手に入らなかった。既存能力の強化程度だった。


 それにしても、上手く人に化けられると言う能力は嬉しい。早速、俺は能力を発動した。


 全身の力が抜けていく。身体が重くなったようだ。人前に出る時以外は使わない方が楽だな……


 俺は日の落ちた道を歩く。ドルフトフの地図によると、もう少し先に行ったところに小さな町があるようだ。この町から勇者の城までは歩いて3時間程……せっかく人に化けられるんだから、今夜はこの町で宿をとろうか。そう思い、俺は街を目指して歩いた。


 街の入口は、不用心にも開け放されていた。いつも俺は門を飛び越えて忍び込んでいたのだが、どうやら国の中の方なので魔物の侵入もないのだろう。欠伸をかいた門兵が一人見張りに立っているだけだ。


 俺は正面から門を通る。門兵は俺を認めると、


「旅のお方で?」

「はい」

「このご時世、珍しいですな」

「そうですかね?」

「まぁ、金持ちの道楽ですよ」


 と素っ気なく声をかけ、話し終わると向こうを向いてしまった。まぁ、俺的には助かるんだが、あまりにも緩すぎないか?


 町は小さかったが華やかだった。夜だというのに、門から繋がる道の通りは明るい。人々も外に出ていて活気が有った。カエサリアとは比べ物にならない。


 俺は小道具を売っている店の男に声をかけた。


「旅をしてる者ですが、宿屋はどちらにございますか?」

「あぁ?旅人だ?あんたどこのもんか知らんがな、人の店に来て、物も買わずに尋ねるなんざ、余程の田舎者だろう?ほら、貧乏人の田舎者は帰った帰った!」


 そう言って俺を店の前から追い出そうとする。俺は少々こいつを驚かしてやろうと思った。


「じゃあ、この店で1番高いものを見せてくれよ」

「高いやつ?どうせ買えねぇだろうが、せっかく田舎からはるばるやって来たんだ、見るだけ見せてやろか」


 男は店の奥に姿を消すと、右手に小さな箱を持って帰ってきた。


「ほら、これがうちの目玉の魔法道具(マジックアイテム)の指輪さ。腕の良いドワーフの作った一流品さ!こいつを付けると、迷宮(ダンジョン)が作れる。まぁ、所有者が一度決まるとそいつ以外使えないけどな」


 そう言うと箱を開いて見せてくれた。俺が盗むとかは考えてないのだろうか?銀のリングに、濃い赤に近いピンクの石が嵌められている。


「それで、これいくらなの?」

「銀貨6000枚さ!」

「そ、なら買うよ」


 俺は金貨を一枚取り出した。魔物の国(ティアマト)の金貨だと、帝国内ではまずいだろうと、カエサリアでハンニバルに両替してもらった。今の俺は帝国金貨を20枚と銀貨を1袋もっている。


 俺が取り出した金貨を見ると、店主は目を丸くした。


「あ、あんた、本当に買ってくれるのかい!?」

「ん?そうだけど?」

「し、失礼しやした!旦那!」


 店主は態度をコロッと変えると、とても親切に説明をし始めた。


「旦那、この町で一番の宿屋にあっしが案内しやす」

「それは助かる、ありがとう。お釣りは要らないから、宿代とかも払っといて貰える?」

「へい!もちろんです!」


 今までの愛想の悪さがウソだったかの様に俺に話しかけてくる。それどころか、


「この指輪ですがね、持ち主と一緒に移動するんですよ。だから、一度迷宮を創れば持ち運び自由!それどころか、迷宮の中身は所有者の思いのまま!改造自由ですぜ!なんと言っても、これさえあれば、地上では無いですが地下の城を持つのと同じですわ!それに、入口を隠したら誰も入れやせんし、誰も出れやせん!」


 なるほど、クレアの移動小屋と似ているな。俺は店主から指輪を受け取ると、右手の人差し指に差す。


「旦那旦那!指輪は左手の薬指に付けないとダメですよ!効果が発動しやせんから!」


 そう言うと俺の右手から指輪を取り、左手に付け替える。


「これでよし!」


 店主は余程の上客を捕まえたと思ったのであろう、その他色々な物をつけてくれた。


「これは空間鞄と言って、物をたくさん詰めれやす。まぁ、言ってみれば容量が見た目より遥かに多い鞄なんですわ」


 そしてその鞄のなかに回復薬やら旅の地図、軽いお菓子(フィアの胃袋へ)などもたくさん詰め込んで渡してくれた。


「これはあっしからの贈り物です!この町に来た時は、是非あっしの店をご利用くださいませ!」


 店主は俺を宿屋まで案内すると、低く頭を下げて帰っていった。宿屋の方も、店主からお釣り分を分けられているのだろう、とても丁寧に俺を部屋まで連れていってくれた。部屋も、ヨーゼリアから借りていた部屋よりも豪華に感じた。


 俺は部屋の鍵を掛けた。久しぶりに身体を洗える。いつの間にか、フィアもペンダントから抜け出ていた。もちろん、店主から貰ったお菓子は空になっていたが……


 歩いて泥まみれになった体と髪を洗う。ヨーゼリアのとこでもそうだった様に、フィアは湯船をティーカップに乗って浮かんでいる。


 身体の汚れを落とすと、柔らかいベットに倒れ込む。ここ最近、ゆっくり横になる機会が無かった。俺は眠らなくても良い肉体になったのだが、その日は眠りに落ちた。洗濯物はフィアの魔法で一発だろう……明日は勇者との約束の期限……


 目が覚めると、机の上には朝食が用意されていた。パンとスープ、果物にサラダ、帝国領に入って初めてステーキが出た。味もカエサリアの物とは違う。しっかりと味がするのだ。


 まぁ、俺が味わう前にフィアがほとんど食べてしまうのだが……


 俺はふと窓から外をみた。そこには、整った街並みが見える。しかし、その先をよく見ると、倒れそうな建物が並んでいる。そこに向かって一人の少年が走っていた。パンを片手に。それを兵士が追いかけている。少年がもう少しで逃げ切れる!そう思ったとき、少年は転んだ。そして追い付いた兵士は、持っていた槍で少年を突き刺した。


 兵士は何やら叫ぶと、崩れそうな建物から数人の貧しげな人達が出てきて、少年の死体を運び始めた。兵士たちはそれを見届けると、綺麗な町の方に向かって歩き出した。


 どうやら、この町もカエサリアと同じで貧しい者がいるようだ。それどころか、貧富の差が激しいのだろう。今の少年だって、たった一つのパンの為に殺されたではないか。


 俺は何とも言えない気持ちを胸に残し、部屋から出る。今日は勇者の城に行かないといけない……ドルフトフの部下の家族の命と、囚われた魔物の国(ティアマト)の領内の魔物のために。


 殺された少年に手を合わせ、俺は町をあとにする。勇者を倒したら、せめて飢えで盗みをしなければならなくなるような人達を作らないように、公平に食料を分配しよう。そう心に誓って……

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