建国と戦火
魔王の森を中心として、過去に類を見ない魔物の国が出来上がった。国の王は俺だ。というか、クレアの職務放棄?によって成り行きで魔王になってしまったのだ。
国が新しく建国されると、もちろん問題も発生する。第一に、人口の急激な増加だ。
俺の村では、三種族を合わせても500人足らずであったが、呼びかけに応じた、森中の魔物たちを合わせるとその数は10万弱となった。
この数の食料を賄うのは、一言で言うと大変だ。しかし、ウルフトが興した発展計画によると、森の汚染が終わったことにより、食料生産は跳ね上がるので、食料自給は心配する必要がないらしい。
次に、国の名前と首都だ。
首都は当然ながら、俺の村に決まった。発展度も高く、交通の面からしても中心となる土地に位置しているからだ。
首都の名前がバーダントになったのは不本意ではあるが……
問題なのは国の名前だ。
ただ『魔物の国』とするだけでは、当然のことながら他国に侮られる。色々な種族が、様々な意見を出し合ったが、遂に結論が出ることはなかった。
それに終止符を打ったのがクレアだ。
クレアが一言、
「魔物の国はどう?」
言っただけで場は全て鎮まった。どうやら、みんな納得したようだ。
この時から、魔物の国は
『魔境国家ティアマト』
と呼ばれることになる。
最後に問題となったのは、俺の事だが、ほとんどの種族には名前がなかったという事だ。
自我を持たない魔物はとりあえず無視する事にして、魔物の国に参加している魔物たちに名前がないのは不便である。
……まぁ、文化力が低下する、というのが本当の理由なのだが……
という訳で、俺は10万に近い数の魔物たちに名前を付けた。
名付けだけで3日もかかってしまったのだが……
それは、俺の体力の限界と名前のネタ不足が原因なのだ、断じてサボっていた訳では無い。
後でクレアに聞いたことなのだが、自分の配下の魔物に名前を付けるのは、戦力の増加に良い事何だが、対価として肉体が消耗させられるらしい。
これは、肉体を持たない精神体にも適応される。だから、クレアも滅多に名前を付けたりはしなかったようだ。
俺の場合、肉体がダメージを受けた瞬間に、魔力を消費して不朽体によって修復されるので、目立った損害は出ないようだ。
これはフィア先生の診断結果なのだが、我ながら、中々のチート能力だと思う。今考えれば、ヨーゼリアが興奮していた理由も良くわかる。
(ところで、ラフィーネたちは無事なんだろうか?)
フィアも分からない場所に飛ばされてから、何やかんやとすでに数ヶ月が過ぎている。未だに元に戻る手立ては少しも見つかっていない。
それからさらに時は流れた。
ウルフトを中心に内政部門を作った。
この部門は、耕作や国内での経済活動、交通、住民の把握などの内政一般を全て行う。もちろん、ハイオークの建築部隊もここに所属している。
次に、フェンリルを中心とした戦闘部門だ。
これは主に、哨戒や偶に襲ってくる盗賊や、自我のない魔物たちの殲滅を行う。いずれ、勇者討伐の主力部隊となることは間違いないだろう。
そして、1番力を入れたのは、魔物の子供たちに学ばせるための教育部門だ。ここには、妖精族の族長、ベルリアを中心に国の教育を発展させる。
ベルリアは、三千年を生きた、森の中でも最長老の一人に入るほどの博識者だ。
ありとあらゆる言語や歴史、文化、魔法の知識を持っており、この国の中でもっともこの職に向いている存在と言っても過言ではないだろう。
大きくはこの三つである。その中に、それぞれ細かい役職や職務が存在するが、それは各大臣の裁量に任せよう。
それ以外の魔物たちは、耕作をしたり、商いをしたりとそれぞれの仕事を続けさせている。
今回、魔物の国に参加した種族は実に多様である。その中でも、勢力の強いものをまとめると、
ドワーフ
ゴブリン(オーガに昇華)
ベオウルフ
馬頭族
牛頭族
天狗族
猪人族
妖精族
なのだが、この種だけで9割を占めている。
あとの少数種族としては、エルフやダークエルフがいるが、どれも100個体程度であり、種の経営だけで手一杯なので、あまり戦力としての期待は出来ない。
クレア曰く、少数精鋭なので、いざと言う時は役に立つそうだが、なかなか村から出てこないので、コンタクトのしようがない。
同じ少数種族でも、進んで働こうという者達もいた。
吸血鬼である。彼らは7個体しか森には存在しない。
彼らの身体から採取できる素材が、高価な品物として取引されるので、人間に狩られまくったそうだ。
絶滅を恐れ、森の奥に潜んでいたようだが、クレアと俺の活躍を聞き、出てきたよだ。
彼らは、一言で表すと美男美女の集まりだった。あまりにも美しかったので
「吸血鬼はみんな美形なのか?」
と聞いてしまった程だ。
「人間を惑わして、血を獲るのがは我々ですから、ふふっ」
と恐ろしい事をさらっという。
「あ、もちろん、少し血を分けてもらうだけで、殺しはしませんよ?」
それならいいか……?
彼らはクレアに聞くと、とても戦闘力も高く、彼らも希望したので、魔王親衛隊として活躍することとなる。
隊長にブラド。これが見た感じ一人だけの男だったのでブラドと名付けた。
彼らは名前持ちだったようだが、是非名前を欲しい!と言われたので、仕方なく付けてやった。
ロザリオ
スピカ
デネブ
エウロパ
メサ
マリア
だ。
名前のセンスが、キリスト教や星の名前で吸血鬼っぽくないのは気にしないでくれ。それは俺も理解している。本当は統一したかったのだが、「今すぐ!」とアピールされてしまったので、思い浮かんだ名前を付けるしかなかったのだ。
こうして、国家としての体制は、一応整った。
しかし、平和な時間は長くは続かなかった。
突然、人間が10人ほど現れると、いきなりバーダントに入り、俺の小屋までやってきたのだ。
魔王と言えば城かもしれないが、国としての発展が先だと思い、クレアの小屋で一緒に住んでいる。この小屋は案外住んでみると快適で、見栄えもそれなりに豪華だ。
彼らはいきなり俺の前に立つと
「偉大なる勇者様からの御達しだ!心して拝聴せよ!」
と、大声で紙を開くと読み始めた。
「新たなる魔王サトル・バーダント、及び魔物の国の住人に告ぐ。我らに忠誠を誓い、土地を明け渡し、人間に仕えよ。さもなくば、正義の鉄槌がお前達を襲うだろう」
と読み終わるなり、紙を畳むと大きな態度で
「以上が勇者様からの司令だ。返答を今すぐよこせ。それと、魔王は我々について勇者様の城まで来てもらおうか」
とまるで、俺たちを見下すかの様に発言した。
これには、俺と言うよりも、クレアがキレてしまった。
今、勇者の手紙を読んだ奴の足を、一瞬にして切断してしまったのだ。
「!?」
男は自分の身に何が起こったのか信じられないのか、足のない身体で地面を這いつくばっている。
「勇者とか言うクソ野郎に伝えろ!我らは降伏なぞせん!貴様らを滅ぼすまで、必ず戦い抜くだろう!」
クレアが一喝すると、使節たちは足のなくなった男を抱えて、元の場所へ戻って言った。
「お、覚えてやがれっ!」
と、小物の様な言葉を残して。
クレアは小屋から出ると
「者ども!戦の用意だ!勇者はサトル様を侮辱した。恐らく、我らの国を滅ぼさんと軍を向けるだろう。ならば、今度は我らが奴らに勝ち、再び我らが森に覇を唱えようぞ!」
……クレアさん?ちょっとキャラ変わってないっすか?
そう思ってしまうほど、クレアは怒っていた。
それに応えようと、他の魔物たちも
「勇者討つべし!」
と拳を突き上げ始めた。
(サトルお兄ちゃん、あとはお兄ちゃんがみんなをまとめてね!)
今までのが嘘だったかのように、クレアは俺の方をみて舌を出している。
……これは嵌められたな……
そう思いつつも、俺も相当キレていたので、
「みんな、今度は勝とうぜ!」
と一言みんなに向けて言った。
その瞬間、首都バーダントは割れんばかりの歓声に包まれた。
誰からともなく
「魔物の国万歳!魔王サトル様万歳!」
と合唱が始まる。
こうして、束の間の平和は破られ、勇者を討つべく魔物の国は動き始めたのだった。
これにて異界建国編終わりです!ありがとうございました!!