森竜討伐②
少女は自分の名前を名乗った。クレア、と言うらしい。
「ところでお兄さんたちは?」
「俺はサトル。遭難者だ。今は村の長をしてるよ」
「私はのフィア!サトルの契約精霊だよ!」
「サトル君にフィアちゃんね、よろしく!」
「こちらこそ!」
名前を教え合ったからだろうか、フィアとクレアがとても仲良く感じる。フィアに至っては、もう俺の肩ではなくクレアの肩に座っている。
ちょっぴ負けた気がして悔しい。
「あ!サトルお兄ちゃん!」
お兄ちゃん?
「遭難者ってスキル?それとも人魔族の特性?」
クレアは遭難者について知らないのか?
「ん?別世界から紛れ込んだ転生者らしいぞ?」
「え!私も1000年近く生きてるけど、そんなの聞いたことないよ!」
「でも俺がこの世界の生き物じゃないのは事実だし……」
どうやらこの大陸では遭難者と言う概念がまだないらしい。クレアの驚きようから嘘でないことがわかる。
……てかおばあちゃんじゃないか、1000歳って……
「あっ!」
フィアが突然声を上げた。
「どした?」
「いや、もしかしたら私達、ミューラントからの遭難者じゃない?」
「というと?」
「ほら、基本ミューラントに遭難者が紛れ込むのだけど……私達が飛ばされちゃったとか?」
となると、俺は2度も異世界に飛ばされた事になるのか?
「でも、ここには連れてこられたわけであって、そもそもまるごとルールが違う訳でもないんだろ?世界の声とか、俺の元の世界ではなかったしな」
「うーん、確かに……調査が必要ね……」
「私も協力するよ!」
クレアも興味が湧いたのか、ミューラントや俺の元いた世界について耳を澄ませている。
そういえば、クレアに頭に耳が生えているが、何の種族なのだろうか?
「クレアってなんの種族なんだ?」
「私は妖狐族だね!元は多分普通のキツネだったんだけど……人間に尻尾切られちゃってからなんか魔物になっちゃいました!ふふふっ」
最後の微笑みは少し怖かったぞ。
「普通の動物でも、魔物になるんだな」
そして、この世界にキツネがいることにも驚いた。もしかしたら、犬や猫もいるかもしれない。いつか探してみよう。
俺たちは小屋から出た。
クレアが小屋から出ると、そこには何も無かったかのように、背の高い草が生えているだけの空間になった。
「あれ……?」
俺とフィアはもちろんのこと、外で待機していたフェンリルたちも驚いてしまった。
「小屋は!?」
俺がクレアに尋ねる。
「ふふふ!私のお家はキャンプの様に持ち運び自由なのだ!」
あまりにも便利なので、俺も模倣者で真似ようかと思ったのだが、魔法道具だそうで出来なかった。
フェンリルたちの前に戻った。
そこでクレアを紹介する。
「えーと、ドラゴン討伐に協力してくれる事になった、魔王のクレアさんです、みんなよろしくしてやってくれ」
俺がクレアの名前を出した途端、フェンリル達はことごとく平伏した。
「魔王クレア様ですと!これはこれは……よくぞご無事で!!」
「先の戦争では、全く力に成れずに申し訳ございませんでした……」
口々にクレアの無事を喜ぶ言葉や、勇者進行に駆けつけられなかった事を詫び始めた。どうやら、本当に魔王だったようだ。
「うーん、これからはサトルお兄ちゃんの下につくから、私はもう魔王じゃないよ?」
おい、俺の下につくなんて聞いてないぞ?それより、また厄介なのを村に住ませることになってしまう。
「なんと!サトル様の元に!!我々一同、これ程までに心強きことはございませんぞ!!」
「えっへん!」
何故かフィアが得意そうに胸をそらす。フィアも、村のみんなからは何故か敬われている。まぁ、最初に敵を撃退したのはフィアだし、当然と言えば当然か?
「あー、それとみんな。どうやらドラゴンは勇者に操られているヴァレキュレアって真竜種で、クレアの友達みたいだから、間違っても殺しちゃわないように」
一応注意をしておく。間違って殺して、クレアに暴れられたら元も子もない。なんたって、見た目は可愛くても、中身は魔王なんだから。
俺たちは、再び森の奥を目指して進んだ。
ハイオーク2匹は歩き、オーガ2匹がベオウルフに乗り、フェンリルに俺とクレア、そしてクレアの上にフィアが乗って移動する。
クレアはキュレアまでの道が分かるらしく、キュレアに会うまで時間はかからなかった。
キュレアは、森の奥の少し高くなっている場所にある湖の小島にいた。全身赤く、翼を広げていない状態で、フェンリルが10匹分くらいの大きさがあった。
「おーい!キュレアー!迎えに来たよー!」
クレアの呼びかけに応じるかのように、こちらへ飛んでくる。
しかし、友好的でない証拠に、俺たちに向かって火を噴いてきた。
直撃したのは俺だけだったが、俺は熱帯性があるのでダメージは少ない。それに不朽体があるのですぐに回復する。
「サトルお兄ちゃん!キュレアを止めるにはまず呪いをとかないと!私は呪いで近づけないから!」
クレアは少し俺たちから離れると俺たちに言った。
「キュレアは頭の後ろに魔力溜があるの!そこを攻撃したら、操られてるキュレアなら回復は出来ないわ!」
「了解!」
(ベオウルフ隊はその素早さで敵を撹乱させつつ、小出し攻撃を!)
(はっ!)
俺はフィアから貰った意思疎通能力を使い、戦闘をしながら指示を出す事に成功した。
(ハイオークは前衛防御、その後ろからオーガは正面攻撃!)
そして俺は、隙を見つけてキュレアに飛び移る。
フェンリルたちが攻撃をして、ハイオークたちが堪えているとき、フィアが突如魔法を放った。
「雷神波!!」
空一面が光ったかと思うと、キュレアに雷が落ちた。
(私のとっておき、精霊魔法よ!これでドラゴンと言えども、しばらくは思うように動けないはずよ!)
(良くやった!あとでお菓子をあげよう)
(やった!)
俺はキュレアの動きが悪くなった隙に、背中へとよじ登った。
キュレアも異変を感じたのか、俺を振り落とそうと翼を動かす。が、フィアの雷で思うように動けないのか、俺はキュレアの頭にまで一瞬で辿り着いた。
(さて……俺には攻撃スキルはないんだったが……)
今の俺のメニューには、キュレアへと有効打として模倣者と高利貸が表示されている。模倣者を選ぶと、さっきのフィアの精霊魔法が表示されているので、それを発動した。
(模倣者起動、対象スキル雷神波を認識。高利貸にて威力を上乗せしますか?Yes/No)
なんと高利貸でフィアの技を強化出来るらしい。今思ったが、こと二つが有れば俺は初手を耐えたりするだけで勝てんるじゃないのか?と思ってしまう。
(こいつを殺さない程度で……)
すると、メニュー画面から意志が流れてきた。
(了解。倍率10、対象の首に雷を集中します)
次の瞬間、俺の右手から光が現れたと思うと、爆音と共に俺は吹き飛ばされた。
気がつくと、クレアとフィアが俺の顔を覗き込んでいた。フェンリルたちも周りにいる。
「あ、起きた!」
まず口を開いたのはフィアだった。
続いて
「サトルお兄ちゃん見た魔法使えるの?ならキュレアを封印しなくても、呪いを解けるわね!」
クレアが声を出した。そして、ドラゴンの倒れている方に俺を引っ張っていく。ラフィーネの力と違い、抵抗を許さない強引さがそこにはあった。まぁ、もちろん言われなくてもするつもりではあったが。
クレアはドラゴンにある程度近づくと、
「私はキュレアの呪いが解けるまでこれ以上近づけないから、この魔法で呪い解いてきて!」
と俺の前で何やら魔法を放った。
俺にはさっぱりだったが、模倣者さんは理解したようで、解除魔法が選択できる様になっている。
俺はキュレアに近付くと、魔法を放った。
キュレアは光始めると、人一人が乗れるくらいの大きさになった。
そして、真っ先にクレアの元へと飛んでった。
「キュレア〜!!」
「キュルギュー!」
二人とも抱き合って再会を喜んでいる。クレアはキュレアの上に乗ると、空へ飛んだ。
「さぁ帰ろう!サトルお兄ちゃんの村へ!!」
それに応えるように、キュレアは1度旋回すると、俺たちの前に降り立った。
何はともあれ、二人がまた再会出来て良かった。
俺たちが再会を祝っているとフェンリルが
「サトル様、森の土の汚染が治まりました。これで作物も育つでしょう」
「おお!」
フェンリルの報告に、他のメンバーも顔に喜びを浮かべた。
当初の目的も達成したし、クレアとキュレアも再会出来た。俺は湖を後にして、村へと帰路についた。
帰りはこれと言った問題もなく、無事に村に着くことが出来た。
問題と言えば、フィアが
「お菓子!お菓子!」
と言い続けていたのと、村にクレアが来たことと、俺がキュレアを止めて土を元に戻したので大騒ぎで、なかなか部屋に戻って休めなかった、という点くらいだろう。
まぁ、村として自給を始める土台が出来たのだ。今日くらい騒いでも良いだろう。