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Ⅲ Et cyber insania et vindicta flagrant

 次の日の朝。

 それは突然やってきた。


「ギルドマスター、緊急連絡です!イグニスより宣戦布告と思われる狼煙を確認しました!」


「・・・それは確実か?」


「間違いないです、既に十人以上が確認しています!」


「至急全冒険者に伝えろ。戦争の時だと。迎撃戦だ」


 そのときのグランの瞳には、決意の炎が宿っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ご主人様、ご報告があります」


「なんだ?」


 書斎で本を読んでいると、ティーナが話しかけてきた。


「戦争です。迎撃戦です。至急イグニス軍を殲滅せよと。これは最優先事項だそうです」


 遂に戦争が始まったか・・・。


「あ、それとスジャータ様から鏡が届いております。一度自分の姿を確認しろと・・・憎らしいと仰っていました」


 鏡か。確かにこの世界に来てから自分の姿を確認したことはなっかた。

 鏡が高いんだからな、仕方のないことだ。

 しかし、憎らしいとはどういうことだ?

 そう思って俺は徐ろに鏡を覗く。


「おいおい、これが俺・・・だと?」


 俺はそれを見て驚愕した。

 純白の髪に紅の瞳、顔立ちは少女そのものだった。

 前から「女の子みたい」とよく言われていたが、これでは「みたい」というレベルではない。

 しかも正装である服がブカブカで、より一層それらしさを際立たせている。


「あぁ・・・憎らしいって、そういうことか」


 男の娘なんて二次元だけだと思っていたが、まさか自分がそれになることになろうとは・・・。


「ご主人様はいつも魅力的ですよ?」


「ティーナ・・・お前は良い奴だよ・・・」


 俺はティーナの頭を撫で、気の向かない迎撃戦へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スジャータ=ルーン lv94

 称号:S級冒険者・魔剣士・超越者・不真面目・狂戦士バーサーカー・死神

 魔法属性:無 付与魔法

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「遅いぞ」


 ギルドに着くと、既に到着していたスジャータから喧嘩を売られた。


「誰のせいだと思ってんだ?」


 俺がそう返すとスジャータは「鏡か」と呟いた。


「さて、話すことは話したかい?それじゃ、出発だ」


 ベルゼンが魔法を詠唱すると、大きな魔法陣が現れ、それが俺たちを飲み込んだ。

 次の瞬間、俺たちは平原にいた。

 まず目に映ったのは、兵士と兵士が戦う姿。

 間違いない、最前線だ。


「いきなり最前線とか、聞いてないんですが」


 俺がそう訊ねるとベルゼンは、


「最前線じゃないとは言ってないなぁ」


と返した。


「お前、そんなに性格悪かったのか?」


「こう見えて結構性格悪いぞ」


「こう見えてって・・・」


 スジャータの発言にベルゼンは苦笑する。

 最前線でこんな余裕な会話ができるとは些か異常者な気もするが、そもそも能力が皆異常だったのを失念していた。


「ここからは手分けして殲滅だ・・・死ぬなよ」


「あぁ・・・分かってる」


「まだ調べたいこともあるしね」


 スジャータが呟くと、各々が応答する。ティーナも無言で首を縦に振った。


「さぁ、鏖戦だ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ベルゼン=スキュアート lv103

 称号:S級冒険者・超越者・研究者・ギルドの頭脳・電脳

 魔法属性:雷

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 彼女の名前はスジャータ=ルーン。

 S級冒険者のうちの一人であり、この世界では数少ない武器と魔法を一体化できる人物でもある。

 紫の長い髪を靡かせ、小柄な体を巧みに操って騎士軍を圧倒する。

 その暗黒色の瞳には獰猛な光が宿っている。それは恐ろしく、また悲しかった。


「しつこいな・・・!」


 スジャータは一人の騎士を切り払い、背後からの攻撃をかわす。

 直後、逆手に持った紅蓮の剣でその兵士を斬殺する。

 多くの騎士を殺したからか、その身に纏っているローブやマフラーは返り血で紅く染まっていた。


「こんな小娘一人になにを手こずっている!さっさと殺せ!」


 相手側の陣営から、指揮官らしき人物の叫び声が聞こえる。

 しかし、スジャータは一人違和感を感じていた。


(魔法を使わない・・・?)


 イグニス軍は一切魔法を使役しないのだ。

 短時間で大きな力を引き出せる魔法を使わないとは、なにか作戦があるのだろうか。


付与グラント鋭斬リズキリースラッシュ


 鎧による妨害が鬱陶しいと感じていたスジャータは、自身の剣に魔法をかけて鋭利にする。

 すると相手側の人間がこう発言した。


「魔法なんて、卑怯だぞ!正々堂々戦え!」


 この発言で彼女は確信した。


(彼らは一世紀も、二世紀も前の人間のようだな)


 彼女は心の中でそう皮肉を言うと、


「さて、愚か者共には死を与えないとな・・・」


 狂気的な瞳でそう呟いた。

 迫力に気押されたのか、騎士の動きが一瞬固まる。

 その一瞬の隙を逃さず、スジャータは一人の騎士に斬り掛かった。

 鋼鉄の頑丈な鎧を意図も簡単に切り裂き、その騎士は絶命する。

 誰もが彼女の剣の切れ味に驚愕した。


「ちょろいな・・・」


 スジャータは虚空にそう呟き、剣に付着した血を振り払う。

 正直、彼女はがっかりしていた。

 小柄で幼い見た目とは裏腹に、彼女は非常に好戦的であり、その戦う様は文字通り狂戦士である。

 単体での戦闘において、彼女の右に出る者はいないとまで言われている。


「まさか奴は・・・死神のスジャータ・・・!?」


 一人の騎士がそう呟くと、周囲に動揺が現れた。

 スジャータは何もせず、ただ「滑稽だ」と傍観している。

 すると、真剣の空を斬る音が辺りを沈黙で包んだ。


「臆するな、殺せ!我等に仇なすもの全てだ!如何なる犠牲を払ってでも、皆殺しにするのだ!」


 指揮官らしき人物の叫びが再び木霊する。

 暫くの静寂の後、騎士たちは剣を掲げ雄叫びをあげると、スジャータに襲いかかった。

 彼女がやれやれと肩を竦めるとーー


「我が神器よ。ヴィクトリアの狂気に従い、その力を発現せよ」


ーーその五、六十の騎士たちは暗黒色の剣によって、一瞬の内に死体と化した。


「なにが・・・起こったのだ・・・!?」


 残された後衛の騎士たちは、状況を理解できずに呆然としている。

 返り血がスジャータの体を紅に染め上げ、真紅の剣ーーバグロヴァオルジェは禍々しいオーラを放っている。

 この姿こそがスジャータの二つ名である死神に起因する、言わば彼女の本性である。

 剣を振り上げ、後衛陣の騎士たちに向かって、彼女はこう述べる。


「さて・・・死にたい奴から前に出ろ。全員私が葬ってやる」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうやらハズレか・・・」


 敵国が進軍してきた方向を見ながら、ベルゼン=スキュアートはため息をつく。

 スジャータとレオンの戦闘センスに刺激され、自分も活躍したいと思っていたようだが、もともと後方勤務の方が性にあっているし、まぁいいかと彼は自分に言い訳する。

 だが、彼の期待とは裏腹に、思いがけない幸運が訪れる。


「ここはあんただけか?」


 突如後方から男声が聞こえる。

 その方向を振り返ろうとすると、首筋に、嫌に冷たい感覚が走る。

 間違いない、剣を突き付けられていると、彼は冷静に判断する。


「あぁ、そうだよ」


 ベルゼンは両手を挙げてそう答えると、男は黙って剣を下ろした。


「見た感じ研究員だな・・・捕虜として来てもらおう」


「嫌だね」


 男が要求すると、ベルゼンは間を置かずに断った。


「僕をどう思おうと君たちの勝手だけど、独りよがりは身を滅ぼすよ」


 彼はそういうと、服で隠していた銃の引き金を引く。

 高速で放たれた弾丸は、男の腹へ吸い込まれていった。


「ぐっ・・・この攻撃・・・魔弾か・・・!?」


「ご名答」


 ベルゼンは両手に持っていた拳銃を露にする。

 彼は数少ない魔弾の射手である。

 魔弾とは、魔力を物理化した弾丸である。

 魔法の効果を受け継ぐことも可能で、その極致は魔法を凌駕する。


「魔弾の射手、電脳のベルゼンとは僕のことさ!」


「電脳のベルゼンだと・・・?」


 男はそれを聞いて驚愕すると同時に、ニヤッと口角を釣り上げる。


「どうやら俺は運が良いらしい・・・!」


 男はそう言って真剣をベルゼンに向ける。


「まさか魔弾の射手と戦えるとはなぁッ!!!」


 男は真剣を構え素早く間合いを詰めると、縦に一閃。

 ベルゼンはそれを紙一重で回避すると、二丁の拳銃から魔弾を男に撃ち込む。

 弾丸は鎧に弾かれたが、その着弾点から黒い針状の物体が顕現する。

 そこは男の利き腕であろう右腕である。


「ぐッ・・・!?」


 それは痛みを伴うようで、男はそれに顔を歪ませる。

 魔弾ズィーゲル。着弾点から黒い針を発生し、その部位を封じつつダメージを与える魔弾である。

 非常に強力だが、リロードできる弾数は少なく、連射には向いていない。


「封印弾か・・・だが・・・!」


 男は起点を利かせて剣を左手に持ち替えると、再び一閃する。

 ベルゼンは先程と同じように回避したが、頰が僅かに真剣に触れたのを感じ取る。


(さっきより速い・・・!)


 ベルゼンは一瞬、命の危機を感じた。


「君、もしかして左利き・・・?」


「その通りだ」


 つまり、先程の動きは本気ではなかったということだ。

 ベルゼンは思った。これは非常に面白いと。

 自分も本気で戦おうと。


「君は本気で僕を殺そうとしているようだね。なら、君の覚悟を踏みにじらない戦いをしよう」


 ベルゼンは背負っているリング状の物体に手をかける。


「何をするつもりだ・・・?」


 男の質問を余所に、ベルゼンは言葉を結んでいく。


「我が神器よ、ヴィクトリアの頭脳に従い、その知識を発現せよ」


 彼がそういうと、リング状の物体ーーウェセンシェルタンが起動する。

 膨大なエネルギーを放出し、放電現象が発生する。

 それと同時に、ベルゼンの脳内に膨大な量の情報が流れ込む。


「さて、これで君の勝率は限りなくゼロに近い。それでも続けるかい?」


「絶対など存在しない。やってやるさッ!!!」


 ベルゼンは男に向かって残酷な微笑を浮かべる。


「残念だな、君なら僕のモルモットとして従えてあげないこともなかったんだがーーまぁ、仕方ないよね」


 全力で突進してくる男の額に向けて、彼は銃を突き向ける。

 銃の安全装置を外し、引き金に手を添える。

 男は本当に最後まで諦めないようで、当たりも掠りもしない攻撃を度々繰り出している。


(ま、最悪死体でも実験で使えないことはない)


 そんな恐ろしいことを考えつつ、隙を見て一瞬、男の首筋に銃口を突き付けた。

 男はピタリと動きを止め、戦慄する。

 その停止は明らかに死の恐怖から来るものだった。

 男は「やめろ」と目で訴えるが、それも虚しく引き金が引かれた。


「死ね。魔弾エンデスリベンズ」


 発砲音と共に強烈な衝撃波が発生し、男の体は鮮血と肉片のみになる。

 血飛沫は返り血としてベルゼンに殺人の証拠を刻み込む。


「モルモットにすらなってくれなかったか・・・」


 ベルゼンはどこか寂しげな表情でそう呟いた。

 気付けば、イグニス軍は遠く彼方から援軍を送っていた。


(もたもたしていられないね)


 ベルゼンは寂寥を胸に仕舞い込み、イグニス軍のいる方角へ歩いて行った。

スジャータの技名及び神器名はロシア語、ベルゼンの技名及び神器名はドイツ語を基にしているつもりです。

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