第六話 移動
かなり久々の投稿となりました
待たせてしまった読者様申し訳ございません
部屋を出るとそこには先程と同じ__いや、雰囲気も物も何もかもが違う景色が広がっていた。
自分が入室した時には赤色のカーペットが敷いていて、いかにもお金持ちという金色の柱などがあったはずだが…。
「な、なんだここ…。」
自分の足元から頭のかなり上まで床や天井、柱までもが全て分厚いガラスになっている。
一度足を床に触れさせるとその部分が水の波紋のように黒い波が薄く広がった。
__す、すげぇ、これが魔術…。
ほかの人も同様に足を踏み込むとそれぞれ違う色を表した波紋が現れた。
姉の莉緒__フィクトリアは黄色の波紋、アリシエッタは赤色の波紋、イティアは橙色の波紋である。
つまり自分の体に刻まれている紋章の色だろう。
「どうだい?ここに来る人たちは大抵この魔術に驚くんだよね。」
コルペウスはニヤニヤしながら歩き続けた。
ちなみに彼の足元に波紋はなぜか広がっていなかった。
一歩、また一歩と進めていくうちにだんだんと暗くなってきた。
不安になってきたためエツナと手を繋いでくれないかと申し入れると反応は無く、表情は見えなかったもののすぐに手を差し伸べてくれた。
快諾してくれたのだろう。
手を繋ぐと、彼の手のひらはカイロのようにとても温もりがあって湯水に手を入れているような感じがした。
いよいよコルペウスの足音とエツナの手のひらのみが頼りになるくらい何も見えない状態になった。
すると前方を歩いていたと思われるコルペウスの足音が止んだ。
それに続いてカルタリア自身も足を止めた。
「ここまで難なくたどり着けて良かったね。ここからは流石に君達でもいつかはぐれてしまうから俺が魔術を使って君達を誘導できるようにする。今回使う魔術は鎖術だから少しひんやりするかもしれないけどそこは我慢してね。」
鎖術。
初めて聞いた言葉でどういった術かカルタリアには分からない。
コルペウスに聞こうかと名前を呼ぼうとしたものの、既に何かを唱え始めているため呼ぶにも呼べなかった。
そんな彼の様子を察してか、エツナが声をかけてくれた。
「カルタリアどうした?」
「…ん?ああ、『サジュツ』っていう術を初めて聞いたから分からなくて。どういう術なんだ?」
エツナはごほんと喉を鳴らすと説明を始めた。
「鎖術っていうのは鎖を使う術なんだ。一種の拘束術なんだけど、魔術で作り上げた鎖を使って体のどこかを縛り付けて自分の思うがままに人を操る術だ。これだけ聞くと悪術に聞こえるかもしれないけど結構この世界では使われているよ。」
またしても「拘束術」や「悪術」などと初めて聞く言葉が出てきたが、「拘束」や「悪」という言葉は初めて聞く言葉ではないためなんとなくの意味は理解できた。
拘束術は何かを拘束する術、悪術はきっと悪いような術だろう。
「ちなみにその術ってどうやって使えるの?何か唱えたりするのか?」
「えーとな、確か『詠唱』をするんだ。詠唱っていうのはこの世界で決められている呪文を読み上げることなんだけど…さっきコルペウスさんがしてたやつ。何かブツブツ言ってたでしょ、その事を詠唱っていうんだ。詠唱するとその呪文に応じた魔術が発動する。火ぃ出したり地面動かしたり、あとは人の心操ったり…なんでもあるよ。あ、失敗したら数分間同じ呪文は詠唱出来ないけどな。」
「へぇー、なんとなく分かったけど、とりあえず『詠唱』をしたら魔術が使えるんだな。」
「そういうこと。でも魔術の練習をまだしたことがない俺たちにとっては高度魔術はまだ使うのに遠いな。」
エツナと話しているうちにいつのまにか右手首に鎖が結びついていた。
__これが詠唱した呪文の効果か、すげぇな。
暗くてよく見えないが、残る左手で鎖をいじって見ると確かにひんやりとした金属が右手首にはある。
「これも『詠唱』で発動みたいなことをしたんだな、よく分かんないけどすげー。」
「ま、俺も初めも今も変わらず基礎知識しか無いけど詠唱の仕組みくらいは覚えていた方が後々得かも。…現実と同じでテストあるし、なんてったって詠唱は必修らしいからな。」
「へー、テストもあるのか。大変そうだな…。」
「まあ、お前ならやれるさきっと。」
「俺の何を知ってその発言が出来るんだよ。」
すると突然、手首が鎖から解放された。
鎖は跡形もなく光となって消え、闇の中に溶け込んだ。
「んー、そろそろ着くね。じゃあ早速で悪いんだけど、ここで一つ課題を科そう。」
コルペウスの声がどこからか聞こえてきた。
前方からと思ったがどうも違う。明らかに背後から聞こえる。
「今向かっている目的の部屋はもうすぐなんだ。距離で表すと約50m。そこでだ。そこまで自分の力、もしくは他人と協力してその部屋の扉まで来てほしい。制限時間は10分、初めだから多めに見積もるけど、いつしかこれが1分もかからないうちに攻略できるようにね。」
「あのー、自分の力ということは術を使用しても良いということですよね?」
聞き慣れた声ではないが、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
顔は出てくるものの名前が思い出せない。
「ああ、勿論だとも。でも危害を加えるのは無し。違反したら即退学だからねー、アッハッハ」
笑っているが正直笑い事じゃない気がする。
しかし、それよりも重要なのはカルタリア自身がここに来てからまだ一度も術を使っていないことである。
術を発動するための詠唱、この基本知識さえもほぼほぼ押さえていないのに一体どう攻略するか、頭をフル回転させた。
「とりあえず頑張ってねー。」
コツコツと足音が遠くへ離れていった。
__どうしよう、もう打つ手がない…
「ど、どうするエツナ?俺術も何もまだ使ったことが無いから分からないんだけど…」
「実は俺も攻撃術しかしたことがないんだよな………あ、いや行けるぞ。コルペウスが行った方向の足音について行けばいいんじゃないかな。俺はそうする。」
「あ、確かに!そうすりゃ着く!すげぇなエツナ。」
そして足音について行くことになった。