第五話 自己紹介
「…ティア、イティア?どうしたのさっきからぼうっとして?」
「あ、ああ、すみませんフィクトリアさん、少しばかり考え事をしていました。」
__臭うとは思っていたけど気のせいか。
イティアは監視カメラのような存在に僅かながら気付いていたがまずは互いの事を知る事が優先事項だと考えた為後回しにした。
「では次はわたくしですわね。」
先程、フィクトリアをじっと見つめていた緑髪の少女が立ち上がった。
明らかにほかの人とは違うオーラを放っていて『私は貴族です』という雰囲気を持っていた。
「わたくしはリクと申します。十四歳ですの。右腕に緑色の紋章を持っておりまして、『翠の魔術』を使えますの。元々は貴族でしたの。以後お見知り置きを。」
リクはその場でお辞儀すると椅子に座った。
__何か女子多くね?男子少なくね?
「じゃあ次、俺行きまーす。」
カルタリアの内心をよそに自己紹介は続いていく。
そんな中、唯一と言えるかもしれない男子の自己紹介になった。
「えっと、俺はエツナって言います。青色の紋章を持っていて『蒼の魔術』を使えます。あと15歳です。これからよろしくお願いします。」
青色の髪の毛に十字架のネックレスを首から下げている。
ピアスもしていてチャラそうに見えるが目が真っ直ぐに物を見据えているような凛々しい目をしていた。
__おおっ!男子いた!良かったー
__もしこのまま男子いなかったら俺間違いなく精神的に死んでたな…
カルタリアはおそらく唯一と言えるかもしれない男子の存在にガッカリしていたがエツナと名乗る少年が現れたことでホッとした。
「次はアタイだね。アタイはオーロラ!十三歳の中学生で左膝に藍色の紋章を持っていて『藍の魔術』を使えるよ、よろしくね!」
自分のことをアタイを呼ぶ少女、オーロラはエツナの髪色と近い色だ。
ショートの髪の毛に向日葵のような花が付いているヘアピンで前髪を整えてある。
爽やかな印象を持たせていた。
__初対面だけど俺この人タイプだわ。
「え、えっと…私ですね…。マ、マキュウって言います…。中学一年生で十二歳です…。紫色の紋章を右膝に持っていて、『紫紺の魔術』を使えます…。よろしくお願いします…。」
緊張しながら話した少女、マキュウは十二歳というにはあまりにも可愛らしい顔をしていた。
__この子中々可愛いじゃない。
__私が男子だったらタイプの子ね。
フィクトリアはマキュウの顔をじっと見ていた。
マキュウはその視線に気付いているのかいないのか、俯いていて顔を赤めていた。
「じゃあ次、俺行きまーす。俺はカルタリアっていう名前で姉貴も言ってたけどフィクトリアの弟だ。使える魔術はまだ聞いてないから知らねーけど、首筋に黒い紋章がある。中学一年生の十三歳だ。とりあえずよろしくな!」
自分よりも年上の人がいるというのに敬語は一切使わずに自己紹介を終えた。
__何やってんのよ俊哉!敬語使え、敬語!
フィクトリアは目線で俊哉に訴えたが気がつく事はなかった。
「カルタリア、一つ聞いていいか?」
声をかけたのはエツナだ。
「全然構わないですよ!」
「俺が数日前に聞いた話なんだが…黒の紋章を持つものは幸福と不幸が同時に襲いかかる時があるって聞いたけど、そんな事ってこの世界に来てからあったか?」
__幸福と不幸が同時に襲いかかる…?
__何それ初めて聞いたんだけど。
カルタリアはもちろんそんな話など知っている訳がなかった。
流れ的にここに来た感じでここに来るまでの道中紋章についてコルペウスから語った事は無かった。
「いや、無かったですね。」
「そうか、ならいいんだが。」
エツナは一度顎に手を当てて考えるそぶりをしていたが、数秒後自身で納得したかのように一度頷いた。
一連の動作の間に、フィクトリアがマキュウに興味を持ったらしくてチラリと視線を向けていた。
それに気づいたマキュウは両手をあたふたと困惑するように振っていたが、フィクトリアから声をかけられた。
「マキュウっていう名前なんだね!可愛い名前だね。」
フィクトリアはニコッと微笑んだ。
自分の名前を褒められた、さらにニコッと笑顔を見せられた。
二つの要素がマキュウの顔にじんわりと表れ紅く染めた。
肯定も否定もすることもなく黙り込んでしまったマキュウだが、フィクトリアは追撃をやめずどんどん話しかけた。
いつの間にかほかのイティアやリクといった女子メンバー全員も会話に入り、取り残された男子メンバーは二人でお互いのことを話すことになった。
カルタリアは話す話題を考えたがよくある典型的な質問しか思い浮かばなかったのでそれを聞いてみた。
「…えっと、エツナさんは元々どこの中学校なんですか?」
「エツナでいいよ。俺は竹下中学校だよ。ちなみに吹奏楽部の副部長だ。」
「す、吹奏楽部…。」
カルタリアは吹奏楽部は女子しか入れない部活と思い込んでしまっているため、目の前の人間は性別が真ん中の人じゃないかと思ってしまった。
もちろん、吹奏楽部は男子も女子も入部は可能だ。
__いやまさかな…。
まさかの予感を考えてあえて質問してみた。
「えっと、エツナ。こんな質問をするのもなんだと思いますけど…こっち系の人じゃないですよね?」
カルタリアは左手でクイッとジェスチャーをした。
それを見たエツナは一瞬キョトンとした顔をしたが、意味を理解した瞬間に腹を抱えて大笑いした。
エツナの笑い声にガールズトークをしていた彼女らも反応し、「うるさい」「黙って」などという意味を込めた冷たい視線が彼に突き刺さった。
一旦落ち着くために2、3回深呼吸をすると、はいかいいえを言う前にカルタリアの方を問いただしてきた。
「ど、どうしたのカルタリア?何か勘違いしてない?」
「いや、えっと、吹奏楽部って女子しか入れないはずなんじゃないかと思っていまして。」
「何だびっくりしたよ。急にこっち系の人ですかとか聞くから俺が何か変な事をしちゃったかなっておもったよ。まあ吹奏楽部は女子が多いよ。俺の所属してるパートも俺以外全員女子だし。」
__なんだ、良かった。
__でも、こうして自分が元々いた世界の話してるけど…なんだか昔の話に思える。
__何でだろうな。
すると突然、部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。
「おーっしみんな、今から移動するから俺についてきてね。」
表面上の笑顔を取り繕っているような人物が室内へ入ってきた。
__コルペウスじゃん。
コルぺウスは部屋に全員が揃っていることを確認するように部屋全体を見回すとコクリと頷いた。
__やはりいつ見てもこの人の感情か感じ取れない、ちょっと苦手かもなこの人。
「今から君達に部屋などを案内する。先に言っておくけど、この学校に入って迷子になった者は少なくない。だから絶対に離れないでね。」
彼らはワクワクしつつも自分が迷子になってしまうかもと思う不安を持ってコルペウスについていった。