第四話 まさかまさかの
「お、おぉぉ。デカイな。」
目の前に聳え立つ大きな建物__ポルぺ魔術中等学校を見て素直に思った。
__竹上中学校と比べると…いや、比べ物にならないな。
一般的な中学校と比べると、面積や高さ、教室数、さらに教員の人数までが違う。
それに対して生徒の人数は普通の中学校と同じである。
ポルぺ魔術中等学校は十階建てで教室数は生徒が使える部屋だけで百部屋ある。
殆ど自由に使い放題だと思われるが、理由が無いと使えない状態で管理されている。
__俺、この中学校に入るんだな。
__始めは乗り気じゃなかったけど今は楽しみだな。
「この中等学校に入ったらまず君の自己紹介をしないといけないから、まず僕について来てもらっていいかな。」
校舎に入ると、目に飛び込んで来たのは天井にある黄金のシャンデリアだった。
かなり大きいシャンデリアだが細かな装飾が施されており、どこから見てもほとんど対称な形になるように作られている。
さらに周囲を見渡すと頑丈そうな石でできている柱が四角と中央に建っていた。
そしてカルタリアの視界の下あたりに赤色のカーペットが映った。
見た感じ普通の素材では作られてはいなさそうで、高級な素材だろうなと推測した。
コルペウスについて行く事を忘れその場に立ち尽くしていた。
「そんなに珍しいか。まあでも毎日通うようになればいつも通りの風景になるからな。迷わないように俺について来てね。」
立ち尽くしいても何も出来ないためとりあえずコルペウスについて行くことにした。
歩いても歩いても同じ赤いカーペットが引かれており、柱も定間隔ごとに建てられている。
__ここって本当に中等学校か?
そう思えるほどに中等学校とはかけ離れいるほど豪華すぎる。
するとコルペウスが部屋の前で足を止めた。
急に止まってしまったためカルタリアの額がコルペウスの背中にコツンと当たってしまった。
「いてっ…。」
「ああ、急に止まってしまってごめんね。今着いたこの部屋が君と同じ選ばれた人達が入っている部屋だよ。入って挨拶でもして少し待っていてね。」
コルペウスが扉へ開き直り何かをぶつぶつと話すと扉が開いた。
呪文的なものによって開かれるらしい。
ギィッと音を立てて開くと七人の人影が見えた。
__どんな人がいるのかな。
シュラセットが扉を完全に開き終えると七人の姿がはっきりして見えた。が、
そこには何故か見覚えのある顔があった。
「あ、お、お前!」
そこにはカルタリア、いや影本俊哉の姉影本莉緒の姿があった。
莉緒の方も驚いており、目を丸くしている。
「なんであんたがここにいるのよ!」
「いや知らないし。そっちこそ何でそこに居るんだよ。」
「私だって知ったこっちゃないわよ。流れ的にここに来た感じだし。」
他者の視線を気にせず言い合いをしていた二人だがその間にコルぺウスが入った。
「二人も口喧嘩は後でしてもらっていいかな。二人がどういう関係か分からないけど一旦落ち着こうか。」
莉緒と俊哉は深呼吸をして改めて向き直った。
コルぺウスは二人を見届けるとどこかへ行ってしまった。
「一個だけ聞いていい?」
「…私があんたに色々聞きたい事があるけど…まあ良いわよ。その分私からの質問にも答えてね。」
周囲は二人の関係を知っている者は居なく、不思議そうに眺めているだけだ。
「まずどうやってこの世界に来た?」
「私は…確か家でスマホ触ってたら気がつくと後ろに『ルースコア』って名乗る人が現れたの。それで紋章があなたの体にあるから来て欲しいって言われたの。私はもちろん反対したけど無理矢理連れて行かされて、それでそのあとこの世界に辿り着いたって感じかな。」
莉緒の話を聞いている限りだと場所や人は違うが、一連の流れには俊哉のパターンと同じ感じに聞こえた。
俊哉以外の人もうんうんと頷いており似たようなシチュエーションなのかもしれない。
「あんたはどうやって来たの?」
「俺も同じで入学式が終わって教室に入って友達と話してたら天井にさっきの男の人、『コルぺウス』っていう人なんだけどその人に姉貴と同じで紋章がある人を探しているって言われて俺の事を見つけた。それで俺は反対したけど無理矢理連れて行かされた感じ。」
「…何だか話を聞いていると私と一緒ね。それより名前どうしたの?」
名前と聞かれて何のことかと思ったが、仮の名前の事を思い出した。
そういえば名前を聞いていなかった。
「俺はカルタリアっていう名前。なんか役所みたいな所でつけてもらった。」
「私はフィクトリアっていう名前よ。私はいつの間にかルースコアにつけてもらっていたみたい。」
__姉貴がフィクトリアか…違和感しかないな。
俊哉の姉の仮の名前がフィクトリアという名前だが、影本莉緒という名前が慣れすぎているせいでイマイチピンとこなかった。
そんな二人に俊哉にとって見覚えのある顔の人が話しかけて来た。
「あっ!ねぇねぇ、君ってさぁさっき私とあった子だよねぇ?」
沢山の出来事がありすぎて誰かと思ったが、特徴的な話し方を聞くと恐らくアリシエッタという赤髪の少女だということを思い出した。
「あ…あー、そうですね。さっき会いました。」
「俊…カルタリア、この人と会ったことあるの?」
「うん、俺がこの世界に入って数分で会った人。」
アリシエッタがカルタリアに横でフィクトリアに向かってそうそうと頷いている。
__なんかキャラ作ってるよこの人。
フィクトリアが僅かにアリシエッタに対して苛立ちを思えたが自分の中で静かに収めた。
「まぁ、そんな感じでぇす。それよりそれより!皆さんでぇ自己紹介、しませんかぁ?」
流れ的に自己紹介をすることになった八人はアリシエッタの提案で「お互いの顔が見えやすいように」という意味で円の形に座った。
「まずぅ、私からいくねぇ。私はアリシエッタ!十四歳でぇす!赤色の紋章を左肩に持っていてぇ、『赤の魔術』を使えるらしいですぅ。」
__『赤の魔術』。カッコいい響きだな。
カルタリアは内心でそんな感想を抱いた。
「私はイティアです。橙色の紋章を右肩に持っています。十五歳の高校生です。『橙の魔術』を使うことが出来ます。今度ともよろしくお願いします。」
イティアと名乗る少女は律儀にお辞儀までした。
顔を上げると爽やかな表情をしていた。
橙色の髪の毛でショートボブの髪型だ。
前髪がきっちりと切り揃えられており真面目そうで明るい雰囲気を放っている。
__高校生ね。すごくしっかりしてるじゃない。
イティアのことを内心で褒めてあげた。
次はフィクトリアの番であった。
「私はフィクトリアです。見た感じだと私が年長者っぽいのですが十七歳です。実を言うとあの少年、カルタリアと姉弟です。左腕に黄色の紋章があって『黄の魔術』を使えます。よろしくお願いします。」
その場で軽くお辞儀をするとカルタリア以外の人がこちらをじっと見ている。
「あ、あの私の顔に何か付いていますか?」
するとその中の一人の緑色の髪の毛の少女が首を振った。
「違う違う。あなたの顔が綺麗だからつい見惚れちゃったのよ。ごめんね急に見つめて。」
「…そ、そう。」
恥ずかしくて何も言えなかったが否定はしない。
__姉貴はやっぱり初対面の人と会うとこうなるよな。
カルタリアはフィクトリアのことを自己紹介中に考えていたがそろそろ自分の番が回って来ることに気づいて意識を戻した。
__…臭う。何かが臭う。
イティアが何かを感じ取っている。
自己紹介を始めたあたりからイティアは誰かに見られている気持ち悪さを感じ取っていた。
イティア以外の人は気づいている素振りは無く平然としている。
__誰かが見ている…?
その直感が当たっていた。
ポルぺ魔術中等学校 隠し部屋
「今は自己紹介をしているところかね?」
「はい。そうです。ちょうど彼の姉であるフィクトリアの自己紹介が終わったばかりです。」
「そうかいそうかい。」
白い髭を生やした老人と一人の男が話している。
二人はどこかの階にあるどこかの教室の隠し部屋で話をしている。
「彼はどうだね?我々の計画に気づいておるかね?」
「いえ、全く気付いておりません。…あれ、こちらを見ている人がいます。」
老人と男が見ている物、監視カメラ、この世界でいうと『魔術機器』の管理画面を見るとイティアがじっと魔術機器を見つめている。
「こちらの気配に気づかれたのかもしれません。どうしましょうか?」
「一旦退室といたそう。彼女は『橙の魔術』の使い手じゃからのう、そう甘く見んほうが良いのかもしれん。」
「そうですか。では片付けいたします。」
男は何かを唱えると部屋に置いてあるものを全て老人のポケットへと収縮して入れた。
__気づく前に実行しないと沢山の事が終わる。
__俺の人生も、先生も、あの国の先も。