第三話 俺はこれから
「俺の名はカルタリア、俺はカルタリア…カッコいいなぁ俺の名前。」
二人は役所のような所を出て何処かへ向かっていた。
俊哉__今では『カルタリア』というか名前に改名されたが、案外気に入っている。
そんなご満悦なカルタリアを見てコルぺウスは微笑んだ。
「そうか、そんなに嬉しそうなら何よりだ。でもね、カルタリアの前の名前も覚えとけよ。」
「前の名前って『影本俊哉』っていう名前ですよね。何故覚えておく必要があるのですか?」
「お前の世界に戻る時に必要だからな。確か監視員とかいう人がいてそいつに元々の自分の名前を言わないと通してくれないからな。当然のことだけど、俺も元の名前を覚えている。」
「ふぅーん。」
__元の名前も覚えておく必要があるのか。
__もしかしたら後々大事になるかもな。
この世界ではカルタリア、元の場所ならば影本俊哉として過ごすというわけだ。
元々の自分の名前を覚えることは簡単そうに見えるが、実はこの世界に住む住人の約半分は忘れている。
忘れたくなくて忘れてしまった人もいるが、中には意図的に忘れてしまった人もいる。
おそらくは元の世界に帰りたくない、二度と行きたくないからだろう。
自分の下の名前を忘れている半分以上はそんな方々だ。
俊哉はいつでも元の世界に帰られるように影本俊哉という名前は覚えておくつもりである。
「ちなみに、コルペウスさんはなんて言う名前でしたか?」
「俺はだなぁ…『岸本蒼悟』っていう名前だったな。割とやんちゃしてたよ。今じゃ笑い話のネタだけど。」
過去を懐かしむように顎に手をあてて話した。
ふっと笑みを思わずこぼしている。
今の発言からすると、初めからこの世界にいたわけではないようだ。
「それよりさ、こうしてカルタリアが俺に対して敬語で話すのもこっちが気を使っちゃうからさ、今の間はハンゴでいいよ。」
「ハンゴ?」
「この世界の造語でね、『普通に話す言葉』という意味の言葉で『般語』って書くんだ。確かタメ語とかいう言葉でも通じるはずだけど、般語の方がよく使うよ。」
コルペウスは何処からか紙を取り出し漢字を書いてみせた。
達筆な字で「般語」と書いてある。
__割と綺麗な字を書くなこの人…。
自分の字の雑さを内心で少し悔やんだ。
「カルタリアはこの世界に来てまだ半日も経っていない訳だけども…結構大事なことを説明していないね。」
するとまたコルぺウスは再び何処からか一枚のぶ厚めの紙を取り出した。
2回目だが、何所から紙を出しているのか皆目見当がつかない。
まるでマジックのようにも見える。
「君は何故その紋章が刻まれているか知っているかい?」
「俺の首筋にある黒い紋章のことです……ことか?」
カルタリアが首に指をさした。
そこには、今も変わらずはっきりと黒い紋章が刻まれている。
「言うよりも見せた方が早いんだけども……。」
一枚の紙をカルタリアに突きつけた。
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数千年前、この世界を作った創造神『アーメラリ』が予言した。
『数千年後、この世界に八人の魔術師が現る。彼らには特徴があり、
身体のどこかに紋章が刻まれている。
紋章を刻まれた選ばれし八人が私が作り上げた時より
この国を一層豊かにしてくれよう。』
そう言い、アーメラリは消えていった。
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「……で、それの八人のうちの一人がカルタリアということだ。」
「はっ……?」
__俺今もしかして茶化されてるのか?
急過ぎる展開に追いつけずにいた。
「ちょ、ちょちょちょっと時間をくれねえか?」
「ああ、勿論いいとも。」
カルタリアは頭の中で一旦物事を整理した。
__えっと、まずアーメラリとか言う創造神がいました。
__それで、数千年後に八人の魔術師が現れると。
__で、そいつらに特徴があって紋章を刻まれていると。
__そしてその八人が国をより一層豊かにしてくれる。
__……は?いや、唐突で意味分かんねーよ。
もう一度コルペウスが持っている紙を見てみるが、見た事実は変わらない。
「あのさぁ、コルぺウス。」
「何だい?何か不満でもあるのかい。」
「一応聞いておくけどよ、別に茶化してたり冗談を言ってたりしないよな?」
「まさか茶化すつもりなんてないよ。茶化すのであれば、君よりもっと面白い人を見つけ出すけど?」
コルペウスが言うにはどうやら冗談でも茶化しているわけでもないようだ。
__じゃあ本気なんだな。
コルペウスの表情を見ると微笑んでいるが何を考えているのかは窺い知れないが、嘘はついていないようだ。
自分がその八人のうちの一人だとすると、つまり他に七人いるということにもなる。
「でも、俺をこれからどうするんだ?あとその残りの七人も見つけないといけないんじゃ…。」
「ああ、それなら心配の必要なんてないよ。何しろもう見つかっているからね。」
「もう見つかっている?」
「そうだよ。だって何しろ……。」
コルペウスガ視線を上に上げた。
目の前に、大きな建物が聳え立っていた。
「この学校…ポルぺ魔術中等学校に入ってその七人と今から対面するからね。」
ーポルぺ魔術中等学校 内部ー
七人が部屋の中にいる。
そのうちの一人、フィクトリアは何者かと話していた。
「…私は夢でも見てるのかな。夢なら覚めてほしいものだわ。」
「夢だなんて…私も信じ難いけど現実なの。見れば分かるでしょう、フィクトリア。」
「…何かその呼び方も慣れないわね。私だって名前があるのに。」
フィクトリアの近くにある窓から景色を眺めた。
一人の男性と一人の男子が一緒に正門から入ってきた。
「私だって…影本莉緒っていう名前があるのにね。」