第八十四話 ……俺との思い出は食い物しかねえのかよ
新しい年を迎えた祝いも通り過ぎ、春の先触れを感じるようになった頃。穏やかな日差しが降り注ぐ公都とニブラを結ぶ石の街道を、一台の幌馬車がのんびり進んでいた。
カポカポと歩む馬が曳くのは幌付荷馬車。白髪の老人がぽやぽやと手綱を握っていた。
「あとーもう少しでニブラにつくどー」
老人が肩越しに後ろに声をかけた。
「ん、そうか」
「はー、やっとニブラかぁー」
「そっから更にリジイラだ」
「これからは歩きかぁー……」
「馬を見繕ってそれで行く」
「やったぁー!」
幌の中から男女の声が漏れてきた。
「わりーのー。リジイラにはー行かんでよー」
「いや、ここまで乗せてもらえただけ助かったよ」
「ホントホント、大助かり! あ、おじいさん、モモ食べる?」
三人の声が、抜けるような青空に消えていった。
リジイラへつながる道。
青い空へ続いていると錯覚しそうなくらい、快晴が広がっていた。
まだ雪が残る草原の道を、栗色の馬にまたがったリクとカレンがもっくらと進んでいた。
リクはカレンを前に乗せ、手綱を握り、遠くに見える山々を眺めていた。
「なんだか懐かしいな。二か月ぶりくらいか?」
「三か月よ!」
「……そんなに経ってたか?」
「馬車使って移動は早かったけど、あちこち寄り道したからでしょ」
「せっかくだから色んな所に行きたいって言ったのはどこの誰だ?」
「ここにいるあたしに決まってるじゃない!」
リクの前に座るカレンが開き直った。
「いーじゃない。リジイラに戻ったら遠くへ出かけるなんてことはないもの」
「……楽しかったな」
「楽しかったね!」
振り返るカレンの声が弾ける。
ヴェラベラ平原を出た二人は、まっすぐリジイラへ向かわなかった。リクの孤児院がある南部の都市ガンナーにより、物陰からこっそり孤児院の様子をうかがった。
「結局、街の人から不審者だと思われて出ていくしかなかったよね」
「一発で俺だとバレたけどな」
リクは苦笑いを浮かべた。
「そりゃ褐色でムキムキで怖い顔だもの。該当者なんて、そうはいないでしょ」
カレンの指摘通り、孤児院の先生たちにはすぐにバレ、招待された。白湯を呑みながらしばし談笑をした。
アルマダが約束した金は、ちゃんと持ち込まれていた。ためておく分と買い替えなければならない分でわけ、大事に使っているとのことだった。
感謝されたリクは、少し恥ずかしかった。
ついでにわずかなスペースに作っていた畑を小石がなくなるまで耕し、種が取れる作物を生やしたのは、幼いころから育ててもらった礼だった。
「奥さんて言われちゃった」
「……間違いではないと思うが?」
「お母さんの許可をもらっていませーん」
「……手紙を送ったけど無事についてる保証はねえしな」
「認めてくれないかも?」
カレンが笑いながら言う事に、リクは黙ってしまった。
――無理やりじゃねえけど、抱いたのは事実だ。男の矜持に責任ってもんがあんだよな。
責任という名前の鎖で繋ぎ止めなければならないほど、リクとカレンの絆は脆くない。むしろ強固で誰か入り込む余地などまったくないのだ。
ただ、そこに唯一の肉親であるマーシャの意見はない。ひっくり返される可能性は、あった。
「なに、不安?」
黙っていたからか、カレンが振り向いてきた。
「ま、大丈夫だって。カレンさんに任せなさーい」
にぱっと笑うカレンの頭に手を乗せる。
「んじゃ任せるかな」
「ふふふ、カレンさんには奥の手があるのだよ」
カレンが声を低くするのを、リクは笑って見ていた。
穏やかな、普通の日々。
そんな二人の先には、見慣れた、ちょっといびつな「ようこそリジイラへ」という看板があった。
リクとカレンがエリナの屋敷につくと、想定外の事態が手ぐすねひいて待っていた。「おかえりなさい!」とエリナがカレンに抱きつき、そのまま拉致っていく。
リクはヴィンセントに腕を引かれ、二階の客間に連行され、ソファに座らされた。
正面にはヴィンセントとマーシャが逃がさないという顔をして立っている。ユーパンドラの姿はないが連行される途中に声は聞こえたから存在は確認していた。
「ちょ、何があった!」
「何があったか聞きたいのはこちらです」
「そうよリク君!」
「カ、カレンを色々連れまわして帰ってくるのが遅くなったのは、あやまる」
二人の今までにない迫力に、さしものリクも冷や汗をかいていた。
――何が起きたってんだよ!
困惑するリクにヴィンセントが紙を差し出してきた。
「これが、公都のヘルムート大公閣下から送られてきました! 直筆のサインまでついてるじゃないですかッ!」
リクは困惑を隠せないまま差し出された紙を取って目を通す。
「えっと、今夏、避暑地にリジイラを選定した。息子のオットーとその婚約者ネイーシャ・バスク、娘のシャルロッテ及び使用人、護衛の騎士がそちらを訪ねるのでよろしく」
読み進めるリクの声が止まった。
「ちょっと待て。総勢二百人って、なんだ?」
「内訳はわかりかねますが、荷物運搬の使役の人間を加えると二百五十は固いでしょう」
リクの疑問にヴィンセントが答えてくる。
「ここの住民の半数近くの人間が来るってか?」
「食料はリクさんが帰ってきてくれたので何とかなりますが問題は住居です! 次期大公であるオットー様がいらっしゃるのに手の行き届いていないこの屋敷を差し出すわけにはいかないんです。新しく建てる必要があります! それに使用人が住まう家も、護衛に兵士騎士が住むところもです!」
興奮気味のヴィンセントが一気にまくし立ててくる。
「資金はすべて公国が負担するとのことですが、建てるための木材、大工、内装調度品! 全部が足りません!」
「……あの女の商会は使えないのか?」
「いま大至急手配してビオレータさんがあちこち走り回ってくれてます。ただ建材だけはどうにも間に合いそうもないんです」
ヴィンセントとの顔は必死だった。
この案件が成功すれば、大公とのつながりが期待できるのだ。エリナとリジイラを運営、発展させていくために、そのパイプは魅力的だった。是非とも成功させたいのだろう。
「もちろん、大公閣下からはリクさんの死亡通知とエリナとの婚約破棄の内容もありましたが、こっそりとカレンさんと公都を出たとの記載もあって、リクさんの生存は確信していました。だからリクさんの帰還を今か今かと一日千秋の思いで待っていたんです!」
「それに加えてだね」
ヴィンセントが話し終えるタイミングでマーシャが口を開く。
「何カ月もうちの娘と一緒で何もなかったなんて思っちゃいないさ。あの子から来た嬉しそうな文面の手紙を見てたし。そこんとこ、ちょっとはっきりしてほしいんだけど」
母親が持つ独特の迫力を滲ませ、マーシャが詰め寄ってくる。攻められるばかりのリクは防戦一方だ。
「そ、そりゃぁ……」
「おまたせー!」
やばい空気をぶち壊すようにカレンが部屋に入ってきた。後ろに引き連れるのはエリナとユーパンドラ。立場が逆じゃないかと思ったリクだが今の状況で声は出せない。
カレンは重そうな空気をものともせず、リクが座っているソファにきてポスンと座った。ニコニコ顔のエリナがマーシャの隣に、座ったカレンの横にユーパンドラが立つ。
「何かあったか?」
リクが小声で話しかける。するとカレンが少し頬を赤くし、にへーっと笑った。
「リクには言ってなかったけど、先月から女の子の日が来なくなっててさ」
「は?」
「いや、その、ね。やることやったらできちゃうってことがさ、現実になるとは思ってなくってさ」
あはは、と頭をかくカレン。
「リク、わからんか?」
「……ちょっとリク君?」
「カレンおめでとー!」
リクはユーパンドラ、マーシャ、エリナの順に視線を動かす。そのリクの顔がぎゅむっと両手で挟まれ、グインと強制的にカレンの顔の前に向きを変えられた。
「自然の摂理にしたがって授かりましたが、何か言うべきことがあるんじゃないでしょうか?」
カレンの赤い瞳に見据えられ、今までの発言を反芻し、リクはここにきてようやく理解した。
「あー……できたのか」
「ちがくないけどちがうでしょ!」
リクは目だけでマーシャを見た。かつてない、ヤバイ覇気を纏う人間を、そこに感じてしまった。
視線を戻したリクは、カレンの、少し不安そうに揺れる瞳を見た。
――俺が殴られるとか嫌われるとかは良いんだ。こいつだけは、そんな顔させちゃだめだ。リクは息を静かに吸い込み、心を整える。
「あー、うん、その、嫁に、なってくれ、ない、か?」
「……気持ちこもってなくない?」
カレンに不合格を通告され、リクは振出しに戻った。リクはうっと言葉を詰まらせてしまう。
――考えろ。考えろ。
思考に沈んだリクの脳裏に、カレンと初めて会った時からの出来事が思い浮かんだ。
殺気のこもった視線で射抜かれて居心地が悪い思いをした事。
エリナに真摯に仕え、絶食すらもしたことに、感心した事。
ニブラでチューリップを渡した時の笑顔。
バルコニーで歌っている姿に見惚れた事。
子供たちの先生として、慕われていた姿。
無謀にもビオレータに突っかかっていった事。
留守の時に攫われてしまったことに対する後悔と決意。
雪洞に奪還を敢行した時の、泣きそうな顔。
風邪で辛いながらも、耐えきったその根性。
バカだと言いつつも、どこか嬉しそうだった顔。
行き先も告げなかったのに、当たり前のように黙ってついてきてくれた事。
一瞬で数か月が過ぎ去った。
――ま、これなんだろうな。
周囲が固唾をのんでなりゆきを見守る中、リクはカレンを見つめた。
「色々あったけどよ、お前以外考えられねえんだよ。嫁になってくれよ」
カレンは、仕方ないな、という表情を浮かべ、次いで笑った。答えなど初めから決まっているのだ。
ただ、きちんと区切りをつけて欲しかった。それだけなのだ。
「ま、あんたにしちゃ、上出来かな? いいよね、お母さん?」
カレンがくるっと振り返り、マーシャに向かい首を傾げた。同時にリクも深々と頭を下げた。
マーシャが深い、深い溜息をついた。
自分一人で苦労ながらに手塩にかけて育てた娘が、強く愛し合っているとはいえ、こんな生まれも知らない厳つい男マッチョに嫁ぐという事態に、ひとこと言いたい気持ちはあるだろう。
静かに目を瞑り「仕方ないね」と呟いた。
「やった――」
「ただし!」
喜ぼうとしたカレンとリクはマーシャの強い口調にハタと止まった。エリナもヴィンセントも親子の事なので流石に口を出せないでいる。
「リク君、ちょっとあたしと〝さし〟で話をしようじゃないか」
ぎろりと向けられた瞳にリクは背筋が伸びる思いだった。かつて自分を鍛え上げた教官など、話にならない鋭さだった。
「あたしの方も色々と話があってね」
いわれえぬ迫力に、リクは小さく頷いた。頷くしかなかった。横でユーパンドラが苦笑いを浮かべていることなど、見る余裕もない。
「あたしは?」
「あんたは体を冷やさないように、パンドラ先生によぉぉく話を聞いときな」
ユーパンドラはうんうんと首を小さく縦に振った。
「まぁ、ともあれ」
「二人ともおめでとう!」
今まで我慢していたエリナとヴィンセントが、祝福の声を上げた。
リクとヴィンセントが屋敷を出て、雪が残ってぬかるむ道を歩いている。景色に溶け込むリクとヴィンセントは、すっかりリジイラの住民と同化していた。
そんな二人に、住民は陽気に手を振ってくる。
「どこに木を作りゃいいんだ?」
「加工も考えるとリジイラの近くにしないと、運ぶ手間が増えます」
ヴィンセントは少し俯き眉を顰めた。まるで悩める王子様だ。
「杉の大木百本とか、結構な土地がいるぞ?」
「それは問題ないですよ。土地は余ってるし、なにしろ切り開けばどこまでも広がりますから!」
「……将来有望な領主様だことで」
エリナが乗り移ったかのように前向きにほほ笑むヴィンセントに、リクはふぅと呆れの息を吐いた。
リジイラを出てすぐの草原。リクとオルテガの前にはまっすぐに伸びた杉の大木が所狭しと並んでいた。高さはエリナの屋敷をゆうに超える。
「……で。これを切れと?」
ぐぐぐっとのけぞりまくって木のてっぺんを見ているオルテガがぼやく。
「俺がやりゃ根本を砕いてすぐだけどな。ただ、倒れる方向が定まんねえんだ」
「……使えねえな」
「うるせぇ。俺の役目は木を生やすところまでなんだよ」
オルテガの使えない発言にリクは口を曲げた。
「……カレンさんがおめでたと聞いた」
木を見たままのオルテガがぼそりと呟いた。
「あぁ、そうだ」
リクも木を見たまま答えた。
「カレンさんを不幸にしたら俺が子供ごと貰い受けるから、安心しな」
「心配はありがてえがな、絶対にそれはねぇ」
「けっ、嫌な野郎だ」
「お互い様だ」
リクとオルテガは、並んで杉の大木を眺めていた。
屋敷ではカレンがシーツの塊を持ってパタパタと早足で歩いていた。廊下でユーパンドラに連れ添うマーシャとすれ違う。
「あーカレンちゃん。歩くのはゆっくりじゃ」
「はーい、パンドラ先生」
カレンは聞き分けよくピタッと止まってニカッと笑う。
「……お父さん、でしょ?」
「……まだ恥ずかしいから、先生で!」
マーシャの訂正にカレンははにかんで、ゆっくりと歩きだす。ユーパンドラとマーシャは娘のその背を見送った。
「んー、わしが生きている間に慣れてほしいのぅ。っとそろそろ診察を開始せねばな」
「そうですねぇ。あ、今日はレンツさんがチーズを持ってきてくれるっていってました」
「ほう、それは楽しみですなぁ」
のほほんと笑うユーパンドラとマーシャもゆっくりと歩き始めた。
屋敷にあるリビングでエリナとヴィンセントが紅茶を飲んでいた。カップから口を離したエリナがほぅと息を吐いた。
「やっと、落ち着きましたね」
感慨深げにつぶやくエリナの言葉を聞いて、ヴィンセントはカップをテーブルに置いた。
「リクさんの生存は最重要機密だそうだ」
エリナは驚いた顔でヴィンセントを見た。
「え、だってリジイラ中に知れちゃってるし、ニブラのお義父様にも……」
お義父様、という箇所でエリナはポッと頬を染める。元鞘に戻って、婚約者に返り咲いた。
そしてもうこんなことがないようにと、エリナの成人前にヴィンセントがリジイラにやってきた。これからは、常に一緒だった。
「お父様曰く、それも戦略なんだそうだ。まことしやかに流れる〝北の守り神〟の噂が他国への牽制になるんだとか」
「リクさんも将軍から神様にグレードアップですね」
エリナが嬉しそうにクスクス笑う。
「本人は疫病神の間違いだって言い張ってるけど」
ヴィンセントは肩をすくめて見せる。
「どっちにしろ、神様扱いに違いはないのにね」
エリナとヴィンセントはふふっと笑いあった。
夕刻も迫り、リクは厨房で鍋と格闘していた。寒さも緩んできたとはいえ、まだまだ夜は冷える。特にカレンの体を冷やすな、とユーパンドラにもきつく言われたところだった。
「さてポトフにするか、レンツさんとこからもらったミルクでシチューにでもするか」
リクは鍋に向かって腕を組む。
ジャガイモタマネギなどの材料は一緒で、仕上がりが違うだけだ。悩むリクに声がかかる。
「シチューがいい!」
聞き間違えのない声が入口から聞こえ、リクは見もせずに「まー、旅の最中は作れなかったしな」と答えた。
「どーれどれ、味見をしてしんぜよう」
トテトテとカレンが寄ってくる。腹減ったから偵察に来ただけだろう、とリクはたかをくくった。旅の最中でも、料理中の鍋からひょいとつまみ食いをしているのを、良く知っていた。
「まだ煮えてねえ。それ食うならこっち食え」
リクは隣のかまどにフライパンを置きバターを一かけら置く。とろけたタイミングでリンゴをスライスしたものをいれ、焼き始めた。甘い香りがふわーんと広がり、カレンがふんふんと鼻を効かせ始める。
「はちみつかけて良い?」
「……デザート抜きにするぞ?」
「む……大丈夫、モモがあるから!」
言うが早いか、カレンはフライパンで焼いているリンゴにフォークを指し、そのままかぶりついた。
「はちみつはいらねえのかよ」
蜂蜜の入った小瓶を持ったリクは呆れて肩を落とした。
「ん~、甘さが凝縮されて舌の上でじゅわっととろけるのが、いいのよねぇ~。はちみつなしでも十分ね」
焼きリンゴを口の中で転がし「にょほほほ」とカレンが頬を落としていた。
「格別甘いヤツをつくったからな」
リクは生のリンゴに歯を立てる。しゃくっと小気味いい音が厨房に響く。
「はぁ~、ここでリクと食べてると、帰ってきたって実感するわね」
「……俺との思い出は食い物しかねえのかよ」
「食べることは生きるためには不可欠じゃない! 先生だって、大事なんじゃっておっしゃってたもん!」
カレンは「勝った」といわんばかりの顔でドヤる。リクはハァとため息を漏らした。
「まぁ、いいけどよ。食い過ぎて腹壊してパンドラじいさんの世話になるなよ?」
「あら、先生はお母さんと一緒になったんだから、もうお父さんなのよ? あたしのお父さんってことは、リクのお父さんでもあるだから」
「……信じらんねえんだけどよ」
「現実を直視しなさいって」
親などいたことのないリクに、突然母親と父親ができた。もちろんカレンという妻もできたが。
その父親がユーパンドラなど、リクが想像もできない事態だった。
「今後どうやって向き合えばいいんだか……」
「そんなの、今まで通りでいいじゃない」
カレンは最後の焼きリンゴをぱくりと口にする。リクの悩みなど、リンゴの前には霞むらしい。
「っごく……そうそケホッ」
「ったく、落ち着けよ」
リクはコップに水を入れ、カレンに渡した。カレンがコクンと喉を鳴らし飲む様子を、リクは目じりを下げて見ている。
飲み終わったコップをコトンとテーブルに置いたカレンが、リクに向き直った。にっと口もとを緩ませる。
「リク、おかえり!」
満面の笑みを向けてくるカレンに、リクは言葉が出なかった。
「リクの家はここだからね」
見上げてくるカレンンの笑顔が、リクの胸を熱くしていく。目の奥も熱くなっていくが、ぎりぎりでこらえた。
「……おう、ただいま」
「おかえりっ!」
カレンがうわっと抱きついてきた。リクの首に、振り子のようにぶら下がった。
「お前、口拭いてねえだろ!」
「ふへへ、リクで拭いてやる!」
「ちょっと待て!」
「またなーい!」
リクの口を塞ぐように、カレンの唇に覆われた。
リンゴの甘い味が、リクの口の中に、じわじわと広がっていくのを感じた。
『野菜と恋のお話』は、これにて閉幕。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!
これにてリクのお話は終了です。
まだ回収しきれていないシオドア関係が残っているので、猟犬君を使ってちょいちょいと書く予定です。
さっくり終わる構成にする予定です。あ、本編の続きに書いていきます。