前哨戦、ヘーベル河の戦い。⑥
前哨戦、ヘーベル河の戦い。⑥
争乱の予兆を漂わせる運命の夜明けが迫っていた。
遠くに見えるドラゴニア山脈の稜線が昇り始めた太陽の日差しを浴び金色に光っている。
ラッシュ平原に陣を敷くサバナ連合国。
その数、総勢、四万。
鉄騎馬隊六千。
剣兵、一万。
槍兵、一万
長弓隊、四千。
一万ほどの魔物ゴブリン及び十数体の巨人オーガが、これに従っていた。
最後尾には攻城兵器、衝車と井欄並びに火炎投石器が続いていた。
これを率いるのは、サバナ.ザグドリア(旧ラプリタァーナ領)の征服王ドモフ.ウルワッハ将軍。
そして盟主強国サバナ.サンドリアのハル.ホロン皇子だった。
全軍の指揮を執る若き皇子ハル.ホロンの元へ伝令兵士が早馬で降り立ち、彼の前にかしずいた。
『伝令!』
『申し上げます!』
『エリス.シオン城より、敵将バルキ.シオンが一万ほどの重装備歩兵を連れ
ドラン鉱山、麓、バスター城へ移動したとのことでございます!』
『更に正体不明の一軍がへーベル河に架かる大橋、ラグナロクを占拠しております!』
『その先頭には荷車に乗った老人、その傍らには……』
伝令はそこまで言葉を続けると喉を詰まらせた。
不審に思ったハル皇子は伝令兵士に再度訊ねた。
『どうしたのだ…咎め立てはせぬ!』
『見た通りの、ありのままを申せ!』
伝令兵士はハル皇子の言葉に気を緩め話し出した。
『私の見間違いではないかと、再三、目を凝らして見ておりましたが……』
『老人の傍らには戦場を駆ける紅き閃光、伝説の名馬ルージュスターと
それに股がる戦の乙女ヴァルキリーの姿がございました!』
ハル皇子の顔が青ざめた。
『なんと!』
『紅き閃光、ヴァルキュリレスが降臨したとでも言うのか!』
ハル皇子は困惑と疑念が入り交じった思いで、しばらく空を見据えていた。
その後、となりに座している軍略の師でもあり参謀のスレン.カシミナールに視線を送り意見を聞いた。
『スレンよ……お前は今の話しどう思う、我は俄かには今の話しを信じられぬ。』
『お主の意見が聞きたい。』
『遠慮なく申すがよい。』
老齢の軍師スレンは杖をついて一礼し、しばらく咳き込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
『その噂ならば、私めの耳にも届いております。』
『女神ナリスなる戦の乙女ヴァルキリーは、征服王ドモフ殿が故郷
今はザグドリアと呼ばれておる都市、旧ラプリタァーナ王国の姫と聞き及んでおります。』
『我らが陣営に参陣した、この大男バラドランの証言にございます。』
軍師スレンの後ろで方膝をつきハル皇子に会釈をする戦士バルドラン。
ハル皇子は、しばらくバルドランを見て軍師スレンに訊ねた。
『そこの大男の証言は信頼に足る情報であろうな?』
『この者は幼き頃より何かと、わしが世話をして参りました。』
『十八歳より、エリスシオン城へ草の根(隠密)として潜入せし者にございます。』
『この度の開戦により、時が熟し帰陣した次第にございます。』
納得したように縦に首を振るハル皇子。
『金の龍がおらぬエリス,シオン城など赤子同然!』
『これほどの、大軍で攻め寄せたら諸国の笑い物とされよう!』
『我、サバナ.サンドリアの皇子たる威信を広くあまねく全土に知らしめる良き機会じゃ!』
『エリスシオン城の攻略はハル皇子が引き受けたとドモフ.ウルワッハ将軍に伝えよ!』
『ドモフ殿の軍団、二万はへーベル河を迂回して金の龍が潜むドラン鉱山のバスター城攻めに専念せよと伝えよ!』
この下知に、慌てて軍師スレンがハル皇子の前にひざまづき声を上げた。
『お待ちください!...ハル皇子、お考え直しを。』
『短絡的な、ご決断は軍の損失を招きかねませんぞ!』
『軍を二つに分けるは、いかがなものかと……ゴホゴホ』
『力は一点に集中してこそ、その能力が発揮されるものでございます。』
ハル皇子は微笑みを浮かべ白い絹のマントを翻して咳き込むスレンをなだめる様に軽く手を上げて指揮官席に座った。
『スレンよ、それは年寄りの冷や水と言うもの……もうよいよい。』
『体をいたわり下がるがよい。』
『日の出と共に、ラグナロクの大橋を目指し進軍じゃーー!!』