生と死の間(はざま)。
生と死の間。
少女アル.テミウスの敬慕する兄、アン.スウェラの魂をヴァルハラより呼び戻すには
黒十字の磔形台にドモフ.ウルワッハの血を注ぎ呪いを解かなければならなかった。
討ち取った覇王の首を片手に持ち、フラフラと力なく黒十字の磔形台 に向かうキュピレス。
しかし、その前には強敵、最強戦士バルドランが更にパワーアップした雷人トールの姿があった。
『ティルヴィングの剣よ!』
『私の現世における余命を割譲し二度目の願いを告げん!』
『私の前に立ち塞がる魔物に抗う力を与えよ!』
その時、魔剣ティルヴィングが光を瞬かせながら答えた。
『我が現世における主キュピレス!』
『汝よりの二度目の懇願、然と聞き届けたりーー!!』
雷人トールは、よろける足取りで剣を引きづりながら近付くキュピレスに薄笑いを浮かべ呟いた。
『ワハハハ……もう戦う力も気力も残ってはいまい。』
やがて雷人トールの大鉄槌が届く間合いまで二人の距離は縮まった。
『死に急ぐか!』
『戦乙女ヴァルキリー、キュピレスよ!』
雷人トールは大鉄槌を鷹が大きな翼を広げるように振り上げた。
意識が朦朧とした中でキュピレスは最後の力で走り来る紅き星の背に飛び乗った。
雷鳴トールの大鉄槌がキュピレスの靡く髪をかすめた。
ビユユユユユュュュュュ…ーーーー》》》》》》》》》》
馬上からバランスを崩し落ちるキュピレス。
余裕の足取りで横たわるキュピレスの首もとに大鉄槌を当てる雷人トール。
『戦乙女よ、言い残すことは無いか!』
雷人トールが大鉄槌を振り上げた。
ウォーーーーーーッ!!)))
『ヴァルハラとやらで再び眠るがよいーーー!!』
〈〈〈〈〈〈バリバリバリバリバリバリーーーーッ〉〉〉〉〉
(((((((ピカーーーーーーーーーーーーッ))))))
その時、稲妻が雷人トールが振り上げた大鉄槌に落雷した。
雷人トールの持つ大鉄槌と稲妻が共鳴を起こした。
全身に激しい電圧の嵐を受けた雷人トールは小刻みに体を震わせキュピレスの方へた折れ込んだ。
落雷と思われたものは天から輝く聖光であった。
キュピレスの持つ魔剣ティルヴィングの刃が雷人トールの喉元に突き刺さり貫通した。
血飛沫があがり、雷人トールは、その場で絶命した。
【汝の二度目の願いは叶えられたーーーー!!】
その時ティルヴィングの剣へとキュピレスの体から
蒼く光る聖火が離れ吸い込まれて行った。
ティルヴィングの剣を雷人トールの首から力なく引き抜き
ドモフの首と共に黒十字架へ再び歩み寄るキュピレス。
滴る覇王の血が黒十字の
磔台を濡らした。
すると黒く周りを霞のように取り囲んでいた霧が晴れた。
キュピレスは天を仰ぎ祈った。
『運命の女神エリスよ!』
『ヴァルハラより、アン.スウェラの魂を戻したまえー!』
すると天から光が黒十字架に差した。
やがて、アン.スウェラの眼が徐々に開いた。
矢傷もすっかり癒えたようだった。
それを見た少女アル.テミウスが満面に喜びの表情を浮かべて敬慕する兄、アン.スウェラの元へ駆け寄った。
身を投げ出すようにして、アン.スウェラに抱き付くアル.テミウスの頬には大粒の涙が溢れていた。
アン.スウェラは、状況がつかめない様子で訊ねた。
『僕たちはヴァルハラにいるのかな……』
少女アル.テミウスは首を左右に振り慕兄アン.スウェラに答えた。
『女神ナリスの転生者、キュピレス様が貴方をヴァルハラから呼び戻してくださったの……』
縛られていた縄をほどかれたアン.スウェラはアル.テミウスを鳩が我が子を懷に入れるように優しく包んだ。
その時、アン.スウェラの腕の中で力なく崩れ落ちるアル.テミウス。
驚いたアン.スウェラはアル.テミウスの背中に回していた手に血がついているのに気が付いた。
アル.テミウスが苦しい息の中で呟いた。
『兄様の腕の中で死ねるなら幸せです……』
アル.テミウスの背中には鋭い短剣タガーが刺さっていた。
背中から短剣を引き抜き投げ捨てるアン.スウェラ。
『僕の愛する妹に、、こんな惨いことをしたのは誰だーーー!!』
投げ捨てられたアゾット剣(悪を宿した剣)を拾い上げる魔女の姿にアン.スウェラが叫ぶ。
『イージスー!!』
『おのれーー!!』
『よくも、僕の妹にこんなことを!!』
高笑いする魔術師イージス。
ハハハハハ……
『再開が、永久の別れとは、悲しい物語りの結末となったな。』
アン.スウェラの腕の中で眠るように安らかに息を引き取ったアル.テミウスは、まだ若干14歳の少女だった。
イージスは、後ずさりしながら、やがて群集をかきわけ、何処へともなく姿を消した。
『キュピレス様……アル.テミウスの魂を呼び戻してください!』
涙ながらに訴えるアン.スウェラにキュピレスが答えた。
『アル.テミウスの魂を呼び戻すことは私にもできません……』
『彼女は自みずから死を選んだからです。』
『それは、貴方の心の中に住み、二度と別れないために……』




