前哨戦、ヘーベル河の戦い。①
前哨戦、ヘーベル河の戦い。①
エリス城門前に集まる弓騎馬隊の列。
その中にあって一際、異才を放つ艶やかな紅い馬。
名馬ルージュスターに股がるキュピレス姫。
そこへ一人の小柄な男が近付き話し掛けてきた。
弓隊兵士ならではの胸当一つの軽装備で身を包んでいる。
『自分は、この弓騎馬隊の世話人モーサでございます!』
『王命により、キュピレス様の指揮下に配属となりました!』
キュピレスは、周りをグルリと見回したが三千どころではなく
二百頭ぐらいの馬しか集まっていなかった。
しかも、どの馬も農耕用の駄馬ばかりで馬体も小さく足も遅いものばかりだった。
『これは……どうしたことです?』
『エリス王国の騎馬は精鋭騎馬隊と聞いておりましたが……』
世話役のモーサが渋々話し出した。
『たいへん申し上げにくいことでは、ございますが……精鋭騎馬隊なるものは、とうの昔に消滅しております。』
『先王ソー様が崩御されサー王子が王位を引き継がれましてからというもの
サー王の贅沢三昧の浪費癖により、駿馬は市に売り出され、良質の武器も高額で手に入らぬ有り様……』
『この機を逃すまいと、隣国は弱体化したエリス王国に侵攻して来たのでございます!』
『商人により、我国の誉れ高き駿馬は今頃、高値で売り出され
敵国側へ運ばれ、恐ろしい鉄騎兵部隊に変容しておることでしょう!』
『はぁ……そうでしたか。』
キュピレスはため息を一つ吐いたが気を取り直し新たな作戦を練り直した。
『モーサ殿!』
『この駄馬を連れこれから、四キロ先の聖パトリシア修道院まで出向きます!』
モーサは不思議そうにキュピレスに訊ねた。
『何故に……戦の前に修道院へ軍をお進めなさるので?』
モーサの質問にキュピレスは即答した。
『修道院で聖パトリシアの、ご加護を授かるためです!』
二百頭の駄馬に股がる農民と年寄り、そして、まだ年端も行かぬ若者の一行は
背中に弓矢を背負い一路、聖パトリシア修道院を目指した。