物語りの始まり
遥か遠い昔。
世界の最果てに、エリス.シオンという島があった。
この島は、亜寒帯にしては珍しい温暖な気候に恵まれていた。
それはパルドウ大陸とエリス.シオン島の間にあるユリゼン海峡を
寒流と暖流が交差するために起きる大気の暖かな西風が島へ流れ込むためだった。
加えて暖かな西風はドラゴニア山脈に遮られ恵みの雨を大量に降らせ作物も豊富に収穫された。
ここは森林や動植物の楽園として名高く人が住む最適な環境が天の恵みとして備えられていた。
それゆえに、大陸の乾燥した荒れ地にある国々から妬ねたまれ度々、侵略の触手が、この島に伸びていた。
かっては大型船の往来も多く賑わいを見せていた神々の住まわれる都エリス.シオンも
今では国々の争い事を避けるように疎な小型船しか寄り付かなくなっていた。
この島の南端にはサーマス港、それを見下ろすように聳える高き丘ミネルヴァ。
その頂きにはエリス.シオン城が、その荘厳な格式のある姿を見せていた。
この城には三つの塔と、四つの物見櫓があった。
中央塔を東西南北から守護する、それぞれの櫓には四ツ星フォースターと呼ばれる勇者が配置されていた。
東の櫓〓最強戦士、バルドラン。
西の櫓〓戦乙女、キュピレス
南の櫓〓光の銀弓、アル.テミウス
北の櫓〓飛翔剣、アン.スウェラ
中央塔〓将軍にして宰相、金の龍、バルキ.シオン
その堅牢なシオン城の玉座で頭を抱える一人の男がいた。
先頃、戦場で憤死した前王ソーの後を継いだ凡夫王サーである。
手入れが、なされていないボサボサの黒髪に、どうにも不釣り合いな冠を不恰好に戴いている。
眼は黒く鼻は胡座をかいて眉毛は薄い。
誰が見ても王の器でないが、正当な世継ぎである。
常に肉や蜂蜜酒のミードを口にしているため服は薄汚れ、二重顎で、お腹は足元が見えないほどに出ている。
ゴム毬が玉座に乗っているという描写が的を射ている。
その国王サー.ラミスは度重たびかさなる隣国からの侵攻に日々、頭を悩ませていた。
『バルキ宰相……なぜ諸国は、我国へ度々、攻め込んで来るのだ?』
『奴等は、互いに同盟を結び、我国を侵略、二分割すると話していたと言うではないか!』
『敵国に忍ばせておる斥候よりの報告が余の耳にも届き漏れ聞いておる。』
王の相談役であり、国の中枢を成す人物が玉座の下に控えていた。
一際、背が高く凛々しい顔立ちに金の髪。
瞳は透き通ったエメラルドのように輝き肌は艶があり白い。
朱色のマントと金糸が織り込まれた綺羅びやかな装いから
彼は巷の人々からは黄金の龍ゴールデン.ドラゴンとも呼ばれていた。
その彼、バルキ.シオン宰相が王の質問に答えた。
『王様、それは我国にあるドラン鉱山に原因がございます。』
王は玉座から、まさに玉の様な身を乗り出して再び宰相に問い訊ねた。
『ドラン鉱山?……あそこは既に堀尽くされ何も残ってはおらぬではないか。』
『なにゆえ、あのような廃墟を欲しがるのだ?』
宰相はパンパンと手を叩いて、付き人に二振りの剣を持って来させた。
玉座の間に、二人の戦士が招き入れられた。
一人は、この国一番の屈強な大男バルドラン。
筋肉隆々とした大男であり魔物オーグを思わせる。
二対斧のエンブレムが入った腰布一つを纏い
踝までの頑強な皮の靴を履いている。
堀の深い顔が長く伸びた前髪で見えずらいが両眼をギラギラと光らせる様は野に放たれた野獣そのものである。
もう一人は俊敏な動きで敵の目を眩ませる美貌と透視眼の持ち主キュピレス。
その容貌は体の線が細く、一見、華奢に見えるが整ったプロポショーンをしている。
芯の強さを眼光から読み取るとこができる。
美しい青い瞳と長く艶やかなブロンドの髪。
肌は透き通る様な白い肌をしている。
腰に短剣タガーを差しスリットの入った紅いショートカットのドレスで身を包み
胸から腰の辺りまでは柔らかな革製の防御服で身を堅め、その下は鎖帷子。
足は膝辺りまであるロングブーツを履き敵の攻撃に備えている。
二人は王に一礼した。
『宰相、これは、どういうことだ?』
『これから、何を始める気でおる?』
『王様、この二人が手にする剣はどちらも同じ形、同じ長さでございます。』
『強しいて言うならば、違いは二人の体格と技量ぐらいでございます。』
『誰が見ても、この二人の勝負は大男バルドランに分がございます。』
『これより、二人の戦士が刃を交えます。』
『大男バルドランを敵国、そして美女キュピレスを我国と、おぼし召しくださいませ。』
『バルドランは王様も、よく、ご存知の我国最強の戦士。』
『このキュピレスは、サバナ国により滅ぼされた今な無きラプリタァーナ国の姫であります。』
『訳あって、私めが今は面倒を見ております。』
『両名とも、映えある守護塔隊長でございます。』
『この疑似戦で王の疑念も解けましょう。』
『なぜ、隣国が当国を欲しがるのか……という訳を。』
宰相は、そう言うと手を翳かざして二人の戦士に開始の合図を送った。
『始めよー!』
間合いを取り、両者、にらみ合った。
二人の体は硬直し力がみなぎり、熱気が沸き起こるのが感じられた。
キュピレスは俊足を活かしてバルドランの周りを小刻みに前後左右に動きまわり彼を翻弄した。
疲れを見せたキュピレスの動きが止まった瞬間
大男バルドランが剣を大上段に構え突進しながら
キュピレスの頭上、目掛けて振り下ろした。
バルドランの動きをいち速く察知したキュピレスは
【俊敏力】(特技、発動!)を発揮し素早く刃の矛先を交わした。
その後、キュピレスはバルドランの背後に回り込み
振り下ろされた剣の峰、目掛けて自分の剣を振り下ろした。
凄まじい金属音。
(((バキーーーーーン)))
すると、バルドランの剣は真ん中から真っ二つに砕け散った。
『そこまでー!』
宰相の一声に二人の戦士は剣を収め後ろに下がった。
宰相は折れたバルドランの剣と微塵の刃こぼれもないキュピレスの剣を台座に乗せて両手を広げた。
『王様、ご覧ください。』
『二振りの剣は形も長さも同じではありますが、鋼はがねの強さに雲泥うんでいの差がございます。』
『この鋼鉄の強さこそ、隣国が欲しがっておる物でございます。』
『神の鋼パラキオンと呼ばれる鋼鉄を敵国へ渡すことがあれば当国の滅亡の危機となりましょう!』
王は更に身を乗り出し宰相に問い訊たずねた。
『宰相よ、そちはドラン鉱山に神の鋼パラキオンが、まだ有ると申すのだな!』
宰相は深々と頭を下げて返答した。
『はい、王様、さようでございます。』
『ここに控えておりますキュピレスは類い希なる透視眼の力を持つ者。』
『この者が、神託を授かり神の鋼を探り当てた次第にございます。』
王は玉座から降りて大臣の手を取り言った。
『我国に、お前ほどの賢者はおらぬ。』
『宰相よ、そなたに軍の指揮権を委ねる!』
『ドラン鉱山の警備と神の鋼の採掘に尽力してはくれぬか。』
『望みの物が有るならば何でも申すが良い…褒美をとらせるゆえ。』
宰相は静かに後ろに下がり王に返答した。
『畏まりました。』
『非力ながら、私の才知の限りを尽くしてお仕えいたします。』
『褒美のことにつきましては、敵国を退けた後に、お伝えしたく存じます。』
王は宰相の手を固く握り誓約の言葉を書記官に書かせた。
『敵国を退けた後、バルキ.シオン宰相の褒美として、望みの物が何であれ授ける!』
彼は静かに王の前から下がった。
馬の蹄ひずめが遠くから近付く音が城内まで届いた。
バルキ宰相が窓辺に身を寄せてサー王に言上した。
『王様……斥候に出した伝令の早馬が到着したようでございます。』