第七話
警報機が鳴る中、突然アジトは崩れ始めた。
「閉じ込められる前に出るよ!」
三人は即座に方向転換し、洞窟の入り口に飛んだ。落石が動線を邪魔するが、アイやレイは器用に避け、キキは破壊していく。
キキが一番に脱出し、次いでアイやレイが続こうとする。
しかし、
「二人とも、上!」
振り向いたキキが目を見開いた。彼女の声で二人の視線が上に向く。
上からは、半径五メートルはある洞窟の入り口を完全に塞ぐほどの大きな岩が落下してきていた。
今、速度を落とすと潰される。だが、上げたところで通り抜けられるかどうかというところ。
生と死の瀬戸際にあるにも関わらず、二人は一切迷わない。お互いの手を取り、一気に速度を上げていく。
あと少し、もう少し、ほんの少しで抜けられる。でもすぐ上には岩が迫っている。
届け届け届け届け届け届け届け届け。
届けーーーーーーーーーーーーー!
「ファイィアーー!」
耳に届いたのは明るい声。快活な色の光線が、前方から高速で向かってくる。
それは二人の頭上の岩に命中し、粉々に粉砕した。
無事に脱出できた二人は速度を逃がすため上昇し、ピースを掲げる先輩を視界の内に確認する。先輩の顔はすぐに正面のもう一人の先輩に移された。
「見ましたかキキ先輩! 私のファインプレー!」
「見た見た。すごいすごい」
がんがんアピールしてくるモモを片手で受け止め、キキは二人に向けて、もう片方で方向転換を指示した。
意味を理解したアイと共に、レイも後ろに振り替える。
そこで二人は、目前の光景に絶句した。
先輩二人も新人たちと同じ方に目を向ける。
「あんなところにあったみたいね」
「山崩れはそのためだったんすね」
そこにあったのは、岩肌から姿を見せる銀色の円盤。巨大なフリスビーのようにも見えるそれは、所々で点々と光を明滅させている。周りの岩が徐々に破壊されていっていることから、あの円盤が徐々に浮いてきているのがわかる。
レイとアイは、目を見開いたまま動けなかった。動いたが最後、何が起こるか分からないから。未知と言うのは、それだけで怖いものだ。
その肩に温かい手が触れるだけで、聞き慣れた声が聞こえるだけで、安心感は大分違う。
「ご苦労様。あなたたちは下りていて」
キキが、すぐ後ろに飛んできていた。二人はその言葉に返答しようと思ったが、キキが首を横に振った。すこしの逡巡の後、互いにただ頷いて、地面へと高度を落としていった。
二人が十分下りたことを確認すると、キキは喉に指をあてた。指先から桃色の魔力が細い線となり首を這う。やがてそれは、一つの魔法陣を構成した。
指を当てたまま、キキは口を開いた。
「あー、あー。ミカ、聞こえる?」
『はいはーい、聞こえますよー』
キキの耳にだけミカの声が聞こえる。無線を通したように少しのノイズが走っている。
「これから突入する。多分あっちからの迎撃もあるから、あんたはそっちから迎撃装置を見つけて壊して」
『そんな簡単にいきますかねー』
「簡単じゃなくても、やんなきゃなんないのよ」
『……』
「信頼してるわよ、ミカ」
『……キキさん。も』
言葉途中で、キキは指を離した。同時に魔法陣は霧散し、ミカの声も聞こえなくなった。
「……戻ってくるに決まってんでしょ」
誰にも聞こえない声で呟くと、キキは円盤に向かっていった。
キキを感知したのか、円盤の表面で点滅する光は増加し、次の瞬間、太い光線が放たれた。
紙一重で避けるキキ。円盤は間髪入れず、次々に光線、光弾を連射する。
避けながら着実に近づくキキ。近づけば近づくほど、敵の弾幕は激しくなる。
頬に一発かする。暖かな血が出るが、外気によってすぐ冷える。
「っ……」
そのとき、爆発音が聞こえ、円盤の一部で炎が上がった。どうやら円盤の迎撃装置の一つが壊されたようだ。弾幕が僅かに緩くなる。
「……遅いって」
言って、キキは速度を一段と速めた。
敵も知能がある。ミカに三つの砲台を壊されると、他の砲台にバリアを展開し始めた。何発か弾を弾かれ、ミカはその存在を認識する。
「敵さんも阿呆じゃあないらしいね。なら、お返しをしてあげなきゃ」
口角を上げて、ミカはライフルの右腹に取り付けられているレバーを引き絞る。
次に、装填する弾の魔力量を増加させる。
そして最後に、スコープから確認できる六つの迎撃装置にマーカーをつける。
「ディア・UFO。プレゼント・フォー・ユー」
引き金を引く指に力を入れた。
けたたましい音を上げて相棒は弾を連発する。ロックしていた砲台は、ほぼ同時にすべて撃沈した。
「OKOK。この調子でいこう」
汗を流しながら、ミカはまた連射した。
もうすぐ表面に着く。ここまで近づけば防衛も局所的なものとなり、加えてミカによる砲台破壊があったために、着地場所付近にはほぼ砲台はない。
少なくなった迎撃を躱しながら、キキは円盤の表面に着地した。入口がないか簡単に確認してみる。どこにもそれらしきものはない。
となれば、やり方は一つ。片手を天高く振り上げ、一声。
「ボルグ!」
投てきした槍は真下の円盤表面を穿ち、人ひとりが入れるような穴を開けた。それだけにとどまらず、神速の槍はどこまでも円盤を貫き通していく。数秒の後、下方からキキの手元へと帰ってきた。槍が戻ってきた方向からは、黒煙が上がっているが気にしない。
槍を構え直し、キキは穴から内部へと入っていった。