第四話
「やっぱ多いねえ。何がそんなにいいんだか」
下野山の隣の小山。示された点が遥か遠くに見える岩の上で、一人、ミカがブツブツと呟いている。
「まあ今は現状把握最優先だったね。さってと。
あの穴がアジトとして、目算で正面に百とぉ、左右に五十ずつ、後方三十は後方支援組かな? おっほー、ドローンまで何機か飛んでるや」
頭を左右に振って、各所を点検していく。
「戻りました」
突然の声がミカの耳を震わせる。
アイが低空飛行しながら近づき、ふわりと傍に舞い降りた。
ミカはお帰りと声だけで迎える。
「左の方は軽装でした。拳銃とかナイフとか、大きくてもアサルトライフルくらいの。でも、どれも見たことがないというか、変な形の武器でした。なんというか、未来の機械みたいな形で」
「変な形の武器ねえ」
手で傘を作って改めて左の部隊に目を向ける。その眼には、黒を基調とした現代の銃とは正反対の白で塗られた銃が見えた。二本の角が前に突き出ている。
「あの、見えるんですか?」
アイがごく当然と言える質問を投げかける。真似をして遠くを見据えてみても、アイには緑に覆われた山の木々の豊かさしか映らない。
ミカは目線を変えず「うん、まあね」と、平然と答えた。
「どこぞの先住民並みには目がいいよ」
どこぞってどこなんだろうと常識的な疑問を頭に浮かべていると、今度はレイが戻ってきた。
「帰りましたわ」
お帰りなさいとお辞儀するアイに手を振ってから、レイは状況を報告する。
「右部隊は何だか怪しい雰囲気でしたわ。長物や刀などに似た変な武器を持っている方々が中心で、中には何も持っていない方もいましたわ」
「そーんな感じね。ありがと」
右にすいーっと首を動かしてミカは答える。
「あれで見えてますの?」
アイのすぐ横にきたレイが、耳に口を近づけてこっそりと尋ねる。
「なんでも、どこぞの先住民族並みに視力がいいらしいです」
アイの返答にレイは目を丸くした。「どこぞってどこなんでしょう?」「さあ?」と言い合って、少女たちはくすくすと笑う。
ミカは聞こえてくる声を無視しながら観察を続ける。
次に帰ってきたのはモモだった。
「ミカ先輩、後ろの奴らは三十五人くらいで、ミカ先輩みたいな武器ばっか持ってました! カクカクしてて、銀ピカでした!」
「そうかい、ありがとさん」
適当に流すような返事をしながら、ミカは奥の方を見やる。
「いつ見てもすごいですね、ミカ先輩」
「そうかい? ありがと。モモもあたしと暮らせば同じような能力が付くかもね」
「遠慮しときます」
「それがいいさ」
新人二人はそろって「どんな生活なのだろう」と、また要らないことに頭を回していた。
「私が最後ね」
キキが山の下から地面を這うように低空飛行で上ってきた。
着地した先輩めがけてモモが寄っていったが、一瞬で首を腕で固められた。タップしてもキキはモモの首を離さない。
モモの魂が体から抜けそうになったところで、締めを緩めてキキは口を開いた。
「正面は混成部隊ね。三脚で立てられた大きなガトリングみたいな武器を持った奴らの後ろに盾を持った奴らがいて、さらにその後ろにマシンガンを持ってる奴らがいた。武器はどれも見たことない型。しかも皆正気を失ってる一般人みたいだから、できるだけ傷つけない方がいいわね」
四人の意見を掛け合わせた結果、作戦は一瞬で決定した。
「よし、まずは外の人たちをなぎ倒しましょ」
手を打って作戦を伝えたミカに短く返事をしてモモとキキは下野山の方に向いた。
しかし、
「できるだけ傷つけないんじゃないんですか!?」
アイの声が二人の脚を止めた。
この作戦はつい先ほどのキキの発言をないがしろにしている。そう言いたかったアイに反論したのは、キキ本人だった。
「だから倒すと言ってるの。殺すじゃない」
「そこにどんな違いがあるんですか! 相手は人間」
「……」
言ってすぐ、アイは背中に悪寒を感じた。無言のキキから送られてくるのは、ただ純粋な殺気だった。
「人の休みをないがしろにした奴らを殺さないだけでも、十分『できるだけ傷つけない』の範疇に入る」
「……へ?」
キキが言い放った理由に、アイは呆れた。
「キキさんは私たちの中でも一番の仕事率だったからねえ。念願の休み、それも一日目から潰された憎しみは相当だと思うよ」
抜き足差し足で横に来たミカの耳打ちで、アイは一応の納得をした。
そして即座に、レイの後ろまで移動する。
「そんな怖がらなくてもいいのにぃ。それにしても速いね」
「……」
「よーしよし」
ジト目で先輩を睨みつけるアイの頭を、レイは優しく撫でた。
「ささ、早く作戦やっちゃって、早く家に帰りましょー!」
山彦が聞こえるほどの大声で、モモは場の沈んだ雰囲気を吹き飛ばした。
そんな後輩の姿に、早速キキが重たい溜息をこぼした。
「そうね。あんたのおかげで手間が省けたみたいだしね」
「へ? 何言って」
キキへの返答は、隣の山から聞こえてくるサイレンの音でかき消された。
「……」
モモは口をあんぐりと開けていた。
やっちまった。それだけが頭の中を駆け巡る。
しかし開いた口をミカが直してやると、さっきまでの考えはどこへやら。
モモは目を輝かせた。
「燃えてきましたね! こりゃあ楽しくなりますよ!」
「あんたはどこぞの猿みたいね」
キキの突っ込みも、モモの耳には入っていない。
一息ついてから、キキは目を真剣にして皆に指令を出す。
「さあ。敵にも見つかった。逃げる選択肢はない。
……やるわよ」
「イエッサー!」
モモが元気に答える。
「わかりました。やりましょう」
ミカが気だるげに答える。
「これから戦闘なのですね。……皆さん、私は皆さんの盾になりますわよ!」
「レイ、君そういうキャラなのかい」
ミカの一言にも「私は通常通りですわ!」とレイが半狂乱で答える。
「やれるだけ、やってみます」
最後、アイが控え目に答える。
「ミカ以外、私についてきて」
キキを先頭に、四人は下野山の正面へと下りていった。