~Alive~
全ての物語が繋がった時、あなたに残るものは
悲しみか、痛みか、絶望か...
これは「生きる」ことをテーマに描かれた、あるひとりの壮絶な人生の物語である。
ー忘れる必要なんてない、時の流れらあの日々を、少しずつ癒してくれる、だから…ー
私は、全てを亡くしました。
父も母も、大好きだった祖母も兄弟さえも。
でも私は、独りではないのです。
素敵な大切な仲間たちと、大切な未来があります。
ー生きている限り、痛みは終わらない。もう、苦しむのは限界だ、終わりにしようー
すがすかしい、晴天が心地よい春。
私はまだ20代前半の頃、
父が自ら命を絶ちました。
当時大好きだったバンドの追っかけの為に働いていた深夜のカラオケのアルバイト。
仕事を終えた、いつもと変わらない帰り道のことでした。
突然、何かに導かれるように携帯を見た私はその瞬間、時が止まりました。
「お父さんが死にました」
母からの珍しいメールはその一文だけ。
私は冷静になろうと必死で堪えましたが、
何度も何度も同じ道を行ったり来たりしては、動揺を隠せないでいました。
私は、勇気を振り絞って恐る恐る母に電話しました。
最近、鬱の状態も良くなってきたのか、母の方が冷静でした。
「...今すぐ来なさい」
急いで向かった場所には衰弱しきった母と、父の同僚たち
そして棺の中には、青白く痩せ細り、静かに眠る父の顔。
隣に来た母は一言
「人相が変わったでしょう」
私は一瞬にして目をそらしました!
毎日酒を飲まずにはいられない遊び人の父は、母とケンカばかり。
祖母の家に住んでいた私の所にも、家出をして帰ってきたことが
何度も何度もありました。
両親の家で久々に眠る夜でさえ、父は酒を求めて家を出ようと
母と口論していたのを思い出します。
それでも、私には一度も怒ったことがなく優しかった父。
そんな父が一度だけ私に弱音を吐いた事がありました。
私のお兄ちゃんがいじめによる転倒事故で亡くなった時の話です。
「あの時、植物状態だったお前の兄ちゃんの生命維持装置を外せといったのは、俺なんだ。
あの時は親戚中もみんな寝ずに看病していた。6日もたつと遠くから来ていた親戚たちの体力ももう限界でな、だから俺がもういいんじゃないかって...悪者になったよ。それからお前のばぁちゃんに嫌われたんだよな...。」
いつもは明るく優しい父が、初めて私に深いため息をもらした時でした。
数日後、最初で最後になった大きなケンカをしました。
私が高校を卒業して間もない、いつもと変わらない日々を過ごしていた日の事です。
「話があるから来てくれ」と、父からの電話。
私はなんの事だろうとおばぁちゃんの家を出て、両親の家に向かいました。
窓辺を見つめ、無言の母。
「どうしたの?あれ、お父さんは?」
「これから帰ってきて話があるから。」
玄関のドアが開く音がして、物音が聞こえる。
しかも、女の人の声も聞こえる。
リビングに入ってきたのは父、そして赤ちゃんを抱えた知らない女性の姿でした。
「?」
振り返り母は一言、「お父さんの子よ」
そのままそそくさと母は家を飛び出していきました。
「えっ、えっ?」何が起こっているのかわからない私に父は、
「子供が産まれたんだ。お父さんに顔がそっくりだろう?」
「...?」
私も再婚相手の子ですが、現実となると状況が把握しきれずに戸惑うばかりでした。
「...すいません」
見知らぬ女が口を開いた瞬間、事態を把握できました。
(この女と出来た子供だ!)
父は私たちの知らない間に、新しい女を作って浮気していたのです。
「なんで、なんで...!!」
そう言うことしか出来なかった私に、父は一言
「まぁ、産まれてきた子供に罪はないからな」
私の神経は一瞬にしてブチ切れました!
「女!お前は何か言うことがないのかよ!!」
衝撃と怒りからなのか、その日の記憶は全くありません。
それからしばらくの間、母は音信不通になりました。
数日後にようやく連絡がとれて会った時の母は
衰弱して失言症を患っていました。
あの頃から母がおかしくなり鬱になっていくのは、時間の問題でした。
数ヵ月後、私はあれから父の着信を一切無視したまま、突然の出来事...
私以外の親しい全ての者に遺書を書き残し、父は自ら人生を終わらせました。
久々に見た母の喪服姿は、私がまだ幼少のときに見た自慢の着物姿とは変わって
貧相で見るのが痛々しい貧弱な姿でした。
そんな母の隣に座った私に
久々に人と話したのか、若干ろれつが回らない滑舌で話しかけてきました。
「あなたには見せられないものもあるけど、私のは見てごらんなさい。お父さんが書いた遺書よ。
でもね...あなたにはないの。」
私にはその意味が理解できなかったのですが、次の一言でわかりました。
「あなたとは、さよならしたくなかったみたい」
いてもたってもいられなくなった私は、一目散にその場を離れ、ひとりきりになれる所で泣き崩れました。
「神様はなんて残酷なの...なんでこんなに私ばかり!
つらいよ、つらいよ...!!」
ー空が激しく、泣き出したー
ーねぇアンメ、君はまだ覚えているかな?あの日の夜空を...ー
明日を見ることさえ恐かったあの日々。
そんな時ふと思い出すのは、それは、あの日の夜空です。
あの日の夜風に触れて見上げた空は、とても気持ちがよくて、輝く星たちを見ていると何もかも忘れさせてくれる
そんな時間が流れていました。
「アンメがもし寂しいというのら、二人ででまた夜空を見に行こうよ!」
あなたがそう言って私を連れていってくれた丘の上。
再び訪れた私は、あまりの美しさと人生の儚さに、涙が溢れ止まりませんでした。
あなたには、気づかれない様に...。
ーねぇアンメ、君には涙は似合わないよ。この先に何が君を傷つけようとも、その涙を拭ってあげるからー
...
みんな、私からいなくなっていきました。
「辛いよ、死にたい」
何度も何度も、そう思っては
待ってもいない、明日がやって来ます...
生きている限り続く、終わらない悲劇の中で私は、
いつからか愛される日を夢見るようになっていくのは、必然のことでした。
「生きていれば、いつの日か出会うのかな。私、さみしすぎる、ツラすぎるよ...誰か、私を愛して...!」
ー私には未来なんてないって、君は心を閉ざしていた。明日なんて来なくていいなんて、君は自分を傷つけ泣いていた。君を想う夜、君に唄いたいんだ。
どれだけ孤独だって、闇の中にいたって
僕らは同じ時を共に生きているんだって事。
君のペースでいい、君の歩幅でいい。
心を開いてごらん、輝く未来はここから始めようー
人生とは自分自身の戦いなのでしょう。
誰もが自分自身の弱さと向き合うのが、一番怖いものなのです。
父が、母を泣かせてまで夜の街に繰り出して行ったのも
お酒の力を借りなきゃいけなかったのも、他の女と子供を作っては何度も泣かせていたのも
全ては、寂しかったから。
父が残した遺書をしっかりと見れたのは
亡くなってから7年後の年明け、
悲運にも、母の遺品整理の時でした。
内容はまるで、詩人のような、難しい言葉ばかりが力のない字で、乱雑に書かれている。
でも、覚悟を決めた人とはこういうものなのでしょう。
なぜかスッキリとした印象もある。
辛かったんだね、寂しかったんだね
そして、苦しかったんだね...
ー誰よりもあなたは、誰よりも涙した人だった。
だから誰よりも、優しさを知っていたんだねー
初めて知る父の想いを、私は次の行を読む怖さを噛みしめながら、勇気を持って読んでいきました。
「最後に、会いたかったな」
その一文を目にした私は
後悔と無念の想いに打ちひしがれ、涙が溢れ止まりませんでした。
ごめんね、ごめんね、
私は、愛されていた...
ー独りきりでも、このメロディーが側にいるよー
生きていくことは、時に残酷で辛いことばかりです。
ふと思い出したら、消えてなくなってしまいたいくらい。
でも、明日はやって来るし、生きていかなければなりません。
どれだけ辛くても、苦しいかどうかは自分で決めることが出来るのです。
だから私は伝えたい。
感じてください、今生きている事を。
ー数年後ー
「ねぇママ、私のおばぁちゃんってだれー?」
「ん?あなたのおばぁちゃんはこの着物を着た人よ。とても綺麗でしょう?」
「なんでこんなに、いろんな人の写真があるのー?」
「これはね、あなたのひぃおばぁちゃん。90歳近く生きた人よ、立派でしょう?
ママがまだ小さい頃、一緒に動物園に行った日の写真なんだけど、横で泣いてる小さな子がママよ。
そしてママのお兄ちゃん、あなたのおじさんと...これがママのパパ、あなたのおじいちゃんよ。」
「ふーん...よくわかんないけど、遊びに行ってきまーす!」
「もう、ちゃんと話しを聞きなさいよ!」
...ねぇ、お母さん、あの子はあなたにそっくりな顔してるの、見ているかな...。
あなたが生きた以上に、私たちはもっともっと生きて、いっぱいいっぱい、たくさんの愛で溢れた家族にするんだ...だから、見守っていてね。
そしていつの日か私がそっちへ行ったら...また会えるかな...。
(あれ、今日の天気予報は雨じゃなかったかしら?)
雲ひとつない晴々しい空から射し込む光は、
飾り立てられた写真たちを照らしていた。
「おーい母ちゃん、腹減ったなー、なんか食べに行くか?」
「お父さんさっき食べたばかりでしょう!ちょっとは我慢しなさいっ!」
「まったくキビしいなー、なぁっ、ばぁさん?」
「...そういやぁ、アンメは元気にしてるかね」
「ばぁちゃん、そりゃそうだろ!だって俺の自慢の妹だぜ!?
ちょっと寂しい思いも、させてるけどな...」
隣同士で並ぶ写真たちは、もう泣かないでと言わんばかりに
満面の笑みでアンメを見つめ、
微笑んでいた。
ー私は、全てを亡くしました。
父も母も、大好きだった祖母も兄弟さえも。
でも私は、独りではないのです。
素敵な大切な仲間たちと、大切な未来
そして、いとおしい家族の愛があります。
私の人生はこれでよかったのです。
私は、あなたの下に生まれてきて良かった
私は、あなたの家族でよかった
私は...
愛されていた。ー