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紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
3章 魔人帝国シラカバ
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-64- シビトハザード ①

お読みいただきありがとうございます。




前回のあらすじ


殺されかけてる。

 嘘はなかった。


 彼の言葉に嘘はなく、彼らの行動に偽りはなかった。

 誰にも死んで欲しくない、だから殺す。


 支離滅裂。本末転倒。理解不能。

 しかし、ゾンビとして不死の特性を獲得し、生き返るのであれば問題はないというのがシビトの意見だ。


 誰も死なない世界。誰も失われない世界。

 もしかすると、それは理想なのかもしれない。


 魔物スキルを持つ自分たちは、この世界では駆除の対象となっているのだ。

 人間でないことがバレてしまえば命を狙われる。

 なら死ななければいい話だと、クラスメイトを目の前で殺されたシビトがそういう結論に至ることもおかしくないのだろう。


 立場が違えば。

 もしも自分が彼と同じ立場で、同じ力があったのだとしたら、同じことをしていたかもしれない。

 間違っていると分かっていて、正しくないと理解していて、クラスメイトを殺めたかもしれない。


 けどまあ、それはそれとして。

 やっぱり死にたくはないんだよなぁ。


 というのがヒイラギの結論だった。


「ほえ?」


 ヒイラギを殺そうとしていたアマハが、呆気に取られたような声を上げた。


「……はっ。光魔法が使えたのかよ」


 シビトがなんとも言えない表情でぼそりと呟いた。


 ヒイラギの腕の先から光が伸びて、剣を象っている。

 それはシビトたち死者にとって最大の弱点である光魔法だった。


「シビト……お前は、こんなことを何度もして、なにも……何も感じなかったのか?」


 ヒイラギが顔を歪めて見ていたのは、きょとんとしたアマハだった。

 死者と言っても身体的、外見的にそう人間とは変わりはしない。

 今、切り落とした彼女の腕だって、あんなに血が……。


 ヒイラギは血溜まりから目をそらす。


「俺は……怖いよ。自分が、嫌いになりそうだ」

「ああ……どうだった、だろうなァ。最初は抵抗があったかもしれねぇが。たぶん。もう覚えてねぇよそんなこと」


 シビトは一歩ずつ、ゆっくりと近付いてくる。

 底知れぬ不気味さに、ヒイラギは後ずさりした。


「龍ケ崎、てめぇはアキヅキを殺してこい。ラギに光魔法があるんなら、俺が相手をする」

「なっ!」


 シビトは床に落ちていたアマハの腕を蹴って彼女の方に飛ばした。


「おっけーおっけー」


 片方の手で持っている頭を動かして飛んできた腕を口でキャッチしそのまま肩に近付ける。

 ふっと息を吹きかけると、何もなかったかのように腕は再びくっついた。その要領で頭もくっつける。


 命令に従ってこの場から離れようとするアマハを、ヒイラギは追いかけようとした。


「行かせるかよォ! てめぇの相手は俺だろうがラギィ!!」


 シビトが『敵』、という認識が足りていなかったのだろう。

 ヒイラギの向けた無防備な背中を、シビトは容赦なく殴り飛ばす。


「く……っ」


 間一髪、なんとか光の剣で受け止めた。


 ずしりと重たい一撃に、身体が悲鳴をあげている。

 一瞬でも気を抜けば、このまま押し潰されてしまいそうだ。


「はッ! 腕に生やした光の剣たァ、ベジッ〇ソードのつもりかァ?」

「ハン……なんでもない、よッ!」


 精一杯の力を込めて押し返す。

 シビトは後ろへ飛び、光の剣に触れて爛れた腕をちぎって捨てた。


 アマハの時は光がその身体に触れるだけで抵抗なく切れていたが、その上位に在るシビトには多少の光魔法に対する耐性があるようだ。


「けどなァ……俺だってこんなことができるんだぜぇええええ!!」


 再生しかけていた腕から骨を摘んで、思い切り引っ張る。

 するとその骨から再生しようと、組織を構成していって……完成したのは腕ではなく骨でできた剣だった。


「名付けてシビットソードとでも呼んでみるかッ!」


 シビトは力任せに骨剣を振るう。そこに技術や策はない。

 ヒイラギは数歩下がってそれを躱す。


「避けてんじゃねぇッ! 死ね! とっとと殺されろッ!」


 スキル【蛇眼】による動体視力の強化及び【思考加速】によって、刹那の時間を数倍にも伸ばせるヒイラギには、シビトの攻撃を避けることは容易いことだ。


 同時に、シビトの攻撃を見切れているのだから、隙をついて反撃することも簡単だった。


 戦況はヒイラギに有利だった。

 相手の攻撃を全て見切ることができて、相手に傷も負わせている。


 明らかに、ヒイラギに有利な状況。


 の、はずだった。


「どうしたァ! 動きが鈍くなってんぞッ!」

「……っる、さいッ!」


 シビトが骨剣を振り回してから初めて、ヒイラギはそれを光剣で受け止めた。


 先程よりも、シビトの攻撃が重く感じる。


 その理由は分かっている。疲労だ。


 命懸けの戦い。友人に命を狙われているというストレス。

 そもそも攻撃を回避し続けること自体、体力を消耗する。


 それに付け加えて、この戦いの無意味さが、ヒイラギを精神的に追い詰めていた。


 この戦いには終わりがないのだ。

 シビトが『ヒイラギの死』以外を求めてない以上、ヒイラギが殺されることでしかこの戦いは終わらない。


 勝ち目が見えない。

 勝利条件が見つからない。


 死なない敵──そもそも殺すつもりはないが──に、どう勝てというのか。

 消耗するばかりで受ける傷は増すばかり。

 こちらもダメージは与えているが、すぐに再生してしまうものをダメージと呼んでよいものか。


 だが勝てないからといって、徐々に不利になっているからといって、逃げ出すこともできない。


 ヒイラギがシビトの前から消えれば、おそらく彼はアキヅキを殺しに行ってしまう。

 ただでさえアマハがアキヅキの元へ行っているというのに、シビトまで加勢されてしまえば目も当てられない。


 状況は絶望的だった。


「くそ……ッ!」


 光剣を発光させる。

 辺り一面が光に包まれ、それはシビトに対する目くらましとして機能する。


 その隙にヒイラギはシビトから距離をとり、近くの曲がり角……シビトの死角へと移動した。


 だが。


「目ぇ潰した程度で逃げられるとでも思ったかあッ!?」


 シビトは生者の気配を感じることが出来る。

 視力を奪われても、ヒイラギの位置を完全に把握できていた。


「死ねッ!」


 力任せに横薙ぎに振るわれた骨剣は、壁を壊しながらヒイラギの元へ辿り着く。

 予想していなかった方向からの攻撃に、ヒイラギは防ぐことも出来ない。


 ミシミシと嫌な音が身体から聞こえた。

 そのまま野球ボールのように飛ばされ、壁に激突する。


「かはっ」

「終わりだぜ、ラギ」


 大きなダメージを受けたヒイラギは動けない。

 出来ることは、こちらへ歩いてくるシビトを睨みつけることぐらいだった。


「──俺の勝ちだ」


 シビトが骨剣を上に掲げた。

 それが振り下ろされるだけで、ヒイラギの命は奪われる。


 その時──


 ゴゴゴゴゴ……。


「……あぁ?」


 ──低い音がした。


 シビトが破壊した壁の亀裂が大きく広がり、城が大きく揺れる。

 

 耐えきれなかったのだ。


 アマハが龍の姿で壊し、シビトが今しがた壁を崩した。それ以外にも、過去シビトがクラスメイトを殺す際、抵抗した彼らが遺した傷もあるだろう。


 城が崩れる。


「え」


 妙な浮遊感をその身に感じ、ヒイラギは無意識に声を漏らした。


 彼の座り込んだ場所だけが、切り取られたように壊れ、下に落下していく。

 ほとんど最上階に近い場所だった。

 その高さから落ちれば人間の身体など、バラバラに破裂してしまうことなど想像に難くない。


「らっ、ラギッ!」


 シビトは焦ったように、落ちていくヒイラギに手を伸ばす。


 しかしその先に腕はなく、あるのは骨で形成された剣だった。


 その手では掴めない。掴めるはずもない。


 「ーーーーーーーッ!!!!」


 声にならない叫び声を上げる。

 次第に小さくなっているヒイラギを見ることしかできない。 


 死ねば、殺せないのだ。

 ゾンビである誰かが殺さなければ、ゾンビとして生き返ることは出来ない。


「ラギぃぃぃぃぃぃッッッ!!!!」


 べちゃり、と。

 トマトを落としたような音がした。


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