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紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
3章 魔人帝国シラカバ
83/124

-54- ヒイラギのターン

お読みいただきありがとうございます。


〇簡易登場人物紹介〇


ヒイラギ 終日ヒネモス


魔物スキル【蛇眼】

『眼』を使う系のスキルを多く使うことが出来、その中の【見真似】という劣化コピースキルを使うことで様々な魔物スキルを使うことが出来る。(魔物の弱点や特性も引き継がれる)


秋月アキヅキ 三日月ミカヅキ

魔物スキル【動岩】

ゴーレムの魔物スキル保持者。身体を泥や鉄などの鉱物に変質させることが出来る。それによって、衝撃や斬撃を受け流すことも可能。

部位損失は再度泥などをくっつければ補填できる。


シセル

魔物スキル【悪魔】(封印中)

魔物スキルが使えなくなった白い子。戦闘能力は大幅に下がったが、それでもこれまでの経験とある程度の身体能力があるので戦えない訳でも無い。

聖霊シンリの眷族。



 からからから、と馬車の車輪が音を立てて回っていた。


 併走する2台の馬車を操っているのはどちらも少年だ。


 少し茶色に染めた髪を持つ少年と、白髪の少年。


 2人のあいだに会話はなかったが、だからと言って険悪とかそういう訳でもなく、特に話すことがないからなのだろう。

 ゆっくりと道を進んでいた。


 と、そこで茶髪の少年が引いている馬車の荷台から、黒髪の小柄な少女がひょっこりと顔を出す。


「……ヒイラギ君、これまた寝てますね」

「叩き起して」


 違った。1人が寝ていたからだった。


 少女は自らの身体を鉄に変質させ、居眠り運転中の少年に躊躇なく拳を入れる。そのやり方は手慣れていた。


 飛び起きた少年のせいで一瞬馬車全体が揺れる。

 それでも寝起きの少年はすぐに制御した。


「あっぶな……」

「はぁ……」


 安心に息をついた少年の隣で、白髪の少年はため息をついた。


「まったく、何度目だよ。子供たちが怪我でもしたらどうするのさ」

「う。ご、ごめんごめん。一応、寝ないように気を付けてるんだ、けど……、……すぅ」

「ミカヅキ」

「任されました」

「ぐはっ」


 鉄で殴り起こされ、もう一度悶える少年、ヒイラギ。

 それを指示した少年はシセル。そして少女の名はアキヅキ。

 あと、馬車の荷台に乗っている10人の子供たち。


 いなくなったシンリのあとを追っている一行だ。



「言い訳でも聞こうか?」

「申し訳ございません」

「起こす方法は泥の方がいいですか? 寝耳に水みたいな感じで」

「申し訳ございません。服が汚れるので勘弁してください」


 馬車を運転しながら、ヒイラギは2人に謝っていた。

 吸血鬼のスキルをコピーして、その夜行性という特性を引き継いでしまった彼は、日中凄まじい眠気に襲われているのだ。


 それを知らない2人ではないが、咎めずに悪化するのを防ぐためにこうして毎回言っている。


「視線のひとつも寄越さないとか全く反省が見られないんですけど、どうですかシセル君」

「あー、僕たち舐められてるよ。最初の頃は頼んでもないのに土下座とかしてたのにね。頼んでもないのに」

「誠意が足りませんよね。泥とか投げつけましょうか」

「ごめんなさい! 習性なんです許してください!」


 ヒイラギの謝る声を聞いて、馬車の中から数人の子供たちが顔を出した。


「ウケる〜」「まじ卍www」「草生えるわ」


「あ、私ちょっと昼寝してきますね」

「アキヅキさん子供たちの言葉遣いについてちょっと話そうか」

「違うんです! グループチャットのやり取りを聞かれて説明してたら覚えちゃったんです! でもあやまります! ごめんなさい!」


「……はぁ」


 ため息をつきながらも、シセルの口角は少し上がっていた。

 血や死や裏切りなどとは無縁の平和な日常が心地よくて。

 ここにもう一人、自分の恩人がいたのであればと、そう思う。

 いや、そのために彼らは旅をしているのだ。


 と。

 人並みの視力を上回っているヒイラギが前方に人影を見つけた。


「シセル、誰かいるんだけど」

「誰? シンリ?」

「いや違うけど……」

「なら無視でいいよ。どうでもいい」


 興味がないと吐き捨てるシセル。

 一応、シセルがこの集団のリーダーということになっているので指示を仰いだが、その彼がそう言うのならとヒイラギたちは馬車を進める。


「そこの馬車、止まれ! この先は現在立ち入り禁止となっている!」

「……」


 そう言って兵士が立ち塞がった。

 シセルは横目でヒイラギを睨む。


 子供しかいない集団といっても、彼らは全員が『古き血』、つまり『半魔』と差別の意を込めて呼ばれる存在である。

 魔物として扱われ、『半魔』という事実がバレてしまえば殺されてしまうのだ。

 不用意に騎士や衛兵などに近付くことはリスクしかない。


 それなのにヒイラギは、人影が兵士であったことも告げなかった。

 これは生まれた時から半魔であることと、最近この世界にやって来たことによる意識の差ではあるが、下手をすればここで戦闘に発展していたかもしれないのだ。

 シセルが睨むのも仕方の無いことだろう。


 まあ、街に入るわけでもないため、見た目は人間と変わらないヒイラギたちが『古き血』だとバレる可能性は限りなく低いのだが。


 シセルは極めて自然に振る舞い、兵士に尋ねた。


「立ち入り禁止だって? そんな情報はなかったと思うけど」

「封鎖されたのはつい先日だ。残念だが引き返すか、迂回して通ってもらいたい」

「理由を聞いても?」

「ああ……いや、どうせすぐに知らされるか」


 兵士は少し考えた末、封鎖の理由を口にした。


「先日、魔物が学術都市ステンドに侵入し、猛毒により壊滅させた。今現在ステンドの周りには毒が散布しており、これ以上近付けば風向きによって毒が流れてきてしまう。被害を抑えるために、こうして封鎖しているのだ」

「毒……あっ!」

「ん?」


 毒と聞いてシンリを連想したシセルは、兵士の前だと言うのについ反応してしまった。


「なるほど。じゃあ引き返そう」


 が、深く怪しまれる前にヒイラギが話を終わらせる。


 笑って兵士に一礼し、来た道を戻るヒイラギにシセルも続いた。


 兵士が見えなくなるまで戻ってきた彼らはそこで止まり、これからの事を話し合う。


「夜になったらバレないように行こう」

「落ち着いてくださいシセル君。死にます」

「じゃあどうするのさ。封鎖が解けるのを待っていたら、いつになるか分からないじゃないか」

「落ち着いてくださいシセル君。死にます」


 シンリの所へ進もうとするシセルをアキヅキが宥める。

 その横でヒイラギはステフォの地図機能を使ってこの辺りの地理を調べていた。


「とりあえず一番近い村に停めさせてもらって……ん、ちょっと先に行けば帝国か……」

「帝国と言えば、この前なんか言ってましたね。シラカバ帝国とかなんとか。たぶん白樺君が」

「まあ自分の名前付けるのはあいつらしいっちゃらしいんだけど。あれが本当なら匿って貰えるかもしれない」


 口に手を当てて思考する2人に、おいてけぼりのシセルが不満そうに口を開く。


「なんの話をしているの? 僕にも分かるように言ってほしいんだけど」

「んー、今のところ足止めくらって、行く宛も特にないわけだし、ということでさ」


 ヒイラギは結論を出した。


「とりあえず、帝国行ってみない?」


 こうして、彼らは次の目的地を帝国へと定めた。

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