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紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
夢見た世界で少年は
76/124

あの人はいまーシンリー 3/3 1

【定型文】お読みいただきありがとうございます。


※言い訳※

なんか、かけなかった。


もう何も感じず温かい目で読んでください。

1から6まであるけど『1』を書き始めたのとか去年だし2とか3とかも何ヶ月も前ですよ。1ヶ月に1話(5000字)くらいのペース。


そう。書いてないわけじゃなかった。書く気が無いわけでもなかった。なんか、かけなかった。はい。

……はい。


たぶん、次の話はもっと早く書けるような気がしないでもない、気がすると思う。


まあ今回の話は要点だけまとめれば3行くらいで終わるかもですが、がんばったので読んでもらえれば幸いです。


てなわけで時間が空いたので簡単に人物紹介


ーーー


『シンリ』──キャラぶれぶれ系主人公。彼はあと数回変身を残しているかもしれない。この意味が分かりますか。


『ミルネアシーニ』──幼女エルフ。読み返してたら主人公の命を狙ってるって書いてあった。


『エンテ』──貧弱キャラな女の子。なんか連れてこられてた。


『ムーサ』──今回の敵①

『ロザリンデ』──今回の敵②


『三番の少女』──いったい誰なんだろう……。


ーーー

「……」


 その部屋には円卓が置かれてあった。

 その円卓を囲むように、全部で十の椅子が配置されている。

 そして、席はその内の三つだけが埋まっていた。


 ミーディア王国王宮騎士専用会議場。

 場所は王都グランテ、その王城の地下である。


 王宮騎士は、その全員が持っている権限として、『他の王宮騎士の召集』を行使できる。

 そこに序列による格差はなく、例えば第九位がこの権限を使ったとすれば、第一位だとしても召集の義務が生じるのだ。


 もちろん、この権利はいつでもどこでも使える訳ではなく、それなりの理由……つまり身近で言えば呪鬼の出現など、相応の危機が訪れた時でなければならない。

 そしてこの権限が使われたということは、その『相応の危機』が起きたということだった。


「……」


 今回この権限を発したのは、序列第六位ムーサ・テラーだ。

 ぼさぼさの、くすんだ緑色の髪。目の下の濃いクマ。疲れたような、眠たそうな表情が印象深い、白衣を羽織っている男性。

 彼は無言で、そして苛立ちを隠そうともせず人差し指で円卓を叩き続けていた。


 ムーサが権限を発動させるに至った経緯は、実に単純なものだった。

 彼の管理する街、学術都市ステンド。

 それを守るために張ってある結界が破壊されたという報告を受けたからである。


 学術都市とはその名の通り、知識を学ぶ場所であり、また情報を管理、保存する場所だ。

 あるいは学園都市とも呼ばれており、王国に存在する貴族の子息、優秀で有望な平民が集められ、歴史や文化、魔術を学んでいる。

 つまりは王国の未来を担うもの達が大勢住んでいるのだ。


 そのため、結界の強度は他の都市と比べて遥かに高い。

 ムーサ自身も密かに手を加え、ステンドの守りはもしかすると王都よりも優れているかもしれない、という程に。


 その結界が破壊された。ならば、何者かが侵入していると考えて問題ないだろう。

 だからこれはもう、国家の危機と言っても過言ではない。


 もしもステンドが壊滅することがあれば、王国の未来が一気に暗くなる。

 そこまでいかなくとも、身分の高い貴族の子供が死亡するようなことがあれば、その責任は少なからずムーサに問われる。

 流石に王国の最高戦力の一角とも言える王宮騎士であるムーサを死罪にすることはないが、罰則は免れないだろう。

 例えば研究費用の減額だとか。


 それはとても辛い。

 研究者であるムーサにとって、予算を減らされることは何よりも耐え難い罰だ。

 というかそもそも、その研究所がステンドに存在するので、何をしてでもステンドを守りたい。ついでに貴族スポンサーの機嫌も損ねたくない。


 権限を使った理由はそんな理由だった。


 本来であれば、管理している街に異変があったのであれば、それは自分たち……つまりその騎士団を使って対処するものだ。

 しかし、現在ムーサの騎士団は大幅に減っており、補充を終えていない。

 まだ見ぬ敵が想定以上の力を持っていた場合、敗北する危険性がある。

 ゆえに、ムーサは他の騎士に協力を要請しようと思ったのだ。


 そんなムーサの損得勘定からくる思惑はともかく、学術都市であるステンドの危機となれば、権限を使う理由足り得る。

 先程も述べたが、ステンドの壊滅は王国の未来を危うくするものであるからだ。


 もう一度いう。

 国家の危機である。

 最悪、王国の存亡が懸かった事態である。


 だがここで見てみよう。

 円卓の席に付いているのはムーサを除いて二人のみ。

 ちなみに会議が始まる予定の時間は三十分前に過ぎている。


「……おい、これだけかぁ?」


 ついに、堪え切れなくなったムーサが誰に言うでもなく呟いた。

 その言葉に反応した一人が顔を上げる。


 三十分の間、「まだかなー、まだかなー」と言いながら、小柄な身体を左右に揺らしていた少女だ。

 全身をすっぽりと覆い隠したローブを身に付けているのは王宮騎士第三位。

 揺らしていた身体を急に止めたことで、椅子から転げ落ちていた。


「はいはーい! 来る前にみんなに声をかけたんだけどね!」

「まず座り直せよ」

「はーい」


 元気よく返事をした彼女は、もう一度椅子に腰掛けると話し始める。


「ロザリーちゃんといっしょに行くからこなくていいよって言っといた!」

「あ゛あ゛っ!?」

「ねー、ロザリーちゃん」

「ねー☆」


 ねー、と手のひらを合わせている少女少女たちを見ながらムーサは深いため息をついた。

 なんだこいつら、先に言えよ。てかお前の席そこじゃねえだろ。



「じゃあ今の時間は何だったんだぁ」

「だから『まだかなー、まだかなー』って、まだはじまらないのかなーって」

「うっぜぇ。おい王女サマ、知ってたならどうして言わなかった」

「え〜☆ だってボク9位だしぃ〜、この中で1番下っ端だしぃ〜☆」

「お前この中で誰よりも権限持ってるだろぉが!」


 思わず机を叩いて立ち上がったムーサだが、数回呼吸をして冷静を取り戻して着席する。


 落ち着け俺。エネルギーの無駄だ。


 今の時間はたしかに無駄ではあったが、結局のところ、王宮騎士の全員が集まって話し合ったところで誰がやるかの押し付けあいが始まることは目に見えている。

 会議をする前から選択肢が絞られており、時間を短縮できるというのならそれに越したことはないだろう。


 それに、ロザリンデの騎士団の力を借り受けられるのであれば、今回の件に限って言うのであれば申し分ない。


「なら、だ。王女サマとその騎士が来るってことでいいんだよなあ?」

「だよ☆」


 ロザリンデは頷く。


 王宮騎士が序列順に強いように、その騎士たちも序列の高い騎士団ほど戦闘力が高い。


 だが一つここに例外がある。

 王宮騎士第九位ロザリンデ・ミーディアは王宮騎士である前にこの国の王女であり、その命の価値はこの国において上位に位置する。

 ゆえに守られる立場であるのだが、王宮騎士であるロザリンデに彼女よりも弱い護衛は不要である。

 しかし王女という立場の者に護衛を付けないわけにもいかず、ならばその護衛として騎士団を、一人一人が王宮騎士に比肩する猛者たちで固めることとなった。


 ロザリンデ以下百人の騎士団で構成された集団は、たとえ相手が化物であろうと、軍隊であろうと、国そのものであろうと、問題なく制圧することだろう。


 だが一つ問題があるとすれば……。


「で、今回動かせる騎士は何人だ」

「そうだねー☆ 手元にいるので二十人くらいかな☆ 途中で拾ってもいいけど、どうせ槍のお姉さんに送って貰うんでしょ☆」

「もちろんだ。まあ、そんだけいれば十分だ」


 ロザリンデの騎士という名目を保ってはいるが、いつも側にいる訳では無い、ということだ。

 国でも有数の強者を、護衛を必要としない者の護衛として遊ばせておくのはもったいない。

 普段は国の各地に散らばり、魔物を狩ったりして危険を排除し、国を守っているのだ。


「一応聞くが、お前は来るのかぁ?」


 ムーサに問われた第三位の少女は、首を横に振って答える。


「いかないよ! こう見えていそがしいからね! 王様たちをてつだわないと!」


 今この場に、これだけしか人がいないというのにも、やはり理由があるのだ。

 3番の少女にも、ロザリンデにも、もちろんムーサにも、やらなければならない仕事は腐るほどある。


 神国の、非公式ではあるが宣戦布告に、呪鬼の失踪。

 最近では帝国の方でも何やら怪しい動きがあると聞く。


 ステンドの件を蔑ろにするわけにもいかないが、ほかの問題も無視できないものなのだ。

 ステンドの問題が長期的に見ての危機なら、神国や帝国の問題などいつ破裂するかも分からない爆弾と言えるだろう。

 長らく均衡が保たれていた情勢も、終わりが近いのかもしれない。


 ともあれ、会議は始まるまでもなく終わった。

 ムーサとロザリンデはいくつか言葉を交わしたあと席を立ち、退出する。

 第三位の少女はニコニコと笑顔を浮かべながら手を振って二人を見送った。


「……」


 彼らがいなくなり、会議場にひとり残された少女は、何かひと仕事終わらせたかのように小さく息をついた。



 王宮騎士の会議より少し時間は遡る。

 場所はもちろん学術都市ステンド……その壁の外だ。


 欠けた月が地面を照らす夜。

 木の上に立つ人影があった。

 少年と、エルフの幼女。

 そしてもう一人、苦しそうに呻く少女が少年の腕の中に抱かれていた。


「街が見えたぞ。して、我が勇者よ。どうするのじゃ?」

「時間が惜しい。上から行くぞ」


 少年、シンリは前方に見える街の壁に目を向けながらそういった。


「それしかない……が、じゃ。壁の上にも見張りがおる。見つかれば街に入る所の話じゃなくなるぞ?」

「見つからなければいい話だろ」

「言い切ったのう。ならば、なにか策があると見えるが?」


 シンリは横に立つエルフ、ミルネアシーニのその腰に差している木刀を見る。


「お前の出たり消えたりの特性ってめっちゃ陽動に向いてるよな」

「一切の躊躇なく囮扱いしたのぅ!」


 態度では不満を示したが、ミルネアシーニは自分の半身とも言える木刀をすぐにシンリへと渡した。


 彼女は自分がどこにいようとも、木刀近辺に現れることが出来る。

 ミルネアシーニがシンリと離れた場所で街の注目を集め、その隙にシンリは街へと侵入する。その後でミルネアシーニが転移するという作戦である。


「機を見て戻ってこい。それまでには街に入っておく」

「当たり前じゃ。このわしを囮にして何の成果も上げとらんかったらしばくぞ」


 そう言って彼女はふわふわ浮いてシンリたちから離れていく。


「……もう少しの辛抱だ。もう少しで、お前をちゃんと休ませることが出来るはずだ」


 シンリは、自分が抱えている少女、エンテにそう声を掛けた。


 彼女の顔色はとても悪く、呼吸が荒い。

 その上、尋常でないほど汗をかいており、その身体はひどく熱を持っていた。


「……ぃ、ぃえ。わたくしこそ、申しわけございません。シンリ様のお手をわずらわせてしまって……。苦痛には慣れていたと思っていたのですが、このような苦しみは……、っ」


 言葉の途中で咳込んだ。

 シンリはエンテの背中をさすり、咳が治まればステフォから出した水を飲ませる。


「少し寝ていろ。それに、お前を連れ出したのは俺の方だ。この程度、負担だとは思わないし、負担だとしてもそれくらいの責任は取るさ」

「……すみません。では少し、甘えさせていただきます……」


 エンテはそれまで変に遠慮していたのか、恐縮していたのか、その言葉とともに彼女の身体にあった強張りのようなものがなくなった。


 ちなみにエンテの衰弱の原因は、疲労の蓄積による体調不良である。

 長年ほとんど動くことがなかったために、体力が最低ラインまで落ちており、その上にいきなりの長旅である。体調を崩さないわけがない。

 さらに言えば、本来の健康状態であれば何の問題もないはずなのだが、衰弱している今のエンテの状態では、シンリの身体から微弱ながらに溢れている毒にも蝕まれてしまう。

 それほどまでに弱っているのだ。

 それこそこの状態が続けば、命に関わるくらいに。


「……」


 エンテの荒い呼吸が比較的安らかな寝息に変わった頃、どこか遠くで音がした。


 ミルネアシーニが囮となって、暴れているのだ。いやどのようなことをしているのか分からないので暴れているという表現は違うかもしれないのだが。


 シンリは自分とエンテを風で優しく包み、木から一歩踏み出した。

 そのまま極力エンテを揺らさないように移動し、あっという間に壁の上まで着く。


 ここまでは誰にも見られていないはずだ。

 認知できない聖霊であるシンリに、魔力を一切持たないため感知されないエンテ。

 あれ陽動とかいらなかったのではないかとか思ったが、念には念をとシンリは思い直す。


 流石にミルネアシーニが囮になったと言っても、壁の上の見張りが全員いなくなる訳では無い。

 しかし、闇に紛れたシンリを肉眼で視認できるような距離に見張りがいないことも確かであり、陽動は成功したと言えるだろう。


「……なんだこれ」


 シンリの前にあるのは結界だ。

 彼の作る【結界術】とは比べ物にならないほど高度な結界。

 だがシンリを前にすれば、どのようなモノであろうと、スキルや魔法の類であるのなら問題にはならない。


 確率で魔力の関係するモノを絶つスキル【破魔】。

 何度でも試行できるのであれば、確率などないも同然だ。確率は収束する。


 数十の試行の果て、無事結界を破壊したシンリは壁の内部へと降りてゆく。


 その時、シンリが結界を無くしたことに便乗して、他のナニモノかがこの学術都市ステンドに入っていたことに、シンリは気付いてはいなかった。

6話あるので1日で割って4時間に1回投稿します。

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