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お読みいただきありがとうございます。

なんとか今日中に更新できてよかった。

 二つに分かれた木刀を前にシンリは打ちひしがれていた。

 もう何も言えず、四肢を地面に着けて、泣くでもなく怒るでもなく、無表情で地面を眺めていた。


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 ちゃぽんと魚が跳ねた音と、ぐぅという腹の音が同時にした時、シンリはようやく立ち上がった。


「……」


 それでもまだ無言。

 努めて木刀を視界に入れず、ゆっくりと川に近づいて手で水をすくい上げ、顔を洗った。


 吹っ切れたような清々しい顔で、心地よい太陽の光の暖かさを感じながら深呼吸をする。


「やってられるかああああああ!!」


 叫びながらステフォを操作し、おもむろにステフォを水の中に浸ける。水中で画面をタップして、アイテムボックスに水を収納した。

 今のアイテムボックスの容量は330kg。それなりにあるが、川の水は一瞬だけぽっかりとなくなっただけで、すぐに流れてきた新しい水で満たされた。


「うああああああ!!水に流す!文字通りなぁ!!」


 身体を反転させて川に背を向け、収納したばかりの水を全て木刀があった方向へ向けて放出する。

 放出された水は激しい滝のように全てを押し流し、木刀以外にも木などを根っこから抜けて流ていった。

 それを何度も繰り返している内に、放出する水の勢いに踏ん張りがきかなくなり背中から川に落ちた。それでようやく頭が冷えたようで、水の冷たさを背中に感じながらしばらく浮いていた。


ちなみにシンリの発散の代償として、地面は抉れ、木々は倒れ、豊かな自然の一部が見るも無残な姿になっていた。


「ああくそ、虚しい……。いや虚しいって言うか悲しいって言うか……。もう泣きたい……。あれ、涙が……。違った普通に水だ」


 びしょ濡れになって悲嘆に暮れているシンリの姿は、雨の日の捨て犬のような哀愁を漂わせていた。


 シンリはだるそうに川から起き上がる。


「あ゛ー。もうなんだよ武器ガチャってなんだよ。当たりがハズレなの?何その矛盾。面白くねえよ。もう武器ガチャとか引かねえからな。いや引くんだろうけどしばらく引かねえから絶対……って……」


 ぎゃあああああ、と、森にシンリの悲鳴が響き渡った。

 信じられないモノを目にしてしまったからだ。


「嘘……だろ。いや、嘘だろ。いやいやいやいや。え、え?え、なにこれ。こんなことって……」


 シンリが見たものとは、なんてことはない、大量の水に押し流されて起こった自然破壊の現場。

 川が決壊したような状況だ。


 シンリの目に映っているのは、倒れた木に引っかかって案外すぐ側にある木刀。


 ではなかった。


「……お、俺の制服は?」


 そう。シンリが見たものとは、制服を干していた木がなくなっているという事実。

 何も考えずに木刀めがけて水を放出していたため、周りのことまで頭が回っていなかったのだ。

 結果、制服や下着は木とともに流されてしまったというわけだ。


「は、ははは」


 笑うしかできなかった。

 流そうとしたものは流れずに、流れてはいけないものが流れてしまったのだ。全身は潤っているというのに、もう乾いた笑いしか出てこなかった。


 探そうにも、水の軌跡はいくつか枝分かれしており、どの方向にあるのか分からないまま全てを辿って探してみるというのは相当に時間のかかる重労働だろう。

 その上、見つかった制服が無傷でまだ使えるとは限らない。地面と木の間で擦れてズタズタに引き裂かれていると思うのが妥当だろう。

 そうシンリが考えたのは、【直感】のおかげか、それともシンリ自身が何もしたくないと思った結果なのかは、シンリには分からなかった。


「着るものが無いとか……。【毒霧】をローブに、なんて言ってたけどこんなんCG映しているのと変わんないからね。実際には何も身につけてないからね」


 【毒霧】はあくまでも霧。手で触れようと思えばすり抜けるし、少し強風が吹けば形は簡単に崩れてしまう。それに【魔力操作】で操っているといっても、移動する自分に霧を纏わせるというのは、結構集中力が必要なのだ。

 何よりなんか恥ずかしい。


「いや……もう何を言っても仕方ないか。だがとりあえず木刀はもう一回折ろう」


 濡れた靴を気持ち悪く思いつつも、靴は履いたままでよかったとも思いながら、目の届く場所にある木刀まで歩いていく。


「……ん?」


 離れていた場所で見た時には気付かなかったが、手に取ってみると明らかにおかしな点に気が付いた。


「折れたはず、だよな……?」


 折れて真っ二つになったはずの木刀は、初めて見た時と変わらない1mくらいの長さになっていた。

 本当は折れてなかったのか、という考えが浮かんだが、確かに折れていたと首を振って否定する。


「なら、再生って感じか?仮にも確定演出から来た武器だしそんくらい付いててもおかしくはないけどさ。せっかくだしレベルが上がった【鑑定】で調べてみるか」


 木刀に向かって【鑑定】を使うと、説明文が浮かび上がってくる。


『霊樹杖 リ=グロウ』

『1000年生きたエルフの森の王の墓から生えてきた聖霊樹ミルネアシーニの枝を削って創られた杖。森のエルフ達の聖なる力が込められている』


「お、おう。なんか思ったよりも凄そうなもので驚きを隠せない。見てよかった。ってか杖かよ。形状的に明らかに木刀じゃねえかよ」


 どこからどう見てもチャンバラで使えそうな木刀なのに、どうやら杖らしい。刀のようにちょっと反ってたり、柄の部分もちゃんとあるのに杖らしい。

 シンリは考えることをやめた。


「でも特に再生とかそんな感じのことは書いてないな。【鑑定】のレベルのせいか?レベル5って俺の中でそこそこ高い方だと思ってたんだけど」


 木刀を……いや杖を、やっぱり木刀を凝視して【鑑定】を再度掛ける。

 すると木刀の説明文に新しく文章が追加された。


『【鑑定】のレベルが不足しています』

『【鑑定】のレベルが不足しています』

『【鑑定】のレベルが不足しています』


「やっぱしレベルの問題か。このレベルで見れる情報があれだけってことは、それだけこの木刀、じゃなかった杖が……違和感あるな。それだけこの木刀が強いってことかね。ならあの金色の剣も強いんだろうな。まああの重量で押し潰したらどんなものでも一撃必殺っぽいけどな」


 とりあえず木刀をアイテムボックスにしまおうとすると『容量が不足しています』の文章が表示された。

 川に倒れた時に水を収納していたらしい。

 流石にまた陸に流して自然破壊するのも気が引けたので、シンリはステフォを水に浸けてから放出した。


「じゃあ木刀を収納っと……あ?総量600kg?なんで?」


 空き容量が600kgとなっていた。

 不思議に思ったが、アイテムボックスの容量を変化させるにはスキルポイントを支払うか【収納術】のレベルを上げるかしか思いつかない。

 シンリがステータスを見てみると、【収納術】のレベルが10となっていた。


「……なんでなのん?」


 説明すると【収納術】はアイテムボックスを使えば使うほどレベルが上がるものなので、シンリが川の水で最大容量まで入れるということを何度もしたためすぐにレベルが上がったのだ。

 もちろん、シンリが300kgまで拡張していたということも手伝っている。より多く収納するということも大事だった。

 ちなみにこの方法は【収納術】というスキルを持っている者が少ないということもあり、あまり知られていない。

 アイテムボックスは高級品なのだ。


 そんなことを知らないシンリはラッキーで済ませて、そろそろ本気で魚を捕まえようと川の前に立った。


「あ」


 とあるものに気付いたシンリは川に入って浮いているソレを掴んだ。

 魚だ。

 元々、魚を見て名前を当てられるほど魚に詳しい訳では無いが、こんな魚は日本にはいなかったよなぁと思った。


 よく見ればこの一匹だけでなく、二匹も三匹も浮いていた。

 ただし全て絶命していたが。


「もしかしなくとも、これって俺の毒のせい?毒のローブ纏ったまま川に落ちちゃったせい?いや俺悪くないよ。木刀のせいだよ。もっと言うなら毒なんてスキルをくれた神様のせいだようん」


 毒で死んだ魚を食べる気にはなれないので、川に戻した。

 シンリは流れていく魚が見えなくなるまで手を合わせて見送っていた。


 くぅという腹の音が悲しく響いた気がした。

シンリ・フカザト


《称号》

【異界人】【最終者】【生還者】

【疫病神】【毒魔】【害虫駆除】

【苦行者】


《スキル》

【毒霧 Lv.6】【観察眼 Lv.4】【魔力操作 Lv.9】

【回復術 Lv.5】【ヒール Lv.8】【活性化 Lv.4】

【調薬 Lv.1】【痛み分け Lv.1】【毒無効 Lv.4】

【猛毒耐性 Lv.6】【衰弱無効 Lv.2】【麻痺耐性 Lv.10】

【状態異常耐性 Lv.5】【魔力Ⅱ Lv.4】【災厄の予兆 Lv.1】

【キラー:虫 Lv.5】【穴掘り Lv.10】【疫病耐性 Lv.4】

【呪毒耐性 Lv.3】【睡眠耐性 Lv.4】【苦痛耐性 Lv.3】

【痛覚耐性 Lv.3】【飢餓耐性 Lv.2】【探査 Lv.1】

【鑑定 Lv.5】【収納術 Lv.10】【破魔 Lv.2】

【直感 Lv.4】


スキルポイント:8


ーーー



ブックマークが10件超えてました!ありがとうございます!嬉しかったです!



ちなみに、シンリのスキルレベルが結構ポンポン上がっていますが、普通はそう簡単には上がりません。

そこら辺もいずれ小説の中ですると思います。

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[一言] むごい殺生は止めなされ……
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