表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
夢見た世界で少年は
57/124

5.ドラ……強敵と出会う

お読みいただきありがとうございます。

『早く書けそうな感じはします(キリッ)』からの半月。

早く書けそう=早く投稿できる訳じゃないという言い訳してもいいですかね。しましたけど。

ごめんなさいがんばりたいです。

 欠けた月を背に空中で羽ばたくドラゴン。

 長く細い首の先にある鱗に覆われた刺々しい顔は、僕とトルテをこれでもかという程に睨みつけている。

 腕から生えた翼を合わせて、少なくとも体長は6、7メートルはありそうだ。


 僕はそれから目をそらさないのが精一杯で、逃げるために動くことすらできやしなかった。

 がおー、とドラゴンが吼えてその口から飛んできた大粒の涎を顔に受けても動けない。臭い。

 がおーなんて全く怖くないように感じるかもしれないけど、めちゃくちゃ怖いし、その声だけで森全体が震えているようだ。


「と、トルテさんっ、あ、あのっ、ドラゴン……」

「ワイバーンだって? どうしてこんな場所にいるんだい……?」


 ……ドラゴンじゃなくワイバーンらしい。

 なんとなく恥ずかしくて、けれどその羞恥で少し恐怖が緩和された。


「ユラ、あんたは少しの間どこかに隠れておきな。アンタを気にせず戦えるほど、竜種ってのは楽な相手じゃないんでね」

「か、勝てるんですか? あんな怪獣みたいなのに」

「まあ、一匹くらいならどうとでもなるさ。大方、群れからはぐれた個体だろうね」


 言い方から察するに、普段は群れで行動する種なのだろうか。

 一匹でも怖いこんなのが、二匹も三匹もいるなんて考えたくないんだけど。


 ともあれ、トルテから言われたように僕はトルテから距離を取るしか無いのだけど、戦いに巻き込まれるのと夜の森に独りで隠れておくというのはどちらが危険なのだろう。


 しかしそんな僕の不安や心配はドラゴン改めワイバーンの知ったところではないようで、僕が避難する前に奴は上空から勢いつけて突っ込んできた。


 反射的に目を瞑った僕が次に聞いた音は、何か硬いものと硬いものが激しくぶつかり合うような甲高い音で、次の瞬間ワイバーンの掠れたような悲鳴が夜の森に響く。


「キィィィアアアアアァァァァッッッ」

「ユラ! 今のうちに下がりなっ!」

「は、はいっ!」


 そう言われ、目を開いて見たのは武器の大槌をしたから振り抜いたトルテと、長い首を大きく仰け反らせたワイバーンだった。

 それらを尻目に僕は走って戦線離脱する。

 もちろんそんなに遠くにはいかないで、トルテの姿が見えるくらいの距離だ。

 ここまでくれば、流石に大丈夫だろう。


 周囲に僕を襲うような魔物や獣はいないのか、危険センサー(仮)は反応していない。

 きっとワイバーンが来たからみんな逃げ隠れているのだろうと思う。


「……トルテが予想以上に強い件について」


 さっきからずっと見ているけど、トルテは傷一つ負っていない。

 ワイバーンの攻撃を大槌で弾き、相手が怯んだところに最大の一撃を叩き込むスタイル。


 ワイバーンも勝てないと悟ったのか、翼を使って空へ逃げようとする。


「逃がさないよッ!」


 あろうことかトルテは武器である大槌を、ハンマー投げのように回転して空に放り投げた。

 既にそこら辺の木よりも高く飛行していたワイバーンに、その弾丸のような大槌は無慈悲にワイバーンの腹に激突する。

 滞空を保てなくなったワイバーンは墜落し、大槌のダメージか、地面に叩きつけられたダメージか、あるいはその両方によってばさばさと苦しそうにもがくが起き上がることが出来ていなかった。

 もちろんその絶好の機会を狩る側であるトルテが見逃すはずもなく、ワイバーンと共に落ちてきていた大槌を拾って止めの一撃を叩き込んだ。


「ふぅ」


 少し遠くにいるので聞こえないが、たぶんトルテはそう息をついただろう。

 ぴくぴくと痙攣するように動いていたワイバーンだったが、次第にぴくりとも動かなくなっていた。


「ユラ」

「トルテさん」


 僕らは互いに名前を呼びあう。

 森があまりにも静まり返っていて、そこまで大きな声じゃないというのに不思議と耳に届いた。

 でも、耳を澄ませば聞こえてくる音がある。

 その音はトルテにも聞こえているだろうし、僕に至っては音がするまでもなく、『それら』が近づいてきていることが分かっていた。


 静かな森にざわめきたつ獣に似ても似つかない不気味な声が、よく分からない危険センサーが、どうしようもないくらいに現実を突きつけてくる。


「さっさと逃げなっ!」

「でも!」

「一匹一匹ならまだしも、群れでこられちゃアタシも勝てやしないんだよ! アンタがいつまでもそこにいたら、アタシも逃げられないだろう!」


 がおー、がおー、と文字にすれば気の抜けるような咆哮が、両手の指では足りないほど聞こえてくる。

 そう、あのワイバーンは一匹じゃなかったんだ。

 群れで行動するワイバーンはその習性通りに群れで行動していた、ただそれだけのこと。


 木々の間から姿を見せたワイバーンたちが、トルテに群がる。

 雄叫びを上げながら大槌を振り回すトルテは、傷を負い血を流しながらもワイバーンを屠ってゆく。


 けれど、それでも数の暴力は圧倒的すぎて、僕のいる場所からはトルテはワイバーンに囲まれて見えなくなってしまった。


 そのうちの一匹が僕を見た気がして、その時には何も考えられずに僕はその場から逃げ出した。

 トルテに背を向けて逃げ出した。


 トルテは僕に逃げろと言った。

 僕がいたら自分が逃げられないから、と。

 でも、本当にトルテは逃げようとするだろうか。

 出会って一日、話した時間もそう長くない。トルテがどんな人間かなんて分かりはしない。

 けれどたぶん、彼女は大切なものを守ろうとする人間だ。

 だって、何かを守る騎士を目指しているのだから。

 そんな人間が、逃げるという選択肢を取るだろうか。


 逃げて、獲物を失ったワイバーンたちが、一番近い村を襲う可能性があるかもしれない。

 ならもう、トルテはきっと逃げない。逃げられない。

 トルテは死ぬまで戦い続けるだろう。一匹でも多くワイバーンを殺そうとするだろう。


 所詮は僕の想像だ。もしかすると、彼女はもっと利己的かもしれない。自分のことしか考えないような人間かもしれない。

 だけど僕には、そんなトルテが想像出来ないんだ。

 今日一日、足を引っ張ってばかり僕を見捨てず、囮になって逃がそうとしてくれている彼女なら、ここで戦い続ける。

 それが僕が今日知ったトルテという人間だ。


 なら、僕はトルテを見殺しにしたということだ。


「はぁ、はぁ……うわぁっ」


 木の根っこに足が捕まり転んでしまった。

 坂道だったためごろごろと勢い止まらず、背中を木にぶつけてようやく止まる。

 痛い。


「痛い……」


 足が痛い。背中が痛い。心が痛い。


 どれほど走ったのだろうか。

 トルテの戦闘の喧騒は既に聞こえていない。

 もしかしたら、もう……と、最悪の想像だけが胸の内でくすぶる。


 あの場所に僕がいたとしても足で纏い以外の何ものにもならなかったということは分かっている。

 逃げることが唯一の取れる選択肢で、それが最善だったと理解している。

 力もない、知恵もない、ただの高校生の自分が何も出来ないことは自分が一番よく知っている。


「仕方が、ないじゃないか」


 その声は掠れていた。

 いつの間にか視界はぼやけていて、涙を流していることに気づいた。


「僕は弱い。戦えない。なら、どうしようもないじゃないか」


 痛くて、悲しくて、苦しくて。

 言い訳しかできない自分が凄く悔しい。


 僕はその場で、泣くことしか出来なかった。


 いや、僕には泣くことすら許され無かった。


「ギャッガァァァァァッッ!!」


 僕を追ってきたのか、ワイバーンが僕の上を飛んでいた。

 ワイバーンは長い首を伸ばして僕に噛み付こうとする。


「死にたくっ、ない!」


 僕は無様に転がって回避して、よろけそうになりながらも立ち上がる。

 どうせここまで近付かれたら逃げることなんてできないんだ。

 だったら、最後までとことん抗ってみせる。


 不思議と、もうそこまで怖くない。

 トルテを見殺しにした罪の意識からか、それとも、ただやけくそになっているだけか。

 まあそんなのどちらでもいいか。


「槍は……っ」


 さっきこけた時に手放してしまった槍を探す。


 あった。

 けれど、それはワイバーンの後ろに落ちていて、拾うには少なくとも一度はワイバーンの攻撃を躱さなければならない。


 できるか、僕に。

 いや違う。やらないと死ぬんだ。

 ならもう、できるかできないかなんて意味の無い話だ。


 ワイバーンがまた僕に攻撃する前に、こちらも何か策を用意しなければならない。

 ステフォには何が入っていたか。

 武器の類は、小さなナイフくらいしかなかった。

 後はテントや、薪などの野宿に必要なもの。

 それと、今日罠にかかっていたうさぎの死体くらいだろう。


「ガアアアァァァ!!」


 唾液が飛び散る。

 そう言えば、最初のワイバーンも、群れていたワイバーンも、涎を流していた気がする。

 お腹が空いている、ということなのだろうか。

 なら、うさぎを目の前に投げれば、少しは気を逸らすことができるかもしれない。


「これを、見ろ!」


 うさぎの死体を、僕の進む逆の方向に投げる。

 果たして、その作戦は成功した。

 ワイバーンは文字通り飛びつくように首を伸ばし、うさぎを丸呑みし、僕はその隙にワイバーンの下を通って槍を掴む。


「えっ……?」


 その瞬間、僕の身体は勝手に動いた。

 まるで槍に引っ張られるように。

 自分の身体ではないように。


 僕の身体はワイバーンに向かって駆け出し、槍を振り上げて傷を負わせた。

 怒ったワイバーンは威嚇しながら突進してくるけど、バックステップでそれを易々と回避した。もちろん勝手に動いただけだけど。


 ワイバーンの伸びた首が戻る前に、その顔を蹴り飛ばし……痛ったああああああ! さらに追い打ちを掛けるように逆からも……ぎゃあああ!!


 自爆により重症を負った足は歩く度に激痛が走るけど、僕の身体は気にしない。

 羽ばたいて空に上がったワイバーンを攻撃するべく、直立する木に足をかけそのまま垂直に駆け上がり、飛び跳ねる。


 たぶんこれで決めようとしているのだろう。

 変な体勢から無理に身体を捻ったため背中がボキッといったり、持っていない筋肉を拠出しようとしてるのか、二の腕あたりからブチブチと嫌な音が聞こえる。

 もうやめて!


 と強く念じたからか、僕の身体の主導権は僕に戻ってきた。

 嘘でしょ!? このタイミングで!?


 空中で身動きができない上に、満身創痍のボロボロな身体。

 そんな状況でワイバーンを倒せるわけがない。僕の戦闘経験は皆無なんだ。

 僕はもう1度、身を任せるように気を抜いた。

 すると僕の身体はひとりでに槍を構え、ワイバーンを貫くため全体重を掛ける。


 少しでも動く度に走る激痛はお察しでお願いします。


 ワイバーンに槍が突き刺さる。

 ぎゃあああ、という僕の悲鳴とワイバーンの悲鳴が重なった。


 その衝撃による痛みと、地面にボロボロの足で着地した時の痛みはどちらが痛かっただろうか。


「ふ、はっ。あははははっ!」


 痛みが気持ちよくなって笑っている訳では断じてない。

 ただ、倒せたことが嬉しくって、僕でも戦えるんだぞって思えるようで。


 がおー。


 あー、死んだなーって。 



もう守れない約束はしませんよ、ええ。次はいつになるか分かりません!とでも言っといた方がいいんですかね。

まあ今回の半分切り取りしたんでほぼ書けてるわけですが。

敢えて言うと次の更新日は未定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ