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紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
夢見た世界で少年は
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2.武器ガチャを引く

お読みいただきありがとうございます。

特に何も起こりません。

 起こされた。


 たぶん寝てから三十分も経ってない。

 でもここ家主たるおじさんからしてみれば、僕が夜通しステフォを弄っていたなんて知る由もなく、なんなら起きていたか寝ていたかなんてのも関係ないのだろう。

 だって他人だもの。……言ってて悲しい。


 しかし仕方もないので家の外にある井戸水をくんで顔を洗う。

 おそらく時刻的には五時くらい何じゃないかなって感じの気温と明るさ。

 季節はたぶん夏前。春過ぎって言った方が近いかもしれない。

 なんとなく心地いい感じもするけど、じっとりとした不快感もある。もしかすると、日本の四季に近いのかな。


 で。


 泊めているのだから、ちょっと仕事を手伝えとはおじさんの弁だ。

 もちろん賃金は発生しない。

 ただ朝食は作ってくれたそうなのでありがたく頂いた。

 腹が減っては仕事はできぬってね。


「で、なにをすればいいんですか? ふわぁ」


 ご飯を食べ終えていざ仕事(のお手伝い)。


 あくびを噛み殺しながら尋ねようとしたけど、普通にしてしまった。眠い。

 おじさんは特に気にした様子もなく、こう答えた。


「昨日町で買ってきたものを、村のみんなに配るんだ。お前がいつまでこの村にいるのかは知らねえけど、手伝いついでに顔を覚えてもらってこい」


 あらやだ。このおじさんとてもいい人じゃないですかー。



 顔と名前を知ってもらうというのは案外大切なことだ。

 村とか、小さなコミュニティなど閉鎖的な場所だと、中の繋がりや結束力が強い代わりに、外……つまりよそ者には冷たい、と何かで読んだ気がする。

 いわゆる村八分ってやつだ。違うかもしれない。言葉だけ知ってるけど詳しい意味までは知らないし。


 まあでもそんなだから、顔を覚えてもらうだけで対応がめちゃくちゃ優しくなったりする訳でもない。だけど、いくらか当たりは柔らかくなった気がする。

 仕事ついでの自己紹介ついでの売り込み、『何でも屋をやりますから何かあったらどうぞ』というものにいい返事をいくつか貰えた。

 いや特技とかないし、何が出来るでもないけどさ。

 誇大広告ではない。きっとない。


 仕事が終わったのは、お腹の減り具合から察するにちょうど昼頃だろう。

 ただ居候するだけでなく働いたということで、変な気を遣わずにおじさん家で昼食も食べさせてもらった。


 これからはもうやることはないので自由時間だ。

 何でも屋の仕事を座して待って見てもいいけど、せっかくだから、フォレストでモンスターをハントするためのインフォメーションを……集め……収集……コレクト? いやなんか違う……集めようと思う。いや英語が思いつかなかったとかじゃなくて。


 スキルで俺つえー大作戦は失敗に終わったけど、まだ武器ガチャという最後の希望が残されている。

 武器なんて、包丁とか果物ナイフとか授業であった剣道の竹刀くらいしか使ったことないし、なんなら身を守るための防具の方が欲しいけどね。


 ポイントは10、つまり引ける回数は2回。

 排出確率は不明、ガチャ内容も不明、ピックアップが開催しているかも、もしかしたらフェス的なのがあるかどうかも不明。

 クソだなこのガチャ。

 グループチャットを見ても、ガチャ報告とかは無かった。


「しかも、ポイントはスキルのレベルを上げないと貰えないってチャットで言ってたし……現状、僕にとって正真正銘ラストチャンスだよ」


 宛てがわれた部屋でベッドの上に座り、ひとり言を呟きながら、ステフォとにらめっこする。


 どのくらいそうしていただろうか。

 ステフォの上に親指をさ迷わせていたところ、いきなり扉が開かれる。


 やましいことをしている訳ではないけれど、ほとんど反射的にステフォを自分の後ろに隠していた。


「ユラ、暇なら少し薪割りの手伝いを……」


 そう言いながら部屋に入ってきたおじさんの声が止まる。


 何も無いはずの部屋の中心に、赤く細い槍が現れて床にぶっ刺さっていたからだ。


 あとから考えれば、もしかしたらステフォを咄嗟に隠した際に、画面に指が触れていたのかもしれないという思考に至ることだろう。


 だけど今この時は、それを見るおじさんも僕も、ただただ混乱していた。

 だって意味わかんないし。


 まあ僕の状態は混乱と言うよりは焦燥と言った方が当てはまるかもしれない。


 考えても見てほしい。

 出会ってまもない出自不明の、見るからに怪しく、さらに言えば明らかに隠し事をしていると分かる他人が、一人でいる時間に今までは持っていなかった武器を所持している。

 この場合は凶器と言った方が伝わるだろう。

 とりあえず何が言いたいのかと言えば、僕の評価が、怪しい子供から強盗に近しいものにランクダウンしたという訳で。


 端的に。

 そんな奴、少なくとも自分の家には置いておけないだろう。僕なら通報する。


 つまり、今の僕は家を失う三秒前ってことだ。そりゃ焦る。


 その思考に至ってすぐ、僕の脳は数々の言い訳を思いつくためにフル稼働した。


「ちゃ、ちゃうねん」


 しかし悲しいかな。

 テンパりすぎて、脳内リソースのほとんどは混乱によって埋め尽くされていた。


「おっ、おいユラぁ!」

「は、はいぃ!」


 飛んできた怒声に、僕は色々覚悟しながら目をつぶり、情けない声で返した。


「我が家に穴空いちゃってんじゃねえか!」

「いやもう本当ごめんなさい訴えるのだけは勘弁……え?」

「だーかーらー! いくらなんでも屋内で武器使うのが非常識だって分かんだろぉ!? バッカじゃねえの!?」


 ……ふむ?

 おじさんが怒ってるのは、家を傷付けられたことに対してであって、僕が秘密裏に武器を所持していたことは関係ない?


「あの、ちょっといいですか?」

「あん?」

「僕が槍を持ってることに、疑問とかないんです?」

「別に珍しいことじゃねえだろ。つか話をそらすな! さすがに弁償してもらうぞ」


 これが異世界クオリティか……。

 というか、価値観の違いかな。


 武器を持っているのは当たり前なのだろう。

 もちろん、人を傷付けるのはいけないことなのだろうけど、ここでの正当防衛は元の世界での過剰防衛程度には許されているのかもしれない。


 チャットを見ていたら盗賊や魔物などの危険はありふれているようだし、自衛の手段ということか。


「どうした、黙って」

「いや、弁償ってどのくらいで返せるかなぁ、と」

「そりゃお前……とりあえず、薪割り手伝えよ。な?」

「お手伝いさせていただきます!」


 とりあえず今は宿を失わなかっただけ喜ぼう。

 部屋から出ていったおじさんを追いかける前に、刺さっている槍を抜く。


 細いから軽いのかと思ったけど、見た目よりも重い。

 片手でも持てないことはない……いやでも両手で持った方が安定するな。10キロに近い重さってころだ。


 両先端が尖っていて、真ん中が少し凹んでいることから、おそらく持つ部分だろう。

 それか、ぽっきり折って二本になったりするタイプなのかも……いや違った。膝が痛い。


「早く来いよ!」

「はーい!」


 ひとまず槍のことは忘れよう。

 ステフォを操作して槍をしまい、部屋を出てそのまま外へ行く。


 まあ薪とか割ったことないんですけど!



 翌日筋肉痛になったことだけをここに明記しておこう。

 いや帰宅部の体力舐めないでください。死にます。

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