1.異世界の厳しさを知る
お読みいただきありがとうございます。
『もう一人の主人公の物語』とでも読んでいただければ幸いです。
一人称です。
気が付けば、見慣れた教室にいた。
もちろんそこにいるみんなもクラスメイトばかりだ。
誰もこの状況について分からないのか、混乱していた。
いつの間にか教卓に瀬川先生が立っていて、でも『ソレ』は瀬川先生ではないと言っていて。
ソレが言うには、僕たちは死んだらしい。まあ、なんとなく分かっていたことだけど。
そして、僕たちには選ぶ権利が与えられて、異世界で生きるか、あるいは死を受け入れるかを選ばされた。
そんな、死を選ぶ人なんていないだろうに。
僕らは机の中に入っていたスマホ……違う。ステータスフォンことステフォを手に取って、選んだ。
《yes/no》
〇
教室から視界が変わって、広い草原に出た。
「異世界、かぁ」
呟いてみたけど、声は変わっていない。どうやら身体に異常、というか変化は内容だ。少なくとも声的には。
一応、自分の事についても思い返してみようと思う。
名前は由良 由良。男女問わず、ユラくんとか呼び捨てで呼ばれていた。
家族構成は両親に姉、下に双子の妹たちがいて、父の名前は良で、母の名前は由だ。
だから僕らの名前もこんなのになったんだろう。
姉は由良。僕よりもひどい。
妹たちは上が由々良で下が由良々。たぶん子供たちの中で彼女たちの名前が一番無難だろう。
ゆらゆらって有り得ないと子供ながらにずっと思ってる。
まあ、クラスでの立ち位置は中の中ってところだろう。
名前以外に大して特徴のない僕は、成績も普通で顔も普通。
友達がたくさんいるってわけでもないけど、全くいないわけでもない。話し上手でも聞き上手でもないだろうけど、コミュ障ってわけでもない。
普通オブ普通。普通ってすばらしい。
そんな僕とは打って変わってたいへんおモテになる姉妹がいるせいか、一時期ギャルゲ主人公だという不名誉なアダ名で悪目立ちしたけどそれは忘れよう。
うん。どうでもいいしね。これまで話してきたこと全部。
だって異世界だよ。
それに能力だって貰ったし、ステフォなんていう便利アイテムだって貰ってる。
元の世界ではそれなりに異世界転生系とかの俺TUEEEEな作品を読み漁っていた僕としては、テンションが上がらないわけがない。
テンション上がってます。こんな感じでも上がってるんです。
じゃなきゃ、誰に向かってでもない自分語りなんてしない。
はてさて、これから何をしようか。
まずはステフォでどんなスキルが貰えたのかを見ちゃう? それともお楽しみは最後まで取っておいて、まずはこの世界の住人と会いに行く?
いや会いに行こう。いつまでもここにいてもどうしようもないし、野宿とかもしたことないし。
町とか村に行って宿を貸してもらいたい。あ、お金ないけど大丈夫だろうか。
そこはこの世界の優しさを信じよう。
とりあえず向かうは……。
と、おや?
ぱからっぱからっと軽快な足音を響かせながら、馬車がこちらに向かってくるのが見えた。
「すみません」
声を掛けると止まってくれたので、どうにか乗せてもらえないかと懇願する。無料で。
あれやこれや四苦八苦、土下座も辞さない覚悟で頼み込むと、最後に折れた苦労人臭するおじさんが乗せてくれることになった。やったね。
「向かうのは俺の住んでる村だが、それでいいんだな?」
町で、作物を売って生活用品を買って村に帰る途中だったらしい。
僕にとって行き先なんてどこでも変わらないので、もちろんだと頷いた。
「ついでに家に泊めて貰えたらすごく嬉しいです」
「図々しいなおい!」
「お金も行く宛もなんなら知識も記憶も失ってしまって……」
「怪しすぎるぞ!?」
とりあえずなにか聞かれても記憶喪失だと誤魔化した。
ずっとそんな言い訳をしていると、おじさんの僕を見る目が段々と不審者を見るような目になってきたので、挽回するために会話をずっと繋げる。
なんとか、ただの迷子だという設定を保ちつつ、村まで送ってもらえた。
〇
「ここで働かせてください!」
「人手は足りてる」
「ここで働かせてください!」
「家畜の世話とかした事あるか?」
「ないですすみません」
「ここで働かせてください!」
「お前みたいなひょろっとした奴に出来ることなんてねぇよ!」
おじさんの家で居候、という約束は無理やり押し切ったため、家賃とか生活費とか稼ぐために村全部を回ってみたけれど、結果は全て撃沈。
そもそもこの村自体がとても小さく、わざわざ他人を雇うまでもなくその家庭でこと足りてるし、なんなら他人に支払うほど余裕のある所もない。
「おじさぁん……僕にできることとかないですかねぇ」
僕はテーブルに頬をつきながら夕食を食べているおじさんに尋ねた。
ちなみに僕の分はない。
一緒に食べているおじさんの奥さんが僕の分も持ってこようとしてくれたけど、自分から辞退した。
流石に甘えすぎるのも良くないし、下手に調子に乗ってここを追い出されでもしたら目も当てられない。
「さあな。まあ適当に獣や魔物でも狩ってきたらどうだ。肉は誰にでも売れるだろうし、魔物の素材なら俺が町で売ってきてやるぞ」
「ちょっと、あなた」
「……ああ、悪い。冗談だ。真に受けるなよ」
……なるほど。いいことを聞いた。
モンスターハントですね分かります。
ただの高校生ならまだ分からなかったかもしれないけれど、今の僕は特典スキル持ち超高校級ユラユラくんだ。
完璧なスキルをゲットして、魔物の一匹や二匹、倒して見せようぞ!
僕は勢いよく立ち上がる。
「疲れたので寝ます! おやすみなさい!」
「めちゃくちゃ元気が有り余ってるけどな」
なんか言われたけど気にしない。
僕は、僕に与えれた部屋に入って、布団の中でステフォを開く。
ーーー
ユラ・ユラ
《称号》
【異界人】
《スキル》
【※※ Lv.-】
スキルポイント:10
ーーー
「?????」
いやなんだこれ。
タップしてみると、詳しく表示されるようだった。
【異界人】異界から招かれた者に贈られる称号。存在する全てのスキルを覚えることが出来る。
【※※】『名前の付けられていないスキル』
「いやなんだこれ!?」
そんなスキルを人に渡すなと言いたい。
やばいな。なんかもう一歩目で躓いた感ある。
一番当てにしていた武器が『ひのきのぼう』どころか雑草だったような気分だ。
だがスキルポイントは10。
スキルのページに行ってみると、どうやら1ポイントで一つのスキルが貰えるということが分かった。
なるほど。あのスキルが当てにできない今、ここでの選択は一つたりとも間違えることはできない。
数千数万はありそうなスキル群を、一つ一つ漏らすことなく見ていく。
ちょくちょく読めなかったり、名前だけでは効果の分かり辛いものもあったが、ここのは詳細を知ることは出来ないらしいのでフィーリングでなんとかする。
正直途中で面倒になって、ガチャという運任せにしてみようかと思ったけれど、5ポイントで一つのスキルというのは、まだスキルポイントの入手法が分からない今だと選べない選択だ。
朝日が昇るまでの時間、何度も何度も考え抜いて取捨選択した10個のスキルがこれだ。
【投擲】【命中補正】【身体強化】
【気配察知】【潜伏】【鑑定】
【風魔法】【魔力操作】【自然治癒力上昇】
【回復魔法】
狙いとしては、【投擲】という道端に落ちている石でも武器にできそうなスキルを中心として戦うことにし、【命中補正】【身体強化】で命中率と威力を上げる。
獲物を見つけるための【気配察知】に、逃げられないための【潜伏】、敵の強さを知るための【鑑定】。
残りの【風魔法】とか【回復魔法】とかは、正直魔法が使ってみたかったって言うのと、もしも攻撃を受けて動けなくなる、ということがないようにするためだ。
くくく。完璧だ。
元手は要らず、お金が手に入り、なんなら回復魔法で医者の真似事でお金を稼ぐのもいい。
皮算用だと笑うなら笑え! これが僕の考えた最強の布陣だァ!
……徹夜明けのテンションでちょっとおかしいかもしれない。
スキルを取得すると、ピロンとステフォが鳴った。
『スキルポイントによるスキル取得数が10に達しました』
『チュートリアルを終了します』
『チュートリアルクリアボーナスとしてスキルポイントが10配布されます』
『いくつかの機能が解放されました』
『引き続き異世界をお楽しみください』
まあ、当然かもしれない。
そんな、いくつも自由にスキルが取れるなら、やろうと思えばこの世界を蹂躙すら出来るだろう。
個数制限があるのも頷ける。
「スキル取っても、あんまり変化ないな。レベルが低いからかな?」
そう思って自分のステータスページに行くと、僕は言葉を失った。
ーーー
ユラ・ユラ
《称号》
【異界人】
《スキル》
【※※ Lv.-】
スキルポイント:10
ーーー
「?????」
?
どぅーゆーくぉーと?
ステフォには通知欄というものもあるらしい。
今度はそれを見た。
ーーー
【※※】によって他スキルの取得が拒否されました。
【※※】によって他スキルの取得が拒否されました。
【※※】によって他スキルの取得が拒否されました。
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ーーー
「……」
僕はそっとステフォの画面を落とすと、ゆっくりと目を閉じた。
そして寝た。
しばらく続きます。




