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前回からおよそ三ヶ月くらい空いてしまったので超訳をば。
異世界転移したシンリくんは色々あって上位存在『聖霊』になって、なんだかんだあって元クラスメイトのヒイラギくんと再開。後になんやかんやあって同じクラスだった系女子アキヅキさんを救う。
しかし、その方法が真っ当ではなかったので街から逃げることとなり、その最中盗賊と遭遇し交戦。この世界での境遇が似ており、盗賊たちの隠れ家でお世話になっているとよく分からない子に理不尽に襲われる。
なんとか和解()した。的な。
少しでもお読みいただければ嬉しいです。
時間は少し遡る。
ヒイラギとアキヅキ、そして十数人の子供たちはシンリたちのいた部屋から出て、盗賊の隠れ家である洞窟の中を歩いていた。
隠れ家として使っているためか、複雑な迷路のように掘られていた。
万が一、侵入者が入ってくるなどの事態を想定しているのだろう。確かにこれなら構造を知っている方が有利に動けるだろうなとヒイラギは思った。
ヒイラギはたまに振り向いて子供たちが着いてきているか確認する。その時に一番後ろにいたアキヅキと目が合った。
アキヅキは少し駆け足でヒイラギの隣までくると、声を小さくして言った。
「あの、今更ですけどフカザトくんを一人にしてよかったんでしょうか。いえ、私があそこにいたところで力になれるとは思えないんですけど……い、今からでもヒイラギくんだけでも戻った方がいいんじゃないかな、と」
「大丈夫だよ。あの少年はもうシンリには逆らえないし、もし戦いになるのならそれこそ俺たちはいない方がいい。その方がシンリも毒が使いやすいだろうからね」
「そう、ですか……」
それを聞いてアキヅキはまた子供たちの最後尾についた。
だがまだ心配は拭えないのか、意味がないと理解しつつも後ろを振り向く。
「?」
今歩いてきた曲がり角の奥に、なにか動いたような気がした。
しかし、目をこすってもう一度見てみても何の異常もなかったため気のせいだと結論づける。
等間隔に明かりとして松明が置いてあるものの、薄暗いことには変わりない。見間違えることもあるだろう。怖くない。お化けとかいない。
そんな風に考えながら、少し安堵するアキヅキの腹部に何か当たった。
「わ、ごめんなさいっ」
なんだろうと下を見ると、アキヅキの前を歩いていた子供にぶつかっていたので反射的に謝る。
しかもただぶつかったのではない。
今のアキヅキの形状は泥であるため、その子供にベチャァと泥が付着していたのだ。
アキヅキは慌てて拭おうとするが、その手も泥であるため、子供を泥まみれにしてしまう結果となってしまった。
結局、自分の半分の年もないような子に「いいよ」と許されて、恥ずかしいやら面目ないやらでアキヅキは顔を両手で隠しながら「ご、ごめんなさい……」と謝った。
というかそもそも、ぶつかった理由は……アキヅキがよそ見していたことだが、他にも理由がある。
先頭を歩くヒイラギが立ち止まったからだ。
ヒイラギが立ち止まったがゆえに子供たちも止まり、後ろを振り向いていたアキヅキだけが気づかずにぶつかってしまったのだ。
「どうかしたんですか?」
「いや、まあ」
歯切れ悪く言うヒイラギにアキヅキは首をかしげる。
「とりあえず、あの少年のことを盗賊たちに伝えようと思ってたんだけどね」
「はい。それがいいですよね」
「思ってたんだけどね」
「なんですかその意味深な過去形」
ヒイラギは無言で少し進み、Y字路の中心に手を当てた。
「道が分からなくなったというか、迷ったというか。そもそもあの人たちがどこにいるのか知らないというか……。ね?」
「いや、『ね?』とか言われましても。普通に子供たちに聞けばいいじゃないですか。ここ、この子たちの家なんですから」
「そう言われてみれば!」
アキヅキに言われるまでその発想がなかったヒイラギは、彼のすぐ後ろを歩いていた子供に道を尋ねる。
すると、その場にいた全員の子供がヒイラギの顔を見つめた。
「……」「……」「……」
「……」「……」「……」
ヒイラギに視線を向ける子供たちの瞳に光は無い。
まるで人形のような、作り物のような無感情がそこにはあった。
あまりにも突然な変化に、ヒイラギは思わず声を漏らす。
「え?」
「どうしたのおにーさん、へんな顔してるよ?」
「い、いや、なんでもないよ」
「ええ〜。へんなの〜」
子供たちは何事もなかったかのようにキャッキャと笑う。
目には光が戻り、普通に笑っている。
今のを見間違いだと思えるほどヒイラギは楽天的ではない。
しかし現実だと言うのなら、原因は何なのだろうか。
「ね、ねえ。今のこと覚えてるかな?」
「今の?」「お兄さんが変な顔してたこと?」
わかっていたが、やはり子供たちに記憶はない。
ならば次は先程と同じ状況を作ることにした。
「ねえ、どこにおじさんたちがいるか教えてくれる?」
「……」「……」「……」
この言葉が……いや、問いがトリガーとなっているのだろうか。
ヒイラギは最後の確認のために、正気に戻った子供たちに質問をする。
「おじさんたちの名前を教えてくれるかな?」
「……」「……」「……」
なるほど、と。
ヒイラギの頬に一筋の汗が流れた。
「ヒイラギくん、これって……」
「うん。だろうね」
同じ思考に至ったらしいアキヅキの言葉にヒイラギは頷き返す。
さしずめ情報漏洩の防止と言ったところか。
子供たちが盗賊たちの情報をしゃべることができないようにしているのだろう。
それは先程の検証から見て間違いないはずだ。
こんな世界で、彼らが生きていくにはどんな手も打っておきたいのだろう。
これなら最悪、子供が連れ去られるようなことがあったとしても情報が漏れることはなく、更なる危険を回避できる。身を守る手段の一つだと言えるだろう。
それだけなら、まだわかる。
わかるのだが……。
「い、息してませんでしたよ!?」
「それだけじゃない。心臓も止まってた」
【蛇眼】のちょっとした恩恵として、常時視界から入る情報が多いヒイラギは、見てわかったことをアキヅキに伝えた。
代償か、それとも『そういう仕組み』なのかはヒイラギには判別がつかないが、理解してやっているのならどちらも変わらない。
死ぬ可能性があるのだ。
「……これは、言わないといけないことと聞かないといけないことが増えたな」
ヒイラギは目を細めながら言った。
だがそれでも迷いはある。
やめろというのは傲慢だろうか。
これが悪だと断ずるのは偽善だろうか。
誰かを助けたいと思う気持ちに間違いはないだろうか。
何かを救いたいと望む想いに誤りはないだろうか。
前は一度、失敗した。アキヅキを助ける時だ。
シンリとの道を違えてでも押し通した自分の心による行動は、結局シンリの手を借りることとなった。
シンリがいなければ、今ごろヒイラギもアキヅキと仲良く奴隷生活してただろう。仲良くかは知らないが。
今回も都合よくシンリの手を借りられるとは限らない。どちらかといえば可能性は低いだろう。
盗賊たちに子供たちのことを追求して、もしも逆上などされてしまえば、抗えるかどうかはわからない。
一応、昨晩話したことで、ちょっとした『ひととなり』は分かったつもりだ。基本的に根は悪い人ではないのだろうと思う。
だがそれも、子供たちにあんな仕掛けをしているという事実を知って揺らいでしまった。
ヒイラギは考える。
今、自分に出来ることを考える。考えてしまう。
直情的な行動をしないようにと思うあまり、なにか理由をつけて自分を納得させないと動けなくなってしまっているのだ。
いくら考えたところで、どれだけ考えたところで結論は決まっているということをヒイラギは気付いていない。
結局は子供たちのために動くのだ。
だからこれは、遅いか早いかというだけの話だった。
「ヒイラギくん」
ヒイラギの他にも、その場には子供たちを助けたいと思った少女がいた。ヒイラギが迷っていたことを彼よりも早く決断した少女がいた。
アキヅキは悩むヒイラギの前に泥の手を差し出して言う。
「手を、握っていてもらえますか?」
「へ?」
とりあえずヒイラギが思考を止めて最初に思ったことは「真剣な顔して何言っちゃってるんだろうこの娘」だった。
いや本当何言ってるのだろうか。え、嫌がらせ?
ヒイラギの表情から、彼が自分の意図とは違う、なにか見当違いなことを考えているのだと察したアキヅキは焦ったように言った。
「ち、違いますよ!? ヒイラギくんが考えているような意味で言ってるんじゃないです! ヒイラギくんに手を握ってもらいたいわけじゃないんですよぅ!」
「どっちだよ」
「いや握ってもらわないと困るんですけど、握ってもらいたいとなると意味がちょっと変わってしまいまして……もうさっさと握ってくださいよ!」
「うん落ち着こうとりあえず落ち着こう。そしてそのクリスタルの拳を握りながらこっちに向けるのやめてください」
教室の隅で静かに本を読んでいたおとなしい少女のイメージは、もうヒイラギの中では結構変わってしまっていたりいなかったり。
〇
「えっと、つまり、この洞窟の構造を調べるための技を使うために、俺が手を握る必要があるってことでいい?」
「そう思ってくれて問題ないです。はい」
(泥の状態でわからないが)おそらく顔の赤いアキヅキは、意味かあるのかないのか手で顔を仰いで風を送りながらそう言った。
「要は私自身がこの洞窟と一体化するということです。やったことはありませんが、たぶん出来ると思います。その結果、構造がわかるかどうかもわかりませんが、おそらく大丈夫でしょう」
「たぶんとかおそらくとか不確定要素が多いね! ん、あれ? 俺が手を握る意味は?」
「あー……、まあ、ちょっとした保険ですかね」
「保険……?」
疑問符を頭に浮かべるヒイラギを余所に、アキヅキは片手を壁につけて、もう片方の手をヒイラギに差し出す。
「ヒイラギくん。もしもの時は私の名前を呼んでください」
「どういう……」
アキヅキの腕が、まるで水の中に浸けたように洞窟の中に入っていった。
アキヅキのしようとしていることを簡単に言えばこうだ。
『失った身体を地面で代替できるのなら、その逆もできるのではないか』
つまり極端に言うのであればこの大地を、大陸を、星を、すべてを自分にするということ。
スケールの違いこそあれど、やろうとしていることはそれと同じだ。
確かにそれができれば、洞窟の構造を知ることなど造作もない。自分の右手はどこで、肩はどこで、お腹はどこだと言うようなものだ。
しかしそれは、言うほど簡単なことではない。
むしろ不可能と言っていい。そもそも普通は思いつきもしない、思いついても普通なら実行しない自殺行為。
アキヅキがしようとしているのはそういうことだ。
もしもこれが、アキヅキに土をくっつけていって巨大ロボットみたいにしようと言うのであればまた話は違う。
アキヅキという『核』があり、アキヅキには意思がある。
どれだけ大量の土を持ってこようが、アキヅキが土に飲み込まれることは無い。
だがこれは違う。
意思などない自然に自分を流し込むのだ。
単純に『量の問題』とでも言えばいいだろうか。
土と泥。本質は同じものだ。
わかりやすく言うならば、海を想像してもらえればいい。
海に1.5Lのジュースを流したところで、海水が甘くなるはずもない。しょっぱいままだ。
1に無限を足せば一気に膨大になるが、無限に1を足したところで誤差の範囲だということ。
故にこれは当然の結果だ。
アキヅキの意識はだんだんと薄らいでいく。
自分が何をしようとしているのかもわからなくなり、そもそも自分が何者なのかさえもわからなくなる。
飲み込まれる。吸い込まれる。つぶされて、まざりあって、ぬけていく。うしなわれる。なくなっていく。
ここはどこ、わたしはだれ。
さむい、あつい、さみしい、たのしい、うるさい、こわい、うれしい、あ、れ、なに、か……ムjfsのち2fcs陥7.^@
……。
…………。
………………。
……ん……、
ぁ……さん! ……キヅ……、アキヅキ……!
あきづき。あきづき。秋月。……アキヅキ?
だれ。よんでる。どこに。どこへ。どこで?
こっち。あっち。そっちじゃない。むこう?
もう、だいじょうぶ?
もう、だいじょうぶ。
ああ。
わたしは。
……。
〇
「ここはどこ?」
「うわぁ! 重症だ!」
「いえ、嘘です。冗談です。えっと……ヒイラギ、くん?」
「本当に大丈夫!?」
「少し色々ぼんやりしてますが、問題ないです。意識とか記憶とか存在とか」
「まったく大丈夫じゃない!」
そう言いつつも、ヒイラギはアキヅキが戻ってきたことに安堵のため息をついた。
なぜなら、もうアキヅキが戻ってくることはないと思っていたから。
アキヅキが洞窟との一体化を始めた直後に、これが危険であると理解したヒイラギはすぐに手を握りしめながら彼女の名前を呼んだ。連れ戻そうとした。
しかし何度呼びかけてもアキヅキが帰ってくることはなく、ヒイラギには『アキヅキ』という存在がどんどん抜け落ちてゆく姿を視ていることしかできなかった。
アキヅキと洞窟を離すことも考えたが、それをしてしまえばアキヅキが戻ってくる可能性を0にしてしまう。何も出来ないまま時間は流れ、あっという間に『アキヅキ』はいなくなった。
そう、いなくなったのだ。
完全に存在は飲み込まれ、残ったのはヒイラギが手を握っている泥人形だけだったはずなのだ。
それなのに、ヒイラギが悲しみと無力さに嘆く暇もなく、アキヅキは戻ってきていた。
気が付けば、といったようにそこにいた。
それをアキヅキに話すと、彼女は心当たりがあったのか「ああ」と頷いた。
「【自動化】ってスキルがあるんですよ。名前の通り、私の意思に関わらず、勝手に私の体が動くスキルです」
「そのスキルを発動したってことか」
「スキル『を』というより、スキル『が』って言った方が正しいんですけどね。発動条件不明の気まぐれスキルなので」
「何その地雷スキぐぁ!」
突然アキヅキがクリスタルの拳でヒイラギの顔面を殴った。
「す、すみません! 言い訳ですけど今発動しました!」
「そのスキル自我持ってないかな!?」
「あ。そう言えば、あのおじさんたちのことなんですけど」
「話題の転換が強引だけど、うん、どうしたの」
元々は道に迷ったため、洞窟の構造や盗賊たちの居場所を知るためにアキヅキは危険を犯したのだ。
その情報を共有するのは当然であるため、ヒイラギはアキヅキに言葉の続きを促した。
「今、あなたの後ろにいるのです」
「そんなメリーさんみたいに!」
ヒイラギがあわてて振り返ると、確かに盗賊がいた。
一人ではない。何人も。十数人の盗賊たちがそこにいた。おそらく、ほとんどすべての盗賊たちがいると言って間違いなかった。
一本道の洞窟に密集しているため、この光景は道を塞がれ、大勢に囲まれているようにも見える。
少し不自然に思いながらも、ヒイラギは一番近くにいた盗賊に話しかけようとした。
「えっ……?」
だがその声は間の抜けた呟きとなり、誰の耳にも届かない。
ヒイラギの腕は獣の身体を持った盗賊の一人に切り裂かれ、勢いよく血を吹き出していた。
その血を間近で浴びたアキヅキの叫び声と、子供たちの泣き声が、シセルによって仕組まれた無益な争いの始まりを告げていた。
自分でもほとんど話を覚えてなかったんですけどネ!
変なところや無理矢理なところもありますが目を瞑って読んでください(変な日本語




