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眼帯の男が奥へと消えた後しばらくして、ヒイラギが口を開いた。
ちなみに眼帯の男は、というより盗賊たちは夜番を除いて眠りについたらしい。
「これからどうするの?」
「あぁ、しばらくここにいる。足を貰う代わりにちょっと頼みを聞くことになってるからな」
「頼みって?」
「まだ聞いてない」
「……」
ヒイラギは計画性のないシンリを非難するような目で見た。
盗賊たちを襲う時もそうだった。後先を考えず、とりあえず風魔法で突っ込んでいったせいでヒイラギたちは心の準備も出来ていないまま戦闘を始めることになったのだから。
何か文句の一つでも言ってやろうと思ったが、やめた。
いくら初っ端から殴り飛ばされて戦闘に参加していなかったと言っても、結局あの戦いを終わらせたのはシンリだったから。何もできなかったヒイラギが何かを言える立場ではないと思ったのだ。
「そういえば、アキヅキは何かやりたいこととかあるのか?」
「はい?」
そんなヒイラギの気も知らず、シンリはアキヅキに話しかけた。
「いやこの世界でさ、誰かに会いたいとか、そんなの」
「うーん。友達とはちゃんと会って無事を確かめたいなぁとは思いますけど」
「アキヅキの友達……え、いたっけ? じゃなくてごめん何でもない」
「謝らないでください! それにいますよ! ギンちゃんとか!」
「ギンちゃん……?」
ヒイラギに、誰? という意図を込めて視線を向ける。
「黒鉄さんでしょ。たまに話してたの見たことあるし」
「ああ、あの変な名前の。白銀だっけ? で、ギンちゃんか。改めて思えば変な名前多いなうちのクラス」
「ギンちゃんの名前は変じゃないですよ! ちょ、ちょっと個性的なだけです!」
アキヅキは友人を変と言われたことで少し怒った。
フカザトくんなんて友達いないじゃないですか! などと言うくらいには怒っていた。
「いやいるから。ほら、ヒイラギとか。なあマイフレンド」
「イエスいえーいマイフレンド」
「え、なんでそんなテンション高いの」
「うわー腹立つなー」
ふざけて、それがおかしくて、笑ってしまう。
他愛ない会話をすることで、少しだけ現実を忘れて日常に戻ったような感じがした。
向こうにいた頃はほとんど話すことはなかったけれど、案外気が合うのかもしれないと誰もが思った。
「というか、ヒイラギくんとフカザトくんが一緒にいるだなんて、高校じゃ考えられませんでしたよね」
「まあな。けど俺たちは別に仲が悪いとかじゃないし」
「香取さんと終夜が壊滅的なまでに険悪だったからね。近づくだけで終夜の機嫌が悪くなる香取さんといつも一緒にいたシンリに話しかけようとは思えなかったよ」
「看取は嫌われることすら面白がってた節があったけどな」
「そういえば、どうして二人は仲が悪いのか知ってる? 聞いても教えてくれたことないんだよね」
ヒイラギがその質問を口にしたことで、シンリとアキヅキの空気が変わったがヒイラギはそれに気が付かなかった。
「さぁ〜女子って訳分からんとこで怖いからな」
「フカザトくんそれセクハラですよ。というか、こんな修学旅行みたいな状況なんですかは恋バナしましょう。恋バナ!」
「修学旅行っぽくはないんじゃないかな? そしてそれって同性同士がするものなんじゃ……?」
質問をはぐらかされたが、ヒイラギはそれに気が付かなかった。
それからすぐにアキヅキが寝落ちして、シンリとヒイラギで「無防備すぎる」という会話があった後、起きている盗賊に布団の代わりになるようなものを借りてアキヅキに掛ける。
その後ヒイラギも寝た。
聖霊であるシンリは寝る必要もなければ眠たくもならないのだが、なんとなく何もする気が起きなかったので意図的に意識を沈めて擬似的睡眠状態となった。
彼らは盗賊のアジトで夜を明かした。
〇
6時間後。
まるでタイマーをセットしていたかのように、ぴったり意識が浮上したシンリは目の前の状況が理解できなかった。
正確には寝ていた訳では無いので『寝起きで頭が回らない』というわけではなく、普通にこれどういう状況? という感じだった。
「起きた」「起きたね」「やっと起きたー」「ねぼすけ」「全然起きなかったね」「寝坊したから罰ゲーム!」「何にする?」「まだするの?」「お腹空いたね」「りーだー!」「お兄ちゃん!」「お姉ちやん!」「わー!」「きゃー!」
「いやマジこれなに」
シンリの目の前にいたのは数十人の子供。
そのうち数人が横になっているシンリの上に乗っかっているため、起き上がって状況を確認することもできない。
いや力を入れれば無理やり起きることもできるのだが、相手は子供のため怪我などを配慮してしなかった。
「ちょっとそこ退け。起きれないだろ」
「やー」
「やー、じゃなくて……」
子供の扱い方など知らないシンリは珍しくうろたえていた。
見たところ、下は3歳くらいから、上は10歳いってない程度の年齢だろう。
もしかして、盗賊たちが攫ってきた子供かという思考に至ったが、乗っかられている子供の1人に魔力を吸われていることに気が付いて、ようやく子供たちの正体がわかった。
「リバ……魔物スキル持ちか」
この子供たちも、被害者なのだろう。
この世界の理不尽な制度の被害者なのだ。
この世界は『古き血』にとって、盗賊たちにとって、この子供たちにとって、そしてシンリやそのクラスメイトにとって、とても生きにくい過酷な世界だ。
いつ死んでもおかしくなくて、いつ殺されてもおかしくない、そんな世界なのだから。
きっと、目の前の子供たちが無邪気に笑っていられるのは、盗賊たちがこの世界の怖くて恐ろしい部分を教えずに隠して、見せないようにしているからなのだろう。
そんな盗賊たちは、生きるために、子供たちを生かすために、罪のない人を襲って殺して奪っているのかもしれない。
多分それは悪いことだ。
けれど、そんな彼らを悪人にしたのはこの世界のはずだ。
そんな世界で生きなければならないことを考えると気が滅入る。
退屈で、何の変哲もない日常を送っていた向こうでの生活がとても懐かしく思えてきた。
「……取り返しがつかなくなる前に、看取を探さないとな」
「神妙な顔しちゃってどうしたの?」
と、ヒイラギが子供と子供の間からひょっこり顔をのぞかせた。
シンリはへらへら笑って言う。
「ほら、俺っていつでもシリアスモードだからさ」
「そーですかー」
ヒイラギは軽く流すと、子供たちに言った。
「ご飯できたから、みんな行くよ。そっちのお兄ちゃんは後で遊んでくれるからね」
「「「わー!」」」
子供たちは奥へと駆けていく。
意識すると、なにやらおいしそうな匂いが漂ってきていた。
こんな洞窟を掘っただけの場所で、おそらく火をおこして料理を作っているのだろうが、換気できないところでそれはどうなのだろうかと思わないでもないが、それよりも。
「いやいや何言ってんだ」
身体を起こしながらヒイラギに言うと、彼は無言で後ろを指さした。
そこにはぐったりとしたアキヅキが地面に直接へたり込んでいた。
聞いてみると、どうやらシンリの方へ来ていたのはアキヅキが遊び疲れてダウンしたかららしい。
「飯食ったらアキヅキも回復するだろ」
「いや、本当、勘弁してください」
アキヅキは軽く半泣きでそう言った。
子供たちの相手をするのはよほどハードだったらしい。
まあ、昨日聞いた話によると『古き血』は人間よりも身体的に優れているらしいので、子供だと甘く見ているとこうなるのかもしれない。
「てか、あいつらも魔物スキル持ちってことであってる?」
聞かなくてもだいたい予想はついていたが、一応聞くと予想通りの答えが返ってきた。
「らしいよ。そういった子供を探して、殺される前に保護してるんだって」
「はっ。もう何が良くて何が悪いのかわからないなこの世界」
少しだけ特殊な力を持って産まれてきてしまった子供を問答無用で殺す世界と、その子供を保護する盗賊。
これではどちらが悪人かわかったもんじゃない。
「あ、俺たちのご飯も用意してくれてるからそろそろ行こうか」
「つくづく善人だよな。盗賊なんて、自分たちの食事だって安定して食える訳じゃないだろうに」
けどまあ、向こうから言ってきたのなら断る理由もないだろう。
お返しにりんごの木でも生やしてやろっかな、なんて考えながら、洞窟の中を歩いていった。
おやすみなさい。




