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お読みいただきありがとうございます。

ちょくちょくとはなんだったのか……。

「先手必勝」


 シンリは盗賊たちとの距離を風魔法を使うことで一瞬で詰め、木刀を取り出して切りかかる。

 残念ながら躱される結果となってしまったが。


「……?」


 久しぶりに手にした木刀になんとなく違和感があった気がしたが、今は気にしている場合ではないのでとりあえずステフォに収納した。

 未だ、シンリたちの突然の登場に驚いている盗賊たちに、シンリは芝居がかった大仰な態度で言った。


「やあやあ。俺の名前はシンリ・フカザト。ちょっとお願いがあって来たんだけど、聞いてくれないか?」


 警戒心を隠さず、それを緩めようともしない眼帯の男は、しかし「なんだ」と返した。

 シンリはちょっと役に入っているのか、格好をつけて「ふっ」と笑ってみせる。


「馬と馬車を俺たちに寄越せ」

「ふざけろ……殺れ」


 眼帯の男がそう呟くと、盗賊の部下の1人がシンリの頭上から飛びかかり、見るからに重そうな鉄のメイスを叩きつける。

 その一撃は地面を抉り、大地を震わせた。


「ふんっ口ほどにもねェ」


 メイスを肩に担ぎながら、盗賊は鼻を鳴らす。


「え。あいつどこに攻撃してんの?」

「幻覚だよ。シンリがあそこに立ってるように見せてたんだから、感謝してもいいよ」

「ま、必要なかったけど……なっと」


 メイスを持った盗賊が驚きの声を上げる間もなく、シンリは彼に風を凝縮した一撃を叩き込んだ。

 それだけで、盗賊の一人は地面に沈む。

 シンリは盗賊たちを見渡して言った。


「あと6人、これを繰り返すか?」

「……。お前たちは何者だ?」


 眼帯の男の当然の疑問。


「いや何者だ、とか言われてもな……」

「そうか、ならいい。そして死ね」

「へ?」


 シンリが間の抜けた声を出したと同時に、シンリの身体は殴り飛ばされた。

 確かに気を失っていたはずの盗賊が起き上がり、シンリをメイスで殴ったのだ。


「シンリ!?」「フカザトくん!?」


 ヒイラギたちは悲鳴にも似たような声を上げた。

 シンリの身体は地面で数回跳ね、転がった後うつ伏したままぴくりとも動かなかった。


「たかが人間が、俺たちを倒した気になってんじゃねェぞ! カスがっ!」


 メイスを持った盗賊は、その姿が変わっていた。

 巨体であった身体はさらに巨大化しており、獣のような体毛に覆われている。

 手に持つメイスはヒイラギの体長と同じぐらいなのにも関わらず、大男と比べるとずいぶん小さく見えた。


 大男は次にヒイラギとアキヅキに狙いを定め、メイスを振るう。


「やるしかない!」


 ヒイラギは【蛇眼】を使おうとするが、他の盗賊たちの出方を気にしてしまったため、少し初動が遅れてしまった。


 ーーあ、まず……。


 ヒイラギがそう思った時にはメイスは目と鼻の先にあり、大男にどんな状態異常を掛けようが攻撃を無効化することはできないだろう。

 正確な強さは知らないが、自分よりも強いはずのシンリが一撃でやられてしまった攻撃に耐えられるとは思えない。

 半ば諦めながら、【思考加速】の効果でゆっくりと迫ってくるメイスを見つめる。


 ガキンッと、金属同士がぶつかり合う音が響いた。


「うくぅ……」

「何っ!?」


 大男が驚きの声を発する。

 それもそうだろう。

 見るからに非力そうな少女が、自分の攻撃を受け止めていたのだから。


「アキヅキさん!」

「ふふっ……私だって、檻の中でずっと寝てたわけじゃないんです……よっ!!」


 掛け声と共にアキヅキは受け止めているメイスに拳を叩き込む。

 もう一度ガキンという音が響き、メイスは先から砕けた。


「ヒイラギくん! この人は私がなんとかします! すみませんが、残りの人たちをお願いします!」

「まさかの配分!」


 と言いつつも、ヒイラギはアキヅキから離れながら彼女の戦いの邪魔にならない場所に移動する。邪魔にならないというか、巻き込まれない場所という方が正しいが。

 だが、ヒイラギたちの思惑通りに盗賊が従う義理はない。

 大男に加勢しようとする盗賊ももちろんいた。

 ヒイラギはそれを【蛇眼】や【光魔法】で牽制することで自分に引き付けていたが。


「ひひっ6対1、テメェらが望んだんだ。卑怯とは言うなよ?」

「いやー、それはちょっと無理があるかなぁなんて」


 ヒイラギは強がってへらへら笑ってみせたが、内心は、これ無理じゃね? という感じだった。

 少し離れた後方ではアキヅキと大男の殴り合いの音が聞こえてきたので、引くに引けないなぁとステフォから武器を取り出す。何の効果も持たない、武器ガチャで出たハズレの槍だ。

 もちろん槍なんて使ったことないし、扱えるスキルもない。

 ただリーチが長いからという理由で選んだだけだった。


「まあ、あの化物よりヤバイってことはないだろうし」


 ヒイラギは深呼吸して逸る鼓動を鎮めようとする。


 魔物と戦ったことはある。化物と戦ったこともある。どちらも命懸けだったし、後者に至っては死んでもおかしくなかった。

 それでも生身の人間と命のやり取りをしたことは無い。

 奴隷商人との一件は近いかもしれないが、あの時は感情が昂っていたため、明確に『人と戦う』ということを意識していなかった。

 だが今回は違う。

 目の前にいるのは、自分となんら変わりのない人間だ。奴隷商人に言わせてみればヒイラギたちは『人間』ではないらしいが、ヒイラギ自身は人間だと思っている。


 そんな人間と、人を殺せる武器を持ちながら相対している。


 怖くないはずがない。

 ネイロ村にいた時、村の男の人たちに着いていき、森で狩りを行うのを手伝ったことがある。

 あの時初めて感じた、『殺す』という感覚を思い出す。

 簡単には死ななかった。ヒイラギの慣れていない刃捌きはいたずらに獲物を苦しめていた。

 手のひらから失われる生命の感触が伝わってきた。

 死にたくないと訴えかけるような、悲痛な鳴き声が耳にこびりついた。

 あれを、ヒイラギは一生忘れることはないだろう。


 生きるために殺す。

 殺すのは、生きるため。


 気が付けば、覚悟は出来ていた。

 鼓動は治まり、気持ちもずいぶん楽になっていた。


「いや、殺さないけどさ」


 今から戦いだというのに、ヒイラギは小さく笑った。


 どうしてだろうか、負ける気がしない。


「さあ来い! アキヅキさんだけに戦わせるわけにはいかないんだ!」



「いや、ちょ、わっと!」


 威勢よく言ったはいいものの、流石に6対1は無理があった。

 四方八方から降り注ぐ攻撃をヒイラギは防ぐことが精一杯だった。

 防戦一方と言っても語弊があるだろう。

 防『戦』。戦いというよりは、一方的に攻められ、追い回され、逃げているだけだった。


「おら! 逃げんじゃねェ!」「死にさらせ!」「びびってんのかアァ!?」「ヒャッハァ!」

「なんだよこいつら世紀末かよ!」


 ヒイラギはこの戦いが始まってからずっと、目を閉じていた。

 それは【蛇眼】による状態異常攻撃を行っていないということを意味するが、目を瞑ることで【蛇眼】はもう一つの力を発動させることができる。

 それは360°の視界展開。

 【蛇眼】による攻撃が出来ないというデメリットはあるものの、死角をなくすという多対一では致命的にもなりうる弱みを補っている。

 ヒイラギの持つ【思考加速】と組み合わせれば、攻撃を躱すことはなんら問題はなく、躱しきれない攻撃はシンリからコピーした【結界術】の結界を複数張ることで防いでいた。

 もちろん無傷ではなく、ところどころ浅い傷はあるが、致命傷はない。


 所詮ひとりだと甘く見ていた盗賊たちも、こうも攻撃を防がれると流石におかしいと思い始める。

 盗賊たちは眼帯の男の指示によりいったん攻撃を止めた。


「このままじゃ埒が明かない。使う。これ以上、時間をかけるわけにもいかないからな」

「っ。わかりました」


 盗賊たちの雰囲気が変わったのを察し、ヒイラギはさせるものかと攻撃に転じる。

 まず初めに狙ったのは眼帯の男だ。

 リーダーを先に戦闘不能に陥らせることで、戦局の有利化を図ろうとしたのだ。


「少しの間、眠ってろ!」


 【蛇眼】をフルで使い、麻痺を始めとした様々な状態異常を視線に乗せ眼帯の男と目を合わせた。

 視界に入れるだけでも効果はあるが、目を合わせることが一番効果が強いからだ。そして、見ている間はずっと状態異常をかけ続けているため、見続ければ見続けるほど効果は上乗せされる。


 だが。


「なん、だ?」


 ヒイラギの視線は外された。いや、ヒイラギ自身が目をそむけたのだ。

 眼帯の男の、紅く変色した死を連想させられるような瞳に本能的な恐怖を感じて視線をそらしてしまったのだ。

 もう一度、あの眼を見ようなどとは思えない。

 視線を地面から動かせない。

 怖い怖い怖い怖い怖い。

 あの男が、あの眼であの瞳で自分を見ている。その事実だけで……いやたとえ見ていなくとも、そう思ってしまうだけで、その可能性を連想してしまうだけで、体は動かなくなった。


 足音が近づいてくる。

 心臓を掴まれて、ゆっくりと握り潰されているように感じた。


 足音がヒイラギの前で止まるのが分かったが、それでも顔を上げることはできなかった。


「……怖いか、人間」


 呟かれる言葉。

 ヒイラギは恐怖で身体が動かず、返答はできなかった。

 眼帯の男はそれが分かっていたのか、それとも元から返事を期待していなかったのか、すぐにこう続けた。


「俺たちはもっと怖い」

「なに……を」

「ほう、喋るだけの気力があるか。危険だな。今の内にお前のような人間を殺せるのは、俺たちにとって実に喜ばしい」


 男は淡々とそう言い、ヒイラギの持つ槍を奪い取る。

 そして何のためらいもなくヒイラギの胸に突き立てた。


「……何だ?」


 だが、それは半透明の物体に阻まれていた。


「【結界術】! てか、6対1なんていじめだろ。いじめとか、俺超嫌いなんだけど」


 眼帯の男の背後から木刀を突き立てて、少し苛立たしそうに言うシンリの姿がそこにはあった。

変なところや、伝わらないところがあったら教えてもらえると助かります。

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