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お読みいただきありがとうございます。

ちょくちょく(9日)……。

「シンリ、あれ多分盗賊だよ」


 視線を前に向けたままヒイラギは言った。


「ほぅ盗賊。絶対? 命賭ける?」

「いや賭けないけど。少なくとも、俺たちを追って来た人ではないと思う。なんかあまり近づきたくないタイプの人たち」


 彼らの外見やら装備やらを伝える。

 7人いるとか、馬じゃない生物に乗っている人もいるとか、見てわかることは大体伝えた。


 それを聞いてシンリは少し考えるような素振りを見せてから言った。


「よし。襲おう」

「盗賊を!?」

「まあ聞け。盗賊ってことは悪人だ。そして悪人をやっつけるやつは善人だ。つまり俺たち善人。やろうとしていることは正しい」

「横暴すぎる理論!」

「そして俺は【善人】の称号を持っている」

「【悪人】って称号も持ってそうだよね」

「え、お前俺のステータス見れないんじゃないの? 怖いわ」

「あるのかよ!」


 シンリはヒイラギを無視して「まあ正直」と続ける。


「これからのことを考えると、馬とか馬車とか持ってた方がいいだろ。ずっと徒歩ってわけにもいかないだろうしな。風で飛ぶのは嫌なんだろお前ら」


 ヒイラギとアキヅキは揃って何度も頷いた。


「で、街にも入れない金もない。それ以前に追われてる立場の俺たちが真っ当な手段で何かを手に入れることはできないんだ。それこそもう奪うって選択肢しかないくらいに。わかるだろ?」

「言ってることはわかるけど……わかるけどさ。いくら盗賊からでも、襲って奪うなんて、盗賊とやってることが同じ……」

「今更だろ」


 シンリはヒイラギの言葉を遮って言った。


「俺たちはもう犯罪者なんだ。アキヅキを……奴隷をあの奴隷商人から奪ってる時点で盗賊と同じだよ。それともなにか? あれは理由があったから、なんて言うつもりか?」

「うぐ……」


 ヒイラギは言葉に詰まった。なにも言うことができなかった。

 何かを言おうと口を開いても言葉が思いつかず、大きく息を吐く。


「はぁ……なんか、言い方が厳しくない?」

「敵はすぐそこで時間が無い。なのにお前がうだうだ言うからだろ。アキヅキを見てみろ。盗賊と聞いてさらにやる気がアップしてるぞ」

「奴隷として囚われてる間、盗賊に攫われてきたという人たちの話をいくつも聞きましたからね。盗賊死すべし」

「いや殺しはしねえよ」


 やる気がありすぎるアキヅキにシンリが「殺すなよ?」とか言っているのを見て、ヒイラギはもう1度大きく息を吐いた。なんだよこいつら。


 気は進まないが、生きるために仕方の無いことだと、無理やり自分を納得させる。


「ヒイラギ、今からお前がやる気を出す言葉を掛けてやる」

「何を言われてもやる気にはならないと思うけど」

「善良な行商人から奪うのと、汚い盗賊から奪うの、どっちがいい?」


 どうせ誰かからは奪わなければならないということを前提としたシンリの言葉。

 ヒイラギは苦笑しながら言った。


「やっぱりやる気にはならないけど、それはずるいなぁ」



 先に言おう。彼らは盗賊だ。

 行商人の積荷を狙ったり、村から人を攫ったりして、それらを街で違法に売りさばいたり、自分たちの物にして生計を立てている者たちだ。


 月があるといっても暗いこんな時間に馬を走らせているのは、人目につかないうちに拠点としている場所に帰るためである。


 この世界で夜中に明かりを灯らせて動く者などほとんどいない。

 なぜなら魔物が闇に紛れて襲ってくるからだ。

 地球のようにライトを点けながら速度の出る車などは存在しないため、馬などに騎乗しながら魔法か、あるいはランプを手で持つ必要がある。

 ただ走るだけでも難しいのに、さらに並行して何かをしなければならない状況で、そのうえ魔物の対処も必要というのはいささか難易度の高いものだというのは言わなくてもわかることだろう。


 しかし彼らのような脛に傷がある者は必然的にそういう状況を強いられる時もある。

 盗品を白昼堂々と移動させるわけにもいかないし、攫った人間が騒いで騎士に目をつけられても厄介だからだ。


 だが、そんな状況を体験するからこそ、この世界の盗賊は力がある。それが数なのか、それとも個々の実力が高いのかは盗賊によって変わるが、シンリたちが目の前にしている彼らは後者だった。


 魔物などものともしない、少数精鋭の強者たちだった。


「止まれ」


 眼帯の下に傷が見える体格の良い男が静かに言った。

 馬の足音でかき消されてもおかしくないその声は、不思議と盗賊の仲間に伝わっており、次々に足を止める。


「どうかしやしたか?」


 シンリたちが見れば『マンガかよ』とか言いそうな、いかにも三下キャラといった坊主頭が眼帯の男に聞いた。

 坊主頭以外の5人も眼帯男の指示を待っているところを見ると、どうやら眼帯の男がこの中で一番偉いらしい。


「あそこに、誰かが立っているだろう」


 距離が離れているため顔も性別もわからないが、そこに何かがいるのがわかる。


 坊主頭を含める子分たちは目を細めて向けられた方向を見る。

 よくよく注視すれば、確かに人らしきモノが見えた。


「ガキが2人……か? よく気が付きやしたね」

「あんなところに木が生えていたかと疑問に思ってな」


 ぽつんと一本だけ生えているそこそこ大きな木は、真夜中の草原で目を引くものだった。

 もちろん、眼帯の男がここら辺の道に詳しく、見覚えのないものを疑わしく感じたのもある。


「大したものは持っていなさそうですが、ガキはそれだけで金になる。願わくば良い顔良い身体をしてりゃもっといい」


 坊主頭はげへへと皮算用しながらいやらしい笑みを浮かべながら言った。

 盗賊たちに襲わないという選択肢はないのか、各々武器を取り出したりしていつでも突撃できるように準備をしていた。


 ただ一人、リーダーである眼帯の男だけは浮かない顔をして、自分が乗っている馬を撫でながら言う。


「デイの様子がおかしい。怯えて……いや、怒っているのか?」


 デイと呼ばれた黒馬は、震えながら何かを抑えるように鼻息を荒くしていた。

 他の盗賊が乗っている馬の様子に変化はない。


 というか、正確には『馬』に乗っているのは眼帯の男だけだった。

 他の盗賊たちが乗っているのは馬ととある魔物を配合して生まれた『アバ』と呼ばれる生物だった。


 アバは馬よりも体力があり、強靭な身体を持っているが、馬に比べると速度は遅く頭もあまり良くない。

 一長一短があり、用途や好みによってどちらもこの世界で多く使われている。


 そんなアバよりも賢い馬が何かを感じ取ったのだと、眼帯の男は思った。

 魔物が近くにいるのか?

 肉食獣の気配を察したのか?


「違う……」


 眼帯の男とデイはそれなりに長い付き合いだ。

 魔物などを恐れている反応ならばいつもの癖でわかる。

 だがこれは違う。

 なら。

 デイが恐れているものは。


 ――あの子供か?

 そんな思考に至った瞬間。

 視界に入れていたはずの子供の姿が消えていた。


「先手必勝」


 その声は眼帯の男の後ろから聞こえた。

 少し遅れて、何かが風を切る音。


 おそらく、デイが偶然前に動いていなければ今のでやられていた。

 いや偶然ではないのだろう。デイは奴を恐れていたのだ。


 眼帯の男はデイを操作して、突然現れたナニカの方を向いた。

 ナニカは子供だった。人間の子供だ。

 側には、先程見ていた二人の子供がどういうわけかへたり込んでいた。


 盗賊たちには何がなんだか分からない。

 ようやく追いついた思考でも、やっとリーダーが襲われたのだと理解したくらいだ。


 眼帯の男の思考は彼らよりもほんの少しだけ進んでいた。


 こいつは……こいつらは敵だ、と。

シンリ「トリックオアトリート(積荷をくれなきゃ強奪イタズラするぞ)」


ヒイラギ&アキヅキ「……(ぐったり」

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