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お読みいただきありがとうございます。

「さて、飛んだはいいが……」


 シンリは空高く舞い上がり、街を囲む壁よりも高い位置で街を見下ろしながら言った。


「どこに降りるべきだと思う?」

「なんでそんなに冷静なんだよ(です)っ!?」


 ヒイラギとアキヅキの悲鳴のようなツッコミ。

 ヒイラギはシンリの足を片手で掴んでいる状態。アキヅキはそのヒイラギの背中に抱きついている状態だ。

 今はまだ風魔法の勢いが残っていてゆっくりではあるが上昇しているが、もうじき重力に従って落下することだろう。


 手を離せば即落下という余裕のないヒイラギとアキヅキはこう考える。

 おそらくシンリは落ちそうになればもう一度風魔法を使えばいいとか思っているのだろうと。


 だが、もう一度風魔法を使われればヒイラギもアキヅキも今掴んでいる手を離してしまうだろう。

 正直、一度目の風魔法で手を離さなかったことは奇跡に近い。それくらいの勢いでシンリたちは上空に飛んだのだ。


 ついでに言えばヒイラギはアキヅキに首を絞められる形になっているので、そろそろやばい。


「冷静っていうか……そもそもなんでお前らそんなに必死なの?」


 シンリは無意識に自分を中心に考えて風魔法を使っていたため、シンリ自身には風の圧力などがほとんどなかった。

 そのため、ヒイラギたちが何にそんなに必死なのかがわからなかったのだ。


「必死にもなるわ!い、いや、とにかくどこかに降りよう!多分もう追われる立場だから壁の外で!」

「了解っと」


 結局、方向転換には風魔法が必要であり、真夜中に二人の悲鳴が響いた。


「あっ……」

「っ!」

「何やってんだよ」


 ヒイラギが耐えきれずに手を離してしまい、普通に死を覚悟した二人は二度とこのようなことがないように祈ったという。



「あー……」

「うぅ……」


 ぐったりとしている二人を見て、それから後ろを向いて、シンリは言った。


「アキヅキ全裸だけど、それはいいのか?」


 アキヅキはひょろながの男に服を剥かれ、あの時は宝石のような身体に変化していたが、今は普通の女の子の身体だった。


「っ、!。?、。!!?」


 声にならない悲鳴を上げて、アキヅキは身体をクリスタルに変質させた。

 そして近くにいたヒイラギの顔を隠すようにその手で覆った。


「っつぁ!」


 硬く、ところどころ尖っているクリスタルの手で、叩くように顔を触られたヒイラギはあまりの痛さに悶絶し地面を転がった。

 その音でなんとなく理解したシンリは二人に向き直る。


「あっはっは。そう言えばヒイラギ、空中でも背中で胸のやわらかさを感じてましたねぇ」

「そんな余裕はなかった!そもそも感じるほどの……痛い!ごめんなさい!いやマジで痛い!」


 涙目でヒイラギを叩くアキヅキ。

 怒っているように見えて、しかしどこか安心しているようにも見えた。


 知らない者に買われて、何をされるかわからない。

 そんな状況から、親しいわけでもない異性といえど知り合いに出会えたことは彼女にとって、きっと安心できたのだろう。


「さて」


 ひとしきりヒイラギとアキヅキを見ていたシンリは、二人に声をかけた。


「これからのことを……いや、まずはこれまでのことを整理しようか。アキヅキ、お前はどのくらい前にここに来た?」

「えっと、私が来たのは……ごめんなさい。あまり覚えてないです。来て一週間くらいで捕まったから……」


 当たり前だが奴隷として捕まったことはいい思い出ではないのだろう。表情に翳りが見えたため、シンリは話題を変えた。


「ステフォのチャットに俺とヒイラギの名前がないか?」

「ステフォ……あ、落ちてる」


 自分の足元に落ちていたステフォを拾ってアキヅキは言った。


「これ、あの男の人に取られていたんです。離れすぎたら手元に戻ってくるっていうのも知られて、近くにいるか、どうしても離れる時は手の届かない場所に置かれるかで」

「なるほど。なら条件はステフォを持ってる奴同士の会話ってところか」


 次に、どういった経緯で奴隷として捕まったのかを、聞くべきか、時間を置いて聞くべきか迷っていると、ヒイラギが言った。


「……シンリ、やばい」

「なにかだよ。いや、グループチャットか?」

「うん」


 ヒイラギの『やばい』だけの言葉に茶化して返そうとしたシンリだったが、ヒイラギがあまりに真剣な顔でステフォを見ていたのですぐにステフォを開いた。

 アキヅキも自分のステフォを見る。


「これって……」


 アキヅキが顔を上げて二人を見た。


「バジリスクの毒、蛇の眼、クリスタルゴーレム。そりゃあ、ここにいる3人だけが魔物スキル持ちって考えるのは出来すぎだよな」

「全員、だったのかよ」


 グループチャットに書かれていたのは、人前でスキルを使った1人が人化した魔物だと疑われて追われているということ。

 そこから【鑑定】などで自分が魔物スキルを持っていると知っているクラスメイトたちが会話してほとんどの者が魔物スキル持ちだと分かった。

 ほとんど、というのは自分のスキルが魔物スキルかわからない者がいるだけで、おそらくは全員が魔物スキル持ちで間違いないだろう。

 そしてその魔物スキルは、初期に与えられていたスキルばかりだということ。


「仕組まれていた?誰が、何のために……」


 シンリはこの状況は誰かが作為的に仕組んだことだと考えた。


「スキルを弄れるのはあのエセガワの言っていた主か、もしくはエセガワ自身。なら、こうなることはあらかじめ決められて……いや、……ああ」


 そして一つの結論に思い至った。


「ヒイラギ、これは神が俺たちに与えた試練なんだって言ったら、笑うか?」

「別に、笑わないよ。そもそも強力な力を無償でくれるはずがないって、逆に納得できる」

「そうか」


 ヒイラギの意見を聞いて、シンリはチャットに文字を打ち込んだ。


『この状況は元々決まってたんだと思う。スキルを与えたのも、そのスキルを決めたのもあの瀬川が言っていた『神』なんだから。神様も無償で能力をくれるほどお人好しじゃないんだろうな』


 そう発言したことで、チャットに瀬川や『神』への不満が書き込まれるようになった。

 それを見てからシンリはステフォから顔を上げた。


「後は、街に入る審査でも引っかかることとか、単独行動はできるだけ避けようとか書いた方がいいな。どんな力を持っていたとしても、1人だとどうにもならないこともある。ヒイラギ、書いといて」

「それはいいけど……。わざわざ瀬川とか神様に原因があるみたいな、根拠のないことを書いたのはなんでだ?」

「ああ。それは……不満の捌け口っていうかさ。嘘だとしても、何が原因か分からないままもやもやしているよりはいいかなって。街に召喚された奴はともかく、街に入れないってそうとう不便だろ。いや、街から出れないっていうのもか。とにかく、そんな生活を続けていたら不満は溜まる一方だ。なら不満を向ける矛先が必要だろ」

「そう……か?」


 ヒイラギは内心首をかしげたが、シンリが嘘をつく理由がないと判断し、シンリの言葉を受け入れた。

 それから、シンリに頼まれた文章をチャットに書き込む。


「書いたよ」

「見てるから知ってる」


 そんな二人のやり取りを見ていたアキヅキは、頭を深く下げながら言った。


「あ、と。えっと、ヒイラギくん、フカザトくん。遅くなっちゃいましたけど、助けてくれてありがとうございます。それと、ごめんなさい。私のせいで犯罪者に……」


 申し訳なさそうに言うアキヅキに、二人は顔を見合わせた。


(ま、俺はお前がやろうとしていたことを手伝っただけだしな。アキヅキの相手は任せた)

(いやいや待とうシリウス様。俺なんて貴方様がいなければ何も出来なかったですよ。何も出来ない俺は女の子にかける言葉なんてわからないですよ!)

(俺だってわかるか!人気者のヒネモスさんならきっと出来る!がんばれ)

(うわっ、ずる!)


 シンリは姿を消して、アキヅキから見えなくなった。

 強制的にヒイラギが言葉をかけることになり、未だに頭を下げたままのアキヅキの肩に手を置いた。


「あ、アキヅキさん、気にしなくてもいいよ。魔物スキルのせいで、どっちにしろ追われるのは決まってたっぽいし。そもそも、クラスメイトが奴隷になるかもしれないのに見て見ぬ振りなんて出来るわけないだろ」

「ひ、ヒイラギくん……」


 申し訳なさにか、それともヒイラギの言葉にか、涙を目尻に溜めて潤んでいる瞳に見つめられて、ヒイラギは言葉に詰まった。


 助けを求めてシンリのいる方向に目を向けると、片手片手に犬をつくって、突き合わせていた。

 言葉がなくとも『キスしろキス!』と言っているのがわかる。

 とりあえず後で殴ろうと心に決めて、アキヅキに向き直る。


 すると、アキヅキの首に何かがつけられているのに気が付いた。


「これは……?」

「あ、それは奴隷につける首輪で、主となるものの血を吸い込ませると……」


 アキヅキの説明を聞きながら、とりあえずこれは外していいなーなんて軽い気持ちでヒイラギは首輪に触れた。


 だが、彼は知らなかった。

 アキヅキのクリスタルの手で叩かれた時に、頬のあたりが少し切れていたことを。

 痛むところに手を当てた際、少し血が付着していたことを。

 そして、奴隷の首輪は例え少量であったとしても、血が触れればその者を主と認めてしまうのだということを。

 彼は知らなかったのだ。


 だからこれは、誰が悪いでもなく、誰の責任でもないただの不幸な出来事。強いて言うのであれば、運が悪かった。


「あ?」

「え?」


 ヒイラギが首輪に触れた瞬間、傍から見ていたシンリにはわからない何かが起きた。

 当事者二人は今起きたことを完全に理解していた。


 アキヅキはぽかんとした顔で、ヒイラギは冷汗を流しながら、見つめ合った。


 ふと。


「さ、3回回ってワンって言って」

「えっ、あっ、ワン!」


 それを見て、シンリも状況を理解した。

 シンリは黙ってステフォを取り出すと、ポチポチと文字を打って言った。


「ああクソ!ヒイラギって文字が送れねえ!みなさーん!ヒイラギくんが同級生を奴隷にしました!」

「送られてたまるかぁ!」

「あの、ヒイラギく……いえ、ご主人様」

「ヒイラギでいいよアキヅキさん!むしろヒイラギと呼んで!」

「ご主人様ぁ〜」

「黙れこのロリコン!記憶を変えてやる!」

「うおっ!容赦ねえ!?」


 【蛇眼】を最大限活用しながらシンリを追うヒイラギ。にやけながらヒイラギから逃げるシンリ。その二人を遠目に見つつ、今の状況をどう処理していいかわからずに困ったように笑みを浮かべるアキヅキ。


 そんな三人は、決して長くはないであろう平和な時間を楽しんでいるようにも見えた。

これはちゃんと物語になってますかね……。

とにかく、ここまでが1章ということで。

ひとまずここまで読んでくださってありがとうございます。

三人称のつもりで書いてますが、なんか書けてない気がするので、どこかでいきなり一人称になったりするかもしれません。ならないかもしれません。

何はともあれ、次からも頑張ります。

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