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お読みいただきありがとうございます。

本日2つ目!


8/20 誤字修正しました。

 気が付けばヒイラギは走り出していた。


 あの男はアキヅキではなかった。

 そしてアキヅキは売られようとしている。


 見ず知らずの奴隷の扱いが嫌で、犯罪者にすらなろうとしていたヒイラギだ。知り合いが売られているこの状況で動かないはずがない。


「邪魔だ!」


 ヒイラギは【蛇眼】を使い前方を見渡した。

 耐性スキルを持っていない者は、身体が痺れてその場に倒れる。

 進みやすくなった道を走り、ヒイラギは壇上へと上がった。


「ひ、ヒイラギくん?」

「アキヅキさん。ちょっと待っててね」


 ヒイラギは近くにいたひょろながの男に顔を向けた。


「他の奴隷たちも、彼女みたいに無理矢理連れ去って奴隷にしたのか」


 この世界に来たばかりのアキヅキが借金のカタとして売られるはずがないし、彼女の性格からして犯罪に手を染めるはずがないと思っての判断だが、間違ってはいないだろう。


「ああ、やはり同郷の方でしたか。顔のつくりが似てると思ったんですよ」

「質問に答えろ!」


 叫ぶヒイラギに男はやれやれといった感じに肩をすくめた。


「はて?何のことでしょうか。私の目には奴隷ではなく魔物のペットが見えるのですが」

「魔物?魔物だって?どう見ても彼女は人間じゃないか!そんな言い訳が通じるわけないだろ!」

「通じるんですよね、それが。彼女を見てくださいよ。クリスタルゴーレムそのものじゃないですか。少なくとも、この世界は彼女を魔物だと判断しますよ。正規の方法で街に入ることは出来ないでしょう。ここに入るのだってそれなりに金を積んだ」


 「その分の精算は取れそうだったから払ったんですけど」と、男は言った。


「で、貴方は何がしたいのですか?お客様たちを倒れさせたのは証拠がないのでお手上げとしても、商品を奪うのは流石に犯罪ですよ。あの月狼族を見たでしょう。貴方が行動を起こそうとするのなら私は例え死んでも貴方を奴隷に堕としますよ。そういえば貴方は紹介状で入ってきてましたね。紹介者もそれなりに罰が降るでしょう」


 それと、と続ける。


「貴方も、ついでに言えば彼女も奴隷に忌避感を抱いていましたね。貴方は私を殺そうとするくらいでしたから、競売中に乱入してくるんじゃないのかとヒヤヒヤしてましたよ。入ってきましたけど。まあそれも終盤で、それも知り合いだからでしたけど。結局貴方は自分に関係の無い人間がどうなろうとどうでもよかったんじゃないですか?ちらりと見てましたけど、貴方、帰ろうとしてましたよね?そもそも……」

「いいよ、もう」


 ヒイラギは深呼吸した。


「感情を偏らせるスキルを使って、あの狼男みたいに怒らせて、俺に力ずくでアキヅキさんを奪わせて犯罪者にしようとしてるんだろうけど、意味無いから。だって、その通りだからね。自己嫌悪の方向に感情が偏って軽く死にたいレベル」


 ヒイラギは自嘲気味に鼻で笑った。


「ああ、それは少し厄介ですね。こちらから仕掛ければ、貴方に反撃の正当性を与えてしまう。それでも、商品を奪うのが犯罪なのは変わりませんけど。それともなんです?お金払いますか?」

「いいな、それ。いくらくらい?4000リプくらいしか持ってないけど」

「ははは。話になりませんね」


 ちなみに1リプは10円くらいである。

 馬車賃に使った額も含めて、5000リプくらいがヒイラギがこの世界に来てネイロ村で稼いだお金だ。


「で、どうしますか?このままずっと睨み合いでもしておきますか?私としてはやめて欲しいですけどね。今は見世物として面白がっているお客様も何もなければ帰ってしまう。目玉商品が売れずに上客が帰られるのは商人として痛い」

「じゃあずっとここにいようかな。アキヅキさんが売られないのならそれでいい」

「そうですか」


 男はこれ以上言っても無駄だというように、ふぅとため息をついた。

 それを見て、ヒイラギも少し気を緩めてーー


 飛んできた縄に気が付かず、身体を絡め取られた。

 屈強そうな狼男ですら身動きを封じる縄だ。ヒイラギが抜け出す術はなかった。


「営業妨害です、お客様」

「こ、のっ!」


 ヒイラギはうつ伏せに倒れていたのを仰向けにして、男を【蛇眼】で睨んだ。

 痺れた男は片膝を着いたが、倒れるまでには至らなかった。


「貴方の眼には何かあるみたいですね。まるでバジリスク種……いえ、コカトリス種でしょうか。もしかしたらメデューサという可能性もありますが、いずれにせよ、貴方も魔物ですか?もし人化した魔物に紹介状を渡したなんてことがあれば、紹介者は極刑、というか一族諸共皆殺しされてもおかしくありませんよ」

「あ……」

「なんです?心当たりがおありで?」

「い、いや」


 バジリスクやコカトリスなんてヒイラギは知らないが、【蛇眼】はオロチ種のものらしい。もちろん魔物である。


 街に入るのにどのような審査がされるのかは知らないが、もしかするとステータスで判断されているのかもしれない。

 というか、それ以外に判断材料がない気がする。


 魔物にしか取得出来ない《スキル》があるのなら、称号の【異界人】で全てのスキルを取得できるヒイラギたちが魔物スキルを持っていたとしても不思議ではない。


「は、はは。俺が魔物?ありえないだろ。だって、人の言葉が話せる魔物なんていないんだろ?」

「正確にはいなかった、ですね。そこにいますし」

「いや、だったらなおさらありえないだろ。そもそもアキヅキさんは人間だし、仮に魔物であったとしてもそんな今までツチノコ状態だったものが1箇所に集まるわけがない。そう思わないか?」

「……。なにやら何かを隠しているような言い方ですね。本当に魔物ではないのですか?いえ、魔物ではなくて、彼女のように『魔物として判断されるナニカ』なのではないですか?」

「いや違うって……ちょっと待て。アキヅキさんが魔物じゃないって分かってるのか?なら……」

「話を逸らさないでください。やはり何かを隠していますね。顔に出ています。自慢ではありませんが人の表情をある程度読むことができるんですよ。それで貴方は何を隠しているんですか?貴方も魔物なんでしょう?ならば今すぐ捕まえても……」

「ははははははははははは」


 ヒイラギがいきなり笑いだし、ひょろながの男は疑り深そうな目を向けた。


「なんですか」

「はははははははは、は、は、は。便利なスキルだな【偏執】。本当は怒らせて正当防衛ってのを狙ってたんだけど、疑念に偏って私気になりますってか。いいものいただきましたありがとうございます」

「なぜその名を……」


 ヒイラギの男【蛇眼】に含まれる【視真似】は他人のスキルをコピーするスキルだ。

 ただし、一度視ていることが条件で、コピーしたスキルはLv.1状態であり、そこからのレベルアップはしない。

 ヒイラギは感情を偏らせるスキル【偏執】をコピーし、会話することで相手の疑念を膨らませ、時間を稼いだ。


「もうちょい時間稼げよ。アキヅキの檻はまだ壊せてないぞ」

「結構頑張ったから!最後とか笑うだけで10秒くらい稼いだし!それとあの意味不明なジェスチャーで時間を稼げということを理解した俺を褒めてほしい」


 ヒイラギ以外に見えないシンリは、ヒイラギの縄を腐蝕させて壊していたのだ。


「檻なら俺でも壊せる……と思う。石化させて……石化するよね」

「知らねえよ」

「でも、いいのかシンリ」

「おま、それを俺に聞くのかよ」


 シンリはマジかこいつ的な目でヒイラギを見た。


「後悔しないんだろ?」

「ああ……ああ!」

「さて、と」


 シンリはひょろながの男と向き合った。


「貴方は初めて見る顔ですね」

「そうでもないけどな」

「そうですか。人の顔と名前を覚えるのには自信があったのですが……。それで、貴方も奴隷がお嫌いな……魔物、ですか?」

「そうだな。人間じゃないのは確かだけど、もう魔物ですらないのかもしれない存在、みたいな」

「ふふふ、あっさり認めるその態度。本当に貴方たちは面白い」

「ああ、それと顔と名前を覚えるのが得意なら、俺を忘れるなよ。名前を売る、そのために俺はここに来た。ま、悪名だけどな」


 シンリはヒイラギを一瞥して、アキヅキを檻から出していたのを確認した。


「シンリ!終わった!」

「……今から名乗ろうと思ったのに。まあいいか。シンリ・フカザトだ」

「売る奴隷の名前は必要な情報ですから、ね!」


 男は縄を投げて、さらに他の男の仲間たちもシンリたちに向かって縄を投げる。

 それらを男が操り、予測不能な動きでシンリやヒイラギを拘束しようとするが……。


 それらは全て空中で叩き落とされた。


「ごめん、言い忘れてた」


 叩き落としたのは、二人の狼男。


「売った商品は売れた時にお金を貰うべきだと思うなぁ。じゃないと逃げられた時にどうしようもないだろ?」

「やって、くれましたね」


 シンリは壇上に来る前に、商品の檻や手錠を全て壊していた。


「センリの旦那、他の奴らは全員裏から逃がしましたぜ」

「シンリな。つか早いな」

「シュンリよ、正しくは全員ではない。自分の意思で残った者もいる」

「シンリな。フカザトでもいいよ。じゃあお前らもさっさと逃げとけ」

「感謝するぜ」「感謝する」


 狼男のウルフェンとフォールは高い身体能力で、一回の跳躍で壇上から後ろの出口へと跳んで出ていった。


「ふふふ……あはははは!!ああ!!ああ!!不快だ!不快だ!面白いくらいに不快ですよ!不快なくらいに面白い!忘れませんよシンリ・フカザトォ!!」

「お前はちゃんと呼べるのな。じゃ、さよならー」


 シンリは会場全体に毒を撒き散らした。

 毒の効果は濃度に拠っているらしいので、先程全てを放出したばかりの薄い毒だ。多分、治癒魔法で治るレベル……だとシンリは信じている。

 毒は煙幕のような働きをして、全員の視界を封じた。

 たったひとりを除いて。


「シンリも見えないのかよ!」

「かもんかもん。俺に掴まれ。というか掴め。俺のスカイウォークを見せてやるよ」

「フカザトくんとヒイラギくんって仲良しでしたっけ?」


 微妙に言うべきことが違っているアキヅキを背負って、ヒイラギはシンリの元へと行った。

 結局、レベルが低い【空中歩行】では外に出れるまで至らなかったので、【風魔法】で毒ごと身体を吹き飛ばした。


 天幕を突き破って脱出したが、実はその天幕がどの奴隷よりも高価であったことは、シンリたちが知る由もなかった。

シンリ・フカザト


《称号》

【異界人】【最終者】【生還者】

【疫病神】【毒魔】【害虫駆除】

【苦行者】【災魔】【害獣駆除】

【魔人】【賢者】【聖人】

【聖霊殺し】【森聖霊】【森の主】

【悪人】【善人】【教祖】

【眷族の主】【怨霊殺し】【罪人】


《スキル》

【毒霧 Lv.7】【観察眼 Lv.6】【活性化 Lv.9】

【痛み分け Lv.8】【毒無効 Lv.5】【猛毒耐性 Lv.7】

【衰弱無効 Lv.3】【麻痺無効 Lv.1】【状態異常耐性 Lv.7】

【魔力Ⅲ Lv.8】【災厄の予兆 Lv.8】【キラー:虫 Lv.10】

【穴掘り Lv.10】【疫病耐性 Lv.6】【呪毒耐性 Lv.5】

【睡眠耐性 Lv.5】【苦痛耐性 Lv.7】【痛覚耐性 Lv.8】

【飢餓耐性 Lv.5】【探査 Lv.6】【鑑定 Lv.7】

【収納術 Lv.10】【破魔 Lv.4】【直感 Lv.9】

【腐蝕耐性 Lv.4】【キラー:獣 Lv.6】【人化 Lv.-】

【従命 Lv8】【魔力効率化 Lv.7】【偽装 Lv.2】

【影踏み Lv.1】【空中歩行 Lv.3】【剣術 Lv.3】

【敏捷 Lv.6】【召喚 Lv.10】【聖霊信仰 Lv.-】

【森力 Lv.10】【身体強化 Lv.4】【除霊 Lv.1】

【浄化 Lv.1】【ヒールソード Lv.2】


スキルポイント:29


ーーー


【罪人】:罪を犯した者に贈られる称号。犯罪の成功確率が上がるが、罰の内容も上がる。


シンリ「犯罪犯して強くなるって終わってるなこの世界」

ヒイラギ「そう言うなよ……」

アキヅキ「(私、なにかした?)」

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