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お読みいただきありがとうございます。

「じゃあシンリ、今夜はここら辺で野宿するか?」

「なんでお前は普通に着いてきてるんだ?」


 ネイロ村からさほど離れていない場所。

 手頃な岩に腰掛けながら言ったヒイラギに、シンリはジト目で返した。しかし、シンリも近くにあった岩に腰を下ろす。


「こう考えてみようかシンリ。ただ向かう方向が一緒なだけだと。実際、行き先の選択肢なんて一つしかないし、あながち間違ってもないだろ」

「そう言われればそうだけどさ」


 ステフォの地図機能によりネイロ村の近くには何もないことは分かっている。

 歩きで数日かかりそうな距離の場所に村があり、さらに進んだ場所にそこそこ大きな街がある。

 ネイロ村から出発した2人が同じ目的地を目指すのは当然と言えた。


「まあ、着いて行ってるんだけどな」

「だろうな。もうどうでもいいけどさ」


 ヒイラギがどんな理由でシンリに着いてこようとするのかは分からないが、その話題はここで終わった。

 シンリはヒイラギに、村人たちの記憶を置き換えてもらったという借りがある。

 そのことはヒイラギも分かっているし、シンリが拒み続ければそれを取引材料に持ち出してくるだろう。

 いや、クラスの中心人物であったヒイラギの場合、拒み続ければ空気を読んで引く可能性もあるが。可能性というか、普通の思考の持ち主の場合は拒まれ続ければ引くが。


 まあシンリも、ヒイラギと共にいてメリットががない訳では無い。

 というか、デメリットがない。


 シンリがヒイラギとの行動を拒んでいた理由は、自身の毒を知り合いに知られたくなかったからだ。ついでにいえば自分の近くにいる人を毒で苦しませてしまうからだ。それが嫌だった。

 ただ、それはシンリの気持ちの問題であり、デメリットと呼べるほどのものではない。


 次にメリットを挙げるとするならば、まず普通に考えて1人より2人の方が出来ることが多い。《スキル》というものがある以上、何も出来ない役立たず、というのは絶対にないのだから。

 次に、ヒイラギはシンリよりもこの世界に詳しい。情報を持っている。シンリには分からないことか、彼といることで分かるかもしれない。

 最後に、これが一番重要だが、ヒイラギはこの世界の通貨を持っている。何事も先立つものがなければ始めることすら出来ないのが現実である。世界は金で動いているのだ。


 と、シンリがそんなことをぼんやり考えていると、いつの間にかヒイラギが火を焚いていた。

 ぱちぱちと木が弾ける音がしている。


「火魔法?」

「光魔法」


 ヒイラギは首を振って答えた。


「ほら、小学校の理科の授業で虫眼鏡で紙を燃やしたりしなかった?そんな感じの原理」

「俺のとこはしてないな。言ってることは分かるけどさ。そう言えばお前って高校から入ってきたんだっけか」


 シンリたちの通っていたとある私立高校は、小中高一貫であり、生徒の9割は内部進学しているようなところだった。

 残りの1割がヒイラギのような外部編入組で、それには難易度の高い編入試験をクリアしなければならない。


「そうそう。中学から編入したかったんだけど、学費がなぁ」

「……。私立だからな。お前ん家の場合は二人分だし」

「……ああ、そうだな」


 二人分。

 ヒイラギには双子の妹がいる。

 クラスも同じであったため、彼女もこの世界に来ているはずだ。

 しかし、その身が無事であるという保証はどこにもない。

 ヒイラギ自身、死ぬかもしれないという体験をしたため、この世界における命の軽さを身をもって知ったところだ。

 最悪の場合は……という想像をしてしまい、自然と口数が少なくなる。

 シンリも同じような思考に行き着き、口を閉じる。

 二人の間に沈黙が降りた。風の吹く音や、獣の遠吠えが大きく聞こえる。


 先に声を出したのはシンリだった。


「死なないように《スキル》が与えられたんだから、大丈夫だろ」


 まあ俺はその《スキル》のせいで死にかけたんだけどな、なんてことは言わなかった。言える雰囲気じゃなかった。


「ああ、そうだな」


 ヒイラギがどんな顔をしながら言ったのかは、シンリからは影になっていて見えなかった。



 ガタガタゴトゴト。

 ガタガタゴトゴト。


 翌日、シンリとヒイラギの二人は馬車の荷台に乗って移動していた。馬車というか、馬に似た生物が引いている乗り物というか。名前は知らないが。


「乗せてくれてありがとうございます!」

「気にするな!運賃は貰ってるんだ!予想外の収入にこっちがありがとうございますだよ!」


 彼らがしたことは、有償ヒッチハイクである。タクシーのようなものだ。

 御者はネイロ村の住人で、買出しのために街へ行く途中だったらしい。

 もちろん記憶の置き換えは成功しているし、シンリたちを見たからといって記憶が戻るというようなことは無かった。


「これで随分早く着くな」

「んー……」


 ステフォを弄りながら生返事するシンリにヒイラギは言った。


「人と話す時はスマホを弄るなって言われなかったか?」

「んー……。ステフォだし……」

「屁理屈言うなよ……。ていうか、何を見てるんだ?チャットで面白い話でもしてるか?」


 ヒイラギも開いて見てみたが、そんなことは無かった。


「いや、なんか《スキル》がな」

「どうした」

「随分前にLv.10になって、それからも使ってるのに、変化しないなって。ほら、ⅡとかⅢなるだろ?」

「ⅡはともかくⅢとか見たことないけどな。どれだけ使ったんだよ」


 マジかこいつ、みたいな目でシンリを見た。


「それと、俺が勝手に呼んでるだけだけど、《スキル》には『強化』と『進化』があるんだ。『強化』はまあ、ⅡとかⅢとかになるやつで、『進化』は《スキル》の名前からして変わるやつ。その《スキル》をタッチしたら進化先が表示されないか?」


 シンリは言われた通り、自分の《スキル》の中のLv.10であるものを押してみた。

 いくつかある中で、進化先が表示されたのはヒールだけであった。他のは『強化』も『進化』もない打ち止めということだろう。


 【ヒール】

→【広域ヒール】

→【キュアヒール】

→【ヒールソード】


「スキル説明とかはされないのな」

「名前で大体分かるからじゃないか?」

「分かるけどさ……」


 【広域ヒール】は文字通り、効果範囲を広げたものだろう。

 【キュアヒール】は、傷と同時に状態異常も治すものだろうか。

 【ヒールソード】……。


「なあヒイラギ、【ヒールソード】ってどんなだと思う?」

「んー、切りつけた相手を癒すって感じかな」

「それ【ヒール】でよくね」

「いや、もしかしたら……。シンリ、【ヒールソード】を選んでくれ」


 ヒイラギが真面目そうな顔でそう言った。


「何かあるのか?」

「確証はないけど、それを確かめるために」

「分かった」


 ふざけたり、考えなしに言っているわけではなさそうなので、シンリはヒイラギに従った。

 【ヒール Lv.10】は【ヒールソード Lv.1】に変化した。


「進化させたぞ」

「そのまま、手首あたりから剣を生やすイメージで出してくれないか?」

「こう、か」


 半透明の薄い剣が、手の甲の上に沿って生えてきた。

 剣の長さはそこまで長くなかった。


「それから?」

「ハンド〇ニック」

「は?」

「ハンド〇ニック」

「うん?で?」

「え、終わりだけど?」

「あ、そ」


 ふざけて考えなしに言っていた。


 ゆらりと立ち上がったシンリは無言でヒイラギを刺した。

 半透明の剣は何の抵抗もなくヒイラギの体に吸い込まれ、続いてそのまま拳が当たる。


「痛い!けどすぐ治る!なんだこれ!なんだこれぇ!クセになるからやめて!」

「黙れ変態」


 最後にヒールソードを伴わない蹴りを一発入れて、シンリは元の場所に座った。


「痛い……痛い。ごめん、治して」


 ぷるぷると震えながらそう言うヒイラギの声は、馬車の音にかき消された。

シンリ・フカザト


《称号》

【異界人】【最終者】【生還者】

【疫病神】【毒魔】【害虫駆除】

【苦行者】【災魔】【害獣駆除】

【魔人】【賢者】【聖人】

【聖霊殺し】【森聖霊】【森の主】

【悪人】【善人】【教祖】

【眷族の主】【怨霊殺し】


《スキル》

【毒霧 Lv.7】【観察眼 Lv.6】【活性化 Lv.9】

【痛み分け Lv.8】【毒無効 Lv.5】【猛毒耐性 Lv.7】

【衰弱無効 Lv.3】【麻痺無効 Lv.1】【状態異常耐性 Lv.7】

【魔力Ⅲ Lv.8】【災厄の予兆 Lv.8】【キラー:虫 Lv.10】

【穴掘り Lv.10】【疫病耐性 Lv.6】【呪毒耐性 Lv.5】

【睡眠耐性 Lv.5】【苦痛耐性 Lv.7】【痛覚耐性 Lv.8】

【飢餓耐性 Lv.4】【探査 Lv.6】【鑑定 Lv.7】

【収納術 Lv.10】【破魔 Lv.4】【直感 Lv.9】

【腐蝕耐性 Lv.4】【キラー:獣 Lv.6】【人化 Lv.-】

【従命 Lv8】【魔力効率化 Lv.7】【偽装 Lv.2】

【影踏み Lv.1】【空中歩行 Lv.3】【剣術 Lv.3】

【敏捷 Lv.6】【召喚 Lv.10】【聖霊信仰 Lv.-】

【森力 Lv.10】【身体強化 Lv.4】【除霊 Lv.1】

【浄化 Lv.1】【ヒールソード Lv.2】


スキルポイント:23

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