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「あえて魔法とかもつけさせとこうかな。あ、でも魔法は貴族しか使えないとか設定があったら面倒だし……。いや魔物ですら使えるのにそんなことあるわけないか」
なんてことを言いながら、エルゼに【風魔法】のスキルを付け加えた。
この世界のステータスの平均がどのようなものなのかは知らないが、おそらくやりすぎだろうなと思いながらも、育成ゲームのような感覚でエルゼを強化していた。
流石に【森力】を与えようとしたり、風魔法以外の魔法を与えることはしなかったが。
貴族しか魔法は使えないという設定はなくても、一人につき一つの属性しか使えないという設定はありそうだと思ったのである。
初めての眷族というのがなんだかペットのような可愛いものに思えてきたシンリは、次はエルゼのためにガチャ引いて、それを与えようかな、なんて、本当に美少女育成ゲームのように貢ごうとしていると、シンリがガチャを引く前に、今まで呆然としていたエルゼがベッドから立ち上がって声を発した。
「シンリ、さん」
その声は震えていたが、欠片も悲壮感はなく、まるで嬉し涙を堪えているような、そんな声だった。
「身体が、軽いです。寒かったのに、暖かいです。苦しかったのに、苦しく、ないです……うぇ……歩ける……シン、リ、さん。わたし、わたし……」
ぽつりぽつりと呟くような言葉はやがて嗚咽に変わり、瞳から大粒の涙を流していた。
シンリはそれを見て狼狽えた。
泣いている子供になんて声を掛ければいいのか分からないからだ。しかも、泣いている理由に自分が関わっている。
そんな状況は初めてなため、気の利いたことは言えずに、ただ笑って、エルゼの頭に手を乗せて言った。
「泣かないんじゃなかったのか?」
「無理です……だって、もう歩くこともできないと、思ってたのに……喋ることも辛かったのに……歩けるし、喋れるんです。泣かないなんて、無理ですよ」
それからシンリは、しばらくの間エルゼが泣き止むまで、宥めるように頭を撫でていた。
「身体はもうなんともないってことでいいのか?」
「はい……はいっ。前と変わりすぎて、一周回って変な感じはしますけど」
「まあ、元気なら良かった」
最後にエルゼの頭をくしゃくしゃと強く撫でて、シンリは手をのける。
「一応言っとくけど、俺が聖霊ってことは誰にも言っちゃダメだし、お前が俺の眷族になったって言うのもダメだ」
「はい。わかってます」
「それと多分だけど、お前は普通の人間よりも強くなってると思う。だが、その力を他人に使うなよ。俺はもうこの村からいなくなるから、言うだけしかできないけどさ。そこはお前を信じとくよ。というか、命令な」
眷族は主の命令に逆らえない。
これでエルゼが今まで寝たきりだった分、溜まったストレスが暴走して力に溺れるなんてことにはならないだろう。
まあ元々、そんなことをする性格でもないだろうが。
(三日で何がわかるでもないけどさ)
シンリがエルゼと出会ってから、時間が経っているわけでもないし、そもそも治療の時しか顔を合わせない上にエルゼは会話ができる状態でもなかった。どのような性格かなんてわかるはずもない。
命令というもので縛るのは、シンリにとっても気持ちのいいものではなかったが、これは仕方がないと割り切った。
「え……シンリさん、もう行っちゃうんですか?」
不安そうな表情を浮かべて、シンリを見上げながら言った。
それを見てシンリは何も悪いことなどしていないのに、なんだか悪いことをしてしまったような錯覚を受けた。
エルゼの顔を直視できなくて、視線をそらした。
「そんなに不安になる必要はないって。俺がいなくなっても、お前の身体が元に戻ることはないからさ」
「いえ、そうではなくて……あの……」
エルゼは何かを言いかけたが、結局何も言わずに口を閉じた。
治してもらったのだから、少しでも恩を返したい。そう言おうとした。
けれどそれ以外にも、シンリともっと話がしたい、一緒にいたいという自分勝手な思いが混じっていたことに気が付いて、エルゼは続きを言うことができなかったのだ。
エルゼが黙り込んだことで、シンリも言葉を発するタイミングを逃してしまい、互いに気まずい状況となった。
シンリが視線をさまよわせていると、同じように視線を動かしていたエルゼと目が合って、二人とも慌てて視線を外す。
外した先でも目と目が合って……。
「中学生かよ!」
そんな甘酸っぱい思春期の少年少女のようなことをしてしまい、シンリは思わず叫んだ。
「うお、びっくりした。なんだよシンリ。いきなり叫ぶなんて何かあったか?」
ちょうどヒイラギがそんなことを言いながら小屋の中へ入ってきた。その後ろには、息を切らせたスゼ爺とドゼがいた。
「シンリ殿!エルゼを治せるというのは本当ですか!」
「ヒイラギ……せめて治ってから言えよ。確証はなかったんだし。まあ、治せたけどさ」
「シンリ殿ぉ!」
「なんで俺!?そこはエルゼに抱き着けよ!てか鼻水!離れろ!」
シンリの言葉を聞いて、そして立っているエルゼを見て、スゼ爺は感極まってシンリに抱き着いた。
シンリが変色した手を隠すこともなくスゼ爺を引き離そうとしている傍らで、ドゼが不器用にエルゼを抱きしめていた。ヒイラギもその二人を見ていたため、幸いシンリの右手を見た者はいなかった。
シンリがスゼ爺を引きはがすと、スゼ爺はシンリに土下座をした。最大感謝の土下座だ。
見ているだけのヒイラギは「この世界にも土下座ってあるんだな」とどうでもいいことを言っていたが、当事者のシンリからしてみれば土下座など困る以外の何物でもない。それも高齢者に土下座をされてどうしろというのだ。
スゼ爺は黙ったまま頭を床につけているだけで、一言も喋らない。
なんなんだと思っていると、ドゼとエルゼも土下座をしそうになっていたので、シンリは慌ててスゼ爺に頭を上げてくれと言った。
「村を救ってもらっただけではなく、エルゼまで救ってもらい、もうこの恩は返しきれるものではありません」
「普通順番が逆じゃないか?」
「ヒイラギお前は黙ってろ」
シンリ自身も、「確かに個人を助けるのが先だよな」と少し同意してしまったため、余計に腹が立った。
「前も言ったけど、気にする必要はないですって。お礼はちゃんともらったんですから」
見方を変えればお宅のエルゼをもらいました。とは言わない。言えない。
「しかし、それではわしらの気が済みませぬ……」
そこから数十分にわたって恩を返す返さないの問答が続いた。
最後の方など「返すっつっても金も何もないんだろっ!」「ありませんが何かっ!」「開き直んなよ!」「ですがこの美味なる果実が……」「俺が作ったリンゴじゃねえか!」などとシンリも言葉を崩し、スゼ爺も勢いに任せて言うだけになっていた。
このままでは埒が明かないと、シンリは最後のカードを切ることにした。
「はあ……爺さん。引く気がないのはよくわかった」
「シンリ殿こそ強情だの」
「引かぬなら引かせて見せようってな」
「ぬ?」
シンリはローブの下から右手を出すと、小屋に毒を充満させた。
「悪いな。実は、この村での毒騒動って俺が原因なんだわ。ついでに言うとあの大地震にも俺が関わってる」
「なに……を」
どす黒い霧に阻まれ視界はすこぶる悪いが、どさりと三人分の身体が崩れ落ちた音は聞こえた。
シンリと同じ耐性を持っているエルゼは平気とは言わないまでも、他の三人とは比べ物にならないくらいには症状が軽いだろう。
シンリが霧を操って収束させると、やはりエルゼ以外の者は床に倒れ伏していた。
だが一つ予想と違ったのはエルゼも苦悶の表情を浮かべていたことか。
「そういえば、腐蝕の耐性はあげてなかったな」
そういいながらシンリがエルゼの毒を取り除こうと近寄ると、エルゼは怯えた表情で後ずさった。
「……あー流石にちょっと傷つく……動くな」
そう命令して、【吸収】で毒を吸い取る。今のエルゼは魔力を多く持っているため、ついでに魔力も吸い取り気を失わせた。
それからスゼ爺とドゼとヒイラギの毒を吸い取ってから、シンリは一人小屋を出た。
何も貰わずに村を出る、ヒイラギを連れず一人で行く、予定通りのはずなのに、なんだかシンリの足取りは少し重かった気がした。
シンリ・フカザト
《称号》
【異界人】【最終者】【生還者】
【疫病神】【毒魔】【害虫駆除】
【苦行者】【災魔】【害獣駆除】
【魔人】【賢者】【聖人】
【聖霊殺し】【森聖霊】【森の主】
【悪人】【善人】【教祖】
【眷族の主】
《スキル》
【毒霧 Lv.7】【観察眼 Lv.5】【ヒール Lv.10】
【活性化 Lv.9】【痛み分け Lv.8】【毒無効 Lv.5】
【猛毒耐性 Lv.7】【衰弱無効 Lv.3】【麻痺無効 Lv.1】
【状態異常耐性 Lv.7】【魔力Ⅲ Lv.6】【災厄の予兆 Lv.5】
【キラー:虫 Lv.10】【穴掘り Lv.10】【疫病耐性 Lv.6】
【呪毒耐性 Lv.5】【睡眠耐性 Lv.5】【苦痛耐性 Lv.7】
【痛覚耐性 Lv.8】【飢餓耐性 Lv.4】【探査 Lv.6】
【鑑定 Lv.7】【収納術 Lv.10】【破魔 Lv.4】
【直感 Lv.8】【腐蝕耐性 Lv.4】【キラー:獣 Lv.6】
【人化 Lv.-】【従命 Lv8】【魔力効率化 Lv.7】
【偽装 Lv.2】【影踏み Lv.1】【空中歩行 Lv.1】
【剣術 Lv.3】【敏捷 Lv.4】【召喚 Lv.10】
【聖霊信仰 Lv.-】【森力 Lv.10】
スキルポイント:22
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《称号》
【眷族の主】:眷族を持つ者に贈られる称号。眷族の能力が上昇する。